[Regular Article]
Amifuji, M., et al.
中分子環状ペプチドは,優れた標的特異性を示す創薬モダリティとして期待を集めています.環状ペプチドを医薬品として創製するためには,薬物動態研究を加速することが望まれます.特に,細胞内濃度を規定する細胞膜輸送及び細胞内における代謝の分子機構を明らかにすることが重要です.そこで本研究では,V-ATPase阻害活性によって多様な薬理活性をもつ環状デプシペプチドDestruxin Eに着目しました.本論文では,ヒト子宮頸がん細胞株(HeLa細胞)を用いて,Destruxin Eは可溶性エポキシドヒドロラーゼ(EPHX2)によって代謝され,その代謝阻害によってV-ATPase活性が増強することを見出しました.さらに,Destruxin Eの代謝物は,P-gpおよびBCRPを介して細胞外に排出されることを明らかにしました.今回得られた知見をもとに,より高活性の環状ペプチドの設計や環状ペプチドの体内動態予測法の構築につながることを期待したいと思います.
[Regular Article]
Sakaguchi, K., et al.
本研究では,消化器疾患患者におけるボノプラザンの薬物動態およびCYP3A活性に着目し,その特徴を明らかにした.ボノプラザンの血中濃度はCYP3A活性の内因性マーカーである4β-ヒドロキシコレステロール濃度と負の相関がみられたことから,ボノプラザン代謝にCYP3A活性が関係していることが観察された.CYP3A5遺伝子型は4β-ヒドロキシコレステロール濃度を変化させたが,ボノプラザン濃度には影響を与えず,ボノプラザンの代謝には主にCYP3A4が関与することが示された.組み換え代謝酵素タンパク質を用いたin vitro実験でも同様の結果を確認している.4β-ヒドロキシコレステロール濃度はCYP3A活性を説明できており,ボノプラザンの適切な投与量を決定するマーカーとして有用である可能性があるため,今後,適切な投与量を決定する個別化医療への貢献に期待する.
[Regular Article]
Miyazaki, T., et al.
mTOR阻害剤であるシロリムス(SRL)は,その特性から様々な疾患の治療薬として期待されているが,日本人のSRLの薬物動態データは限られており,特に乳幼児を含む小児の顆粒剤投与時のデータは皆無であった.さらに,SRLの治療域は狭く,かつ小児患者においてはクリアランスが異なることが報告されている.そこで,我々は,乳児を含む小児から成人患者が対象である難治性脈管異常の開発を進めながら,SRLの適正な用量決定を目的として,日本人215例(1282ポイント)の血中濃度を使用して非線形混合効果モデルを用いた母集団薬物動態解析を実施した.その結果,SRLの血中濃度は,体重,年齢,CYP3A4誘導薬の有無,ヘモグロビン量等に影響を受けることが明らかとなった.このモデル化により,患者の状態に応じた血中濃度シミュレーションが可能となり,臨床現場における個々の患者の用量の調整に役立つことが期待される.
[Regular Article]
Watanabe, A., et al.
ループス腎炎治療薬であるボクロスポリンは親油性の環状ペプチドであり,臨床試験で食後の吸収低下が認められている.本研究では,生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いて,ボクロスポリンの食後の吸収低下の原因を究明した.初めに,ボクロスポリンはP糖タンパク質及びCYP3A4の基質であることから,それらを発現するヒトiPS 細胞由来小腸上皮細胞の膜透過性を評価し,PBPKモデルにその膜透過を組み込み,空腹時の血中濃度推移を良好に予測できた.次に,ボクロスポリン及び食事成分との物理化学的な相互作用を評価し,PBPKモデルにその食事成分との吸着率を組み込み,低脂肪食及び高脂肪食時の血中濃度推移を良好に予測できた.これらの結果から,ボクロスポリンの食後の吸収低下の主な原因は,食事成分との物理化学的な相互作用であると考えられた.今後,本技術が食後の吸収低下を受けない環状ペプチド薬の創製に役立つことがあれば幸いである.
「DMPK著者から読者へのメッセージ」は本号で終了となります.次号からは,DMPK掲載論文の一覧を,abstractへのリンクとともにニュースレターで紹介していきます.これまでのご愛読,ありがとうございました.
|