展望
DMPK賞を受賞して高橋 圭1),辰巳直之1),深見達基1),横井 毅2),中島美紀1)1) 金沢大学大学院 薬学系研究科 薬物代謝化学研究室(現 薬物代謝安全性学研究室) |
この度,我々の論文「Integrated analysis of rifampicin-induced microRNA and gene expression changes in human hepatocytes」が2015年度DMPK賞1位に選ばれたこと,大変光栄に存じます.選考くださいました編集委員の先生方に心より感謝申し上げます.
薬の体内動態に大きな寄与を占める薬物代謝酵素やトランスポーターの発現制御において,転写因子や核内レセプターを介した転写調節機構に関する情報がこれまでに数多く報告されてきました.しかしながら,蛋白質発現量とmRNA発現量との間に相関関係が認められないことがあり,転写後における発現調節機構の存在が示唆されています.これまでに当研究室では,転写後の翻訳抑制機能を有するmicroRNA(miRNA)が,薬物代謝酵素およびその発現を制御する転写因子の発現調節に関与しており,薬物動態を制御する重要な因子であることを明らかにしてきました.しかしながら,miRNAの発現変動の機構に関しては,未だ不明な点が多いです.本研究では,miRNAの発現変動における転写または転写後レベルの調節機構の関与,また,mRNAの発現変動との関係を明らかにすることを目的としました.
様々な薬物代謝酵素やトランスポーターの発現を制御する核内レセプターpregnane X receptor(PXR)のリガンドであるリファンピシンをヒト初代培養肝細胞に処置し,miRNAの発現変動とmRNAの発現変動をアレイにより網羅的に解析しました.その結果,PXR活性化により2倍以上の増加を示す23種類のmiRNAおよび1/2以下の減少を示す17種類のmiRNAを見出しました.miRNA遺伝子は主に宿主遺伝子のイントロン上に存在するため,宿主遺伝子と同様の転写調節を受けると予想されましたが,実際には,miRNAとその宿主遺伝子の発現変動は必ずしも対応しませんでした.このことから,miRNAの発現変動は転写調節機構のみで単純に説明できないことがわかりました.また,miRNAは標的mRNAの分解機能を有することも知られており,いくつかのmiRNAの発現変動が,その標的遺伝子の発現の変化に繋がっている可能性も示されました.リファンピシン処置により肝臓中miRNAの発現が変動するという新しい知見が得られ,その薬理学的・生理学的意義の解明が今後の課題と考えております.