Newsletter Volume 31, Number 5, 2016

DMPK 31(5)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

OATP阻害作用により誘発される副作用を考慮した探索段階におけるOATP阻害リスククライテリアの設定

Nakakariya, M., et al., pp. 333–339

 製薬企業において開発化合物がOATP阻害作用による薬物間相互作用を引き起こすか否かを判断することは,使用者の安全を守り市場価値の高い薬物を創出する上で重要である.そこで本研究では,ヒット化合物創出段階から適用可能な探索段階におけるOATP阻害リスククライテリアを設定した.Atorvastatinによる横紋筋融解症の発症リスクは,薬物併用下でAUCが有効量投与時よりも9倍上昇した場合に高かった.OATP1B1阻害剤併用時におけるatorvastatinのAUCは,in vitro IC50値が1μmol/L以下の薬物併用下において単剤投与時よりも6倍以上上昇した.高bilirubin血症および黄疸の発症リスクは,OATP1B1に対するIC50値が5μmol/L以下の薬物投与下で高かった.

 以上より,OATP1B1阻害作用により誘発される副作用発症リスクの観点から,OATP1B1阻害リスククライテリアとしてIC50値が1μmol/L以下の場合をハイリスクとした.本リスククライテリアは,ヒトにおける動態予測を必要としないことから,化合物探索の早期におけるスクリーニングおよび最適化検討に役立つことが期待される.

 

[Regular Article]

ESE-3を介したABCB1遺伝子の新規転写制御機構

Kameyama, N., et al., pp. 340–348

 薬物排泄トランスポーターであるABCB1は,抗結核薬リファンピシンにより核内受容体pregnane X receptor (PXR) の活性化を介して発現が誘導される.我々は,結腸癌由来LS180細胞および肝癌由来HepG2細胞にリファンピシンを曝露した際,両細胞にPXRが発現しているにも関わらず,ABCB1の誘導がLS180細胞でのみ認められることを見出した.本研究では,cDNAサブトラクション法を用いてLS180細胞選択的に発現する因子群を単離し,その中から,epithelial specific ETS factor family member 3 (ESE-3) がLS180細胞におけるABCB1の誘導に関与する転写因子であることを明らかにした.ESE-3はリファンピシンにより活性化したPXRがABCB1遺伝子を転写活性化するために必要な因子であることから,今後さらに詳細な機構を明らかにしていきたい.

 

[Regular Article]

CYP1A2による代謝反応の部位選択性と生成順位の予測
その1 多環炭化水素及び類縁体を中心に

Yamazoe, Y., et al., pp. 363–384

 酵素構造モデルに基質を当てはめるのではなく,基質構造の重ね合わせから機能空間を再構成する, Reverse enzymology的な方法を用いてヒトCYP1A2の代謝部位と生成順位を知る方法を開発しました.基本的にはテンプレート上の配置によって反応順位が定まり,代謝部位も特定されます.この方法では,いわゆる“はめ込み”では説明できない基質反応の可否が想定機序情報を含めて判断でき,代謝の立体選択的部位と同一基質内での生成順位を知ることが可能になりました.例えばCYP1A2がなぜクマリンの7位でなく3位を酸化するか,1,4-ジメチルナフタレンがなぜ強い阻害を示すのかなどをテンプレート上の配置から予測し,要因を知ることが可能です.非PAH基質の多くについては続報に記述する予定です.