Newsletter Volume 31, Number 1, 2016

展望

山梨義英 

ベストポスター賞を受賞して

東京大学医学部附属病院 薬剤部
山梨義英

 この度,第30回日本薬物動態学会年会において我々の研究内容が,栄誉あるベストポスター賞に選出されたこと,大変光栄に思います.選考委員の先生方に,心より御礼申し上げます.

 本研究は,臨床で報告されていたビタミンKアンタゴニストの抗血液凝固薬ワルファリンと脂質異常症治療薬であるコレステロール吸収阻害剤エゼチミブの薬物相互作用(ワルファリンの作用がエゼチミブにより増強する)から着想を得たものです.この薬物相互作用の機序は不明でしたが,我々は,「エゼチミブの標的蛋白質であるコレステロール吸収トランスポーターのNiemann-Pick C1-like 1(NPC1L1)が,ビタミンK1(食餌中ビタミンKの約9割を占める)の消化管吸収も担うのではないか?」と仮説を立てて研究を進めました.その結果,NPC1L1がビタミンK1の消化管吸収の大部分を担うこと,また,機序不明であったワルファリンとエゼチミブの薬物相互作用は,エゼチミブによるビタミンKの吸収阻害に起因した肝臓中ビタミンK濃度の低下が原因であることが明らかとなりました.さらに,東京大学医学部附属病院の電子カルテ情報に基づく調査から,両薬物間の相互作用は特異体質的なものではなく,ビタミンKの吸収阻害により誰にでも生じうることが明らかとなりました.研究の詳細は当院からのプレスリリース(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20150219.html)も参照ください.

 私は,学部4年生時に東京大学医学部附属病院薬剤部に配属が決まり,それ以来,脂質の体内動態(とくに消化管吸収と胆汁排泄)に関する研究を進めて参りました.博士の学位を取得後は,ニューヨーク大学メディカルセンターに2年間留学し,2013年から再び,薬剤部の助教として,脂質動態の制御機構とその破綻が生体に及ぼす影響について研究を進めています.研究を始めた当初は,脂質動態を解析するための設備やノウハウが研究室に全くない状況で,実験系の構築にとても苦労しました.しかし,スタッフの先生方や学生達と粘り強く取り組んだ甲斐あって,今回の重要な発見に繋がったことを大変うれしく思います.最近は,病院職員として業務に携わるなかで,臨床上の様々な問題に遭遇する機会が多くなってきました.このような問題点を基礎研究で解明し,得られた成果を少しでも臨床にフィードバックできるよう,今後も基礎と臨床の両面から研究に励みたいと思います.

 最後に,本研究を遂行するにあたり,ご指導・ご協力を賜りました当研究室の鈴木洋史教授,高田龍平講師,山本武人講師,豊田 優特任助教,ならびに学生の皆様にこの場を借りて深く御礼申しあげます.