[Review Article]
Toshimoto, K.
近年の薬物動態および薬理データの定量的解釈において,PBPKモデルやQSPモデルを用いてM&Sを実施する機会が増えています.M&Sでは実測データを再現するためにモデルのパラメータ推定を実施します.PBPKおよびQSPモデリング用のソフトウェアパッケージは,さまざまなパラメータ推定アルゴリズムを提供しますが,最も適切な方法を選択するには,モデル作成者は各アプローチの基本概念を理解する必要があります.本総説では,まずパラメータ推定を行う際のいくつかの重要なポイントと,よく用いられるパラメータ推定アルゴリズムを紹介します.後半では,代表的な5つのパラメータ推定アルゴリズムの性能評価を,3つのPBPKおよびQSPモデリングの例を使用して行いました.内容上,いくつかの数式が現れますが可能な限り平素な表現を心掛けました.本総説がM&S初心者のパラメータ推定の基本的な理解および経験者の更なる深い洞察を得る一助となれば幸いです.
[Review Article]
Oishi, M., et al.
従来のModeling and Simulation(M&S)は,Mechanism of Action(MoA)が明らかな化合物のデータの定量的解釈に対しては非常に強力なアプローチである一方,想定しているMoA自体の妥当性検証を行う研究初期段階での課題解決への適用には限界がありました.Quantitative Systems Pharmacology(QSP)は,仮説を数理モデルで記述したうえで観測値と比較して解釈を行うという手法であるため,従来のM&Sでは解決できなかった研究初期の課題に切り込むことができる可能性があります.本総説では,QSPの活用が活発ながん領域の事例をもとに,非臨床段階のどのような課題に対して,どのようにQSPを活用することが効果的であるかを具体的な事例を交えて紹介しています.また,Mechanistic PK/PDとQSPはどう違うのか?といった現場のM&S担当者の皆様がお持ちであろう疑問について,私たちの経験からの一つの答えを提示させていただいています.QSPの登場により,非臨床M&S研究者は臨床試験の成功確率向上のための新たな貢献ができるようになりました.本総説が皆様の研究のご参考になれば幸いです.
[Regular Article]
Sakaue, T., et al.
腎移植後の拒絶反応を抑制するために複数の免疫抑制薬が投与されるが,カルシニューリン阻害薬による腎症を軽減する目的で,カルシニューリン阻害薬を減量しながらmTOR阻害剤であるエベロリムスが併用される.エベロリムスは治療域が狭く,TDMに基づく投与量調節が必須であるものの,投与設計に適用可能な母集団薬物動態モデルの報告がなかった.そこで,185名の腎移植患者から得られた中央値として腎移植後35.3か月の血中濃度測定値3,358点を用いて母集団薬物動態モデルを構築した.さらに,エベロリムスのクリアランス変動因子であるタクロリムス投与量標準化トラフ値とヘマトクリット値を用いて投与設計を行うことで,投与初期から高い確率でエベロリムス血中濃度を治療域に到達させることが示された.本モデルを用いた投与設計が,慢性拒絶反応やエベロリムスによる副作用の回避につながることを期待する.
[Regular Article]
Nagai, Y., et al.
トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は,抗ヒト上皮成長因子受容体タイプ2(HER2)抗体とペイロードであるトポイソメラーゼI阻害剤DXdから構成される抗体-薬物複合体です.本研究では,作用機構解明の一環としてT-DXdの腫瘍内での挙動を検討しました.HER2陽性腫瘍細胞移植マウスに投与したT-DXdの全身分布を検討したところ,T-DXdは腫瘍に集積しました.In vitro腫瘍細胞における細胞内動態の観察では,HER2発現量に応じて,T-DXdがDXdの遊離の場となるリソソームへと移行することを確認しました.抗DXd抗体を用いた半定量的免疫組織化学アッセイ(PIDアッセイ)により,T-DXdを投与した担癌マウスの腫瘍切片における分布を観察したところ,存在形態は不明ではあるものの,核内にDXd由来のシグナルを確認しました.DXdの存在形態を更に検討するため,抗体部分を蛍光標識したT-DXdのHER2陽性腫瘍細胞における分布を観察したところ,抗体部分は核内にほぼ観察されなかったことから,PIDアッセイで核内に観察されたDXd由来シグナルは遊離したDXdを示すことが示唆されました.本研究では分布の観点から,DXdを核内に送達するというT-DXdの作用機構の一端を明らかにしました.
[Regular Article]
Shiho, M., et al.
過活動膀胱治療に用いられる抗コリン薬は,膀胱の粘膜および平滑筋のムスカリン受容体を遮断して薬効を発揮します.しかし過活動膀胱治療薬のヒト血中濃度は膀胱ムスカリン受容体遮断濃度に達しません.本研究では5種の過活動膀胱抗コリン薬について,血中濃度よりはるかに高くなる尿中濃度を文献情報に基づいて算出し,ヒト膀胱ムスカリン受容体占有率の新規予測法を考案しました.尿中濃度を用いて算出した膀胱ムスカリン受容体占有率は,いずれの薬物でも90%以上に達し,膀胱での受容体遮断に基づく薬効発現が期待できました.また口渇の副作用発現組織の唾液腺のムスカリン受容体占有率を血中非結合形濃度から算出したところ,いずれも唾液腺より膀胱でのムスカリン受容体占有率は高く,膀胱への選択性を示すことができました.本研究で考案した膀胱ムスカリン受容体占有率の新規予測法が,過活動膀胱薬物療法の個別最適化や膀胱選択的な医薬品開発へ応用されることを期待します.
[Regular Article]
Kataoka, M., et al.
我々は,CYP3A4基質薬物の体内動態を改善することを目的とした安全性が高いブースターの開発を実施している.ブースターのCYP3A4阻害活性が標的部位(特に小腸上皮細胞)でのみ示し,その後,速やかに活性が消失する(アンテドラッグメカニズム)ことで従来のものより,時間依存的あるいは全身性の阻害作用を示しにくいと考えられる.これまで分子内にイミダゾール環とエステル結合を有した新規化合物群の合成とそのCYP3A4阻害活性について報告している.そこで本研究では,新規化合物群のアンテドラッグメカニズムについて検証した.エステル結合を有する新規化合物群は,ラット肝ミクロソーム中で速やかに加水分解されることが明らかとなった.また時間依存性試験より,イミダゾール環とカルボキシ基を有する加水分解物ではCYP3A4を阻害しないことが示された.以上のことから新規化合物群は,アンテドラッグメカニズムを有した安全性が高いブースターとしての可能性が示された.今後は,当該化合物群の他の薬物代謝酵素に対する阻害活性や加水分解部位特異性などを明らかにする予定である.
[Regular Article]
Kido, Y., et al.
P-gp基質のin vitro DDI評価に用いるCorrected Efflux Ratio(CER)からDDIリスクを定量的に議論することは難しい.そこで我々はCER≥2を示す207個の探索化合物と16種の市販薬をマウスに経口投与した時,P-gpのノックアウトにより生じる血漿中濃度の影響と膜透過性(LLC-PK1細胞)との関係を検証し,DDIのリスクが低下する膜透過性のcut-off値を設定した.また,P-gp基質と阻害剤併用に関する臨床DDIデータベースを基にP-gpノックアウトマウスと野生型マウスのAUC比に関するcut-off値を定め,これらのcut-off値からP-gp基質のDDIリスクを予測するためのwork-flowを作成し,実際に高いCERを示した探索化合物について臨床DDI試験でのリスク予測に成功した.本稿は過去9年間のデータによる経験則であり創薬研究のご参考になれば幸いである.
[Regular Article]
Sakai, Y., et al.
加水分解酵素arylacetamide deacetylase (AADAC) はヒト個人肝臓23検体においてmRNAとタンパク質発現量の間に有意な正の相関関係が認められないことから,転写後調節を受けることが示唆された.本研究では,AADACの発現がmicroRNAにより制御される可能性と,医薬品および脂質代謝に与える影響を明らかにすることを目的とした.In silico解析から,AADACの3’-非翻訳領域に結合予測配列が2つ存在し,肝臓中の発現量が高いmicroRNAであるmiR-222-3pに注目した.肝がん由来細胞株やヒト肝臓キメラマウス由来肝細胞にmiR-222-3pを過剰発現させると,AADAC mRNA発現量は変動しなかったものの,AADACタンパク質発現量とフルタミド加水分解酵素活性が有意に減少した.また,miR-222-3p過剰発現は細胞内脂肪蓄積を増大させ,そこにAADACを過剰発現させるとその増大が抑制された一方,miR-222-3pの阻害は細胞内脂質蓄積を減少させ,AADACのノックダウンによりその減少が回復した.以上より,miR-222-3pによる脂肪蓄積の促進にAADACの発現抑制が寄与することが示された.今後,AADACが脂質蓄積を制御する機構を明らかにする必要がある.
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