展望
ベストポスター賞を受賞して金沢大学医薬保健研究域薬学系薬物代謝安全性学研究室
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この度,第30回日本薬物動態学会年会において,栄誉あるベストポスター賞をいただき,誠にありがとうございます.ご審査いただきました選考委員の先生方を始め,ポスター会場で有意義なご意見をくださいました皆様に厚く御礼申し上げます.
私は,『肝糖新生における核内受容体PXRのグルコースセンサーとしての新機能解明』という演題で発表させていただきました.本研究は,アメリカ国立環境衛生科学研究所における留学中に,根岸正彦先生の指導の下で行った研究を継続,発展させたものです.Pregnane X receptor (PXR)は肝臓に高発現し,薬剤により活性化される転写因子で,特に臨床で使用されている医薬品の50%以上もの代謝に関与する薬物代謝酵素CYP3A4の主要制御因子であることから,創薬研究および薬物動態研究において重視されてきました.薬物代謝制御に加えて,PXRは糖代謝などのエネルギー代謝の制御に関与することが報告されています.私はこれまでに,ヒト初代培養肝細胞において,スタチン誘導性の肝糖新生酵素遺伝子の発現亢進および糖産生増加を見出し,PXRと細胞内シグナル因子serum/ glucocorticoid-regulated kinase 2 (SGK2) が制御することを明らかにしてきました (Gotoh and Negishi, JPET, 2014; Gotoh and Negishi, Sci Rep., 2015).同定したスタチン誘導性の肝糖新生亢進メカニズムでは,スタチンにより活性化したPXRがSGK2の193番目のスレオニン残基の脱リン酸化を促進する足場タンパク質として機能することを示しました.
本研究では,生理的条件下においても,PXRを介したSGK2の脱リン酸化が起こり,糖新生が増加することを仮定して,その動作スイッチを探索するとともに,糖新生制御におけるPXRの機能的役割を明らかにすることを目的としました.解析の結果,低グルコース濃度に応答して,リン酸化酵素vaccinia-related kinase 1 を介したPXRの350番目のセリン残基のリン酸化が起こり,リン酸化型PXRがSGK2の脱リン酸化を促進することで,糖新生が増加することを明らかにしました.このことからスタチンは,低グルコースの代替刺激としてPXRに作用し,糖新生を亢進させることがわかりました.今後,本研究で同定したPXRを介した糖新生制御メカニズムをベースとして,医薬品の副次的作用を理解することや,メタボリックシンドロームを代表とする代謝性疾患の治療学分野に有用な知見を与えることを期待しています.
最後に,本研究の遂行に際して,終始,ご懇篤なご指導,ご鞭撻を賜りました根岸正彦先生,ならびに実験を進めるにあたり数多くの助言やご協力をいただきました末吉達也博士ならびにRick Moore 氏にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.今回の受賞を励みに,現在所属しております金沢大学においても,より一層研鑽を積んで参りたいと思います.