2006年4月13日(木)および14日(金)に、第20回日本薬物動態学会ワークショップを開催いたします。今回のテーマは「創薬の閉塞感を突破する薬物動態技術」といたしました。
医薬品の研究開発状況は、年々厳しさを増しており、このことは、新規医薬品の承認件数の減少に如実に表れています。厳しい状況は我が国の製薬企業だけの問題ではなく、メガファーマと呼ばれる海外大手製薬企業も程度の差こそあれ同様に苦しんでいます。この15年間でゲノムを始めとして様々な創薬技術が生まれたにもかかわらず、それがパイプラインや承認新薬数に繋がってこない状況を「創薬の閉塞感」と表しました。このような閉塞状況が生まれた要因の一つとして分子レベルでの薬理作用と実際の臨床の間のギャップが大きく、その間を埋める考え方やツールを十分に持ち合わせていなかったことが考えられます。我々はこの創薬プロセスにおけるギャップを埋める強力なツールあるいは切り札となりうるのが薬物動態評価であると考えており、今回テーマを「創薬の閉塞感を突破する薬物動態技術」をしたのはそのような理由によります。
このような状況を踏まえて、本ワークショップでは薬物動態研究に関わる技術に注目し、薬物動態技術がどのように創薬プロセスに関与しうるのか、今後どのような技術を薬物動態研究者は応用すべきかを深く議論することを企図いたしました。近年、進展が著しく、また今後さらに発展すると考えられる4つの分野についてそれぞれセッションを設定し、内外の第一線で活躍しておられる先生方から現状や問題点についてお話しいただきます。参加者の皆様にも加わっていただき、活発な討論の機会になればと期待しております。
1) 探索ADME/Toxスクリーニング
従来から行われてきた「できあがった化合物」の動態研究に加えて、化合物のデザインや選択のための探索動態研究が活発化しています。探索動態研究において、多面的なデータを提供するためのハイスループットスクリーニング、それを可能にするための分析技術とIT技術、「まだ存在しない化合物」の性質を予測するためのin
silico技術、さらにそれらを統合的に解析する技術が様々に検討されています。このセッションでは、まずこうした探索段階における薬物動態研究の現状、問題点についての紹介・討論を行い、さらに将来像やそれに向けた研究の方向性が示される事を期待しております。
2) 非臨床ADMEから臨床動態へ(実験データと数学モデルの融合)
医薬品の研究開発にモデルやシミュレーションを活用する事は、成功確率の向上や研究開発の期間短縮が期待できます。このようなアプローチは臨床開発のみならず、探索研究におけるターゲットバリデーション、PK/PD研究のためのバイオマーカー探索、前臨床研究で得られた動態や薬効データの外挿への応用にも用いられるようになりました。このような研究では実験によるデータの収集とモデルとをいかに適切に組み合わせるかが重要です。探索から臨床までの広い分野における最新の知見と将来像を紹介していただく事を企画いたしました。
3) in vivoイメージング技術を利用したPK/PD
PETやMRIといったin vivoイメージングは、非侵襲的に生体機能を体外からリアルタイムでモニターできる方法として診断医療での利用が活発に行われるようになりました。現在、これらin
vivoイメージングをバイオマーカーとして使用してPK/PD解析を行う事により、化合物やターゲットのproof of concept
(POC)や用量設定に応用する臨床研究が進みはじめました。さらに、in vivoイメージングを利用する事により、生体局所への薬物の移行・集積を経時的にモニターする事が可能となり、従来入手困難であった薬物動態情報が得られるようになっています。このように優れた特質を持つ各種イメージング技術を薬物動態研究や創薬の研究開発にどのように利用するかをご紹介いただきます。
4) 臨床試験推進
このセッションでは、探索研究と臨床研究とを直接結びつける研究活動についてご紹介いただきます。Human Micro Dosing
(H-MD)試験は、元々ヨーロッパの学会(EUFEP)よりNew Safe Medicines Faster(NSMF)と呼ばれる活動の一環として動態研究者を中心に提唱された探索的臨床試験法です。このH-MD試験について、欧州・米国での状況についてコンソーシアム研究を中心に紹介いただきます。H-MD試験については現在わが国でも日本薬物動態学会のサポートを受けた医薬品開発支援機構を中心に検討が開始されようとしており、これについてもご紹介いただく予定です。一方、薬物代謝酵素について、基礎研究から得られた知見を個別化医療等の臨床に応用する事がますます望まれています。この分野の最新知見をご紹介いただきます。これらの討論を通じて、我が国で探索的な臨床試験を推進するための方向性を探る機会としたいと思います。
以上の4セッションに加え、基調講演と特別講演を設定いたしました。薬物動態研究は、今後ますます多様な分野にリンクし、創薬における重要な位置を占めるようになると考えます。今回は医薬品の探索、イメージング診断、個別化医療に関する分野でそれぞれ第一人者としてご活躍されている先生方に基調講演、特別講演をお願いいたしました。薬物動態研究に何が求められているのか、という事についてそれぞれのご専門の立場からご意見を拝聴できるものと期待しています。
最後になりましたが、参加される方々の活発な討論が本ワークショップをより一層価値ある物にすると存じます。是非、多くの方々にご参加いただき、討論に加わっていただきますよう世話人一同を代表してお願い申し上げます。
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