ニュースレター編集委員会より

はじめに

 はじめに,1月1日の能登半島地震により被災された全ての皆さまに謹んでお見舞い申し上げます.皆さまの安全と一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます.

 昨年来,国内では政治資金パーティーの問題に加え,芸能の世界においても様々な旧来の膿があぶりだされるような出来事が続いております.世界に目を向けると,今もなお続くウクライナ・ロシア間の紛争や,パレスチナ・ガザ地区へのイスラエル軍の進行とイエメンの武装組織拠点への米英軍攻撃など,激動と混迷の時を感じさせる出来事が多いですが,一方で良い意味で新たな時代の到来を感じさせる明るいニュースもあります.科学の分野では,昨年,NIHがヒトゲノムの参照配列「パンゲノム」を約20年ぶりに更新.従来の参照配列と比較し,人種的多様性をはるかに備えたものとなっており,今後の個別化医療の進展へ大きく役立つと期待されます.また昨年はChatGPTをはじめとする生成AIの利活用・開発が飛躍的に進展.音声を聞いている脳活動からその内容の単語やフレーズ,文章を復元したり,無音の動画を見ている脳活動からもシーンの内容を説明する文章を復元できる技術(セマンティック・デコーダー)も開発されています.

 干支でみますと,2024年は「甲辰(きのえたつ,こうぼくのたつ,こうしん)」の年とのこと.「甲辰」の「甲」は,十干において1番目にあたり,物事の始まりや成長という意味があるそうで,めまぐるしく変化する時代の中でも,特にダイナミックな変化やパラダイムシフトが起こるような節目の一年となるかもしれません.我々薬物動態研究者にとっても,最先端の科学技術の発展と連動しながら,病気で苦しむ患者さん達にとって真に価値となるような画期的な研究成果やアイデアが次々と生み出せるような一年となるといいですね!

 さて,昨年11月の代議員総会で加藤将夫会長,楠原洋之副会長をはじめとする第18期役員が就任し,ニュースレター委員会も一部メンバーの入れ替えを含めた新体制として活動を開始しています.今後も,薬物動態研究の更なる発展に微力ながら貢献できるよう,会員間の情報交換や会員からの情報発信の場として,魅力ある内容のレターづくりに努めていきます.引き続き,皆様のご支援のほど,どうぞよろしくお願いいたします.(Y.N.)

【受賞者からのコメント】

  • ベストポスター賞を受賞して(高岡尚輝)
  • ベストポスター賞を受賞して(酒井慶之)
  • ベストポスター賞を受賞して(上原正太郎)
  • ベストポスター賞を受賞して(山梨義英)
  • ベストポスター賞を受賞して(明石知也)
  • ベストポスター賞を受賞して(矢田浩晃)
  • ベストポスター賞を受賞して(荒川 大)
  • ベストポスター賞を受賞して(橋本芳樹)
  • ベストポスター賞を受賞して(大木聖矢)
  • Best Poster Award -comment from the winner- (Siyu Liu)
  • ベストポスター賞を受賞して(中山美有)

【動態研究に取り組むNEW POWER】

  • 新奇なトランスポーターに魅了されて(苫米地隆人)

【今さら聞けない抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の体内動態研究】

  • 第3回:ADCのバイオアナリシス~複雑な構成成分をどのように定量するか?~(羽原 広)

【DMPK 54に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」】

  • Mechanistic static pharmacokinetic (MSPK)モデルを用いたトランスポーターを介した相互作用の定量的予測
  • 公知の材料であるヒト凍結腸管上皮細胞からのヒト腸管オルガノイドの樹立と薬物動態学的評価
  • プログアニルの代謝活性化に及ぼすボノプラザンの影響の生理学的薬物速度論モデル解析
  • LC-MS/MSによるフルチカゾンプロピオン酸エステルの血中濃度定量法の開発と臨床用量の点鼻投与後の薬物動態解析

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受賞者からのコメント

顔写真:高岡尚輝

ベストポスター賞を受賞して

和歌山県立医科大学 薬学部 衛生薬学研究室
高岡尚輝

 この度は,日本薬物動態学会第38回年会におきまして,「Metabolism of aldehyde odorants by nasal aldehyde-metabolizing enzymes and their inhibition by drugs」という演題で,ベストポスター賞という栄誉ある賞を賜り大変光栄に思います.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:酒井慶之

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 創薬科学専攻
薬物代謝安全性学研究室
酒井慶之

 この度,日本薬物動態学会第38回年会第23回シトクロムP450国際会議国際合同大会におきまして,「Role of hepatic arylacetamide deacetylase in cholesterol/bile acid homeostasis」という演題でベストポスター賞をいただき大変光栄に思っております.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:上原正太郎

ベストポスター賞を受賞して

公益財団法人実験動物中央研究所
実験動物応用研究部 ヒト臓器/組織モデル研究室
上原正太郎

 このたび日本薬物動態学会第38回年会において『Metabolism and renal toxicity of SGX523 in chimeric mice with humanized liver』という演題で,ベストポスター賞を賜り大変光栄に存じます.選考委員の先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:山梨義英

ベストポスター賞を受賞して

東京大学医学部附属病院 薬剤部
山梨義英

 この度,日本薬物動態学会第38回年会におきまして,「Hepatic NPC1L1 exacerbates NAFLD by suppressing biliary excretion of oxysterols」という演題で,栄誉あるベストポスター賞を賜り大変光栄に思います.ご審査いただきました先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:明石知也

ベストポスター賞を受賞して

田辺三菱製薬株式会社 創薬本部 薬物動態研究所
明石知也

 この度は,日本薬物動態学会第38回年会におきまして,「Mechanism of inhibition and transport of human SGLT2-MAP17 glucose transporter」という演題でベストポスター賞に選出頂き誠にありがとうございます.学会運営ならびに賞の選考に関わっていただいた皆様に深く感謝申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:矢田浩晃

ベストポスター賞を受賞して

徳島大学薬学部 創薬理論化学分野
矢田浩晃

 この度,日本薬物動態学会第38回年会におきまして「Glucose transporter-mediated transport of newly synthesized creatine analog in human blood-brain barrier endothelial cells」の演題で,栄誉あるベストポスター賞をいただき,誠にありがとうございます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:荒川 大

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学 医薬保健研究域 薬学系
荒川 大

 この度,日本薬物動態学会第38回年会/第23回シトクロムP450国際会議国際合同大会におきまして「Utility of high content analysis of drug-induced kidney injury using 3D-cultured kidney epithelial cells」の演題でベストポスター賞を授与頂きました.大会長の吉成浩一先生・永野真吾先生をはじめ,日本薬物動態学会関係者の皆様に深く感謝申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:橋本芳樹

ベストポスター賞を受賞して

東京大学大学院 薬学系研究科 分子薬物動態学教室
橋本芳樹

 この度,日本薬物動態学会第38回年会/第23回シトクロムP450国際会議国際合同大会において,ベストポスター賞を賜り,大変光栄に感じております.大会長の吉成浩一先生・永野真吾先生をはじめ,審査頂きました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係者の皆様に深く感謝申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:大木聖矢

ベストポスター賞を受賞して

東京薬科大学 個別化薬物治療学教室
大木聖矢

 この度,日本薬物動態学会第38回年会・第23回シトクロムP450国際会議国際合同大会において,ベストポスター賞という名誉ある賞をいただきまして大変光栄に思います.この場を借りて,審査いただきました選考委員の先生方,並びに関係者の皆様に心より御礼申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:Siyu Liu

Best Poster Award -comment from the winner-

Siyu Liu
Center of Excellence for Drug Metabolism, Pharmacokinetics and Modeling
Preclinical and Translational Sciences, Research
Takeda Pharmaceutical Company Limited

I’m deeply pleased and honored to receive the best poster award from expert professionals of the JSSX for our presentation entitled ‘Establishment of a workflow for spatial pharmacokinetics analysis using three-dimensional (3D) microscopic imaging data’. It’s our privilege to be recognized by the JSSX committee. ・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:中山美有

ベストポスター賞を受賞して

武田薬品工業株式会社 薬物動態研究所
中山美有

 この度は,第38回薬物動態学会年会において『Microenvironmental pharmacokinetic/pharmacodynamic analysis of antisense oligonucleotides: in situ hybridization with super-resolution microscopy and direct nuclear isolation』という演題で,ベストポスター賞を賜りました.このような大変栄誉ある賞をいただき光栄に存じます.・・・(続きはNLホームページへ

動態研究に取り組むNEW POWER

顔写真:苫米地隆人

新奇なトランスポーターに魅了されて

北里大学薬学部 薬剤学教室
苫米地隆人

 北里大学薬学部の苫米地隆人と申します.この度は,日本薬物動態学会ニュースレターに寄稿する機会をいただき,編集委員の皆様をはじめ関係者の皆様に感謝申し上げます.私は2013年に東京薬科大学薬学部に入学し,学部4年次から井上勝央先生が主宰される薬物動態制御学教室に配属となり,研究人生がスタートしました.2019年には同大学大学院博士課程に進学し,2023年3月に学位を取得しました.同年4月からは前田和哉先生が主宰される北里大学薬学部の薬剤学教室に着任し,研究と少しずつですが講義を任せていただき,もうすぐこの道9年目(教育に関しては1年も経っていませんが)を迎えようとしています.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

今さら聞けない抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の体内動態研究

顔写真:羽原 広

第3回:ADCのバイオアナリシス~複雑な構成成分をどのように定量するか?~

第一三共株式会社 薬物動態研究所
羽原 広

 こんにちは!前々回から「抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の薬物動態研究入門」についてお届けしています.第3回目の今回は,ADCのバイオアナリシス(生体試料中薬物濃度分析)についてお話したいと思います.

 はじめに,分析対象についてお話します.複雑な分子構造を有するADCの薬物動態を理解するためには,その分子構造に由来するそれぞれの成分を分析対象とする必要があります.2022年2月にFDAから発出されたADCの臨床薬理試験に関するドラフトガイダンス(1)には,少なくとも一つ以上のペイロードを有するADC,すべてのペイロードが外れたnaked抗体とADCの総和としての総抗体,遊離したペイロード及びその活性代謝物の定量,及びanti-drug antibody(ADA)評価を実施することが推奨されています.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

DMPK 54に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

Mechanistic static pharmacokinetic (MSPK)モデルを用いたトランスポーターを介した相互作用の定量的予測

Asano, S., et al.

 新規医薬品開発における薬物間相互作用(DDI)の評価は日米欧の規制当局から発行されているDDIガイダンス/ガイドラインに従って実施される.トランスポーターの臨床DDI試験の判断はカットオフ基準に基づいており,代謝酵素とは異なり基質の曝露(AUC)変化からの評価法は提示されていない.本研究においては既報の複数トランスポーター阻害を考慮した静的モデルを拡張したnet-effect MSPK modelを用いて,小腸(P-gp及びBCRP),肝臓(OATP1B1/1B3)及び腎臓(OAT3及びMATE1)の阻害を考慮したAUC上昇率(AUCR)が予測できるかを検証した.具体的には2016年4月から2020年6月にかけて日本で承認された新規経口低分子薬剤から,25薬剤,42の臨床DDI試験を抽出し,in vivo及びin vitroデータを用いてAUCRを予測して実測値と比較した.その結果,予測されたAUCRの大部分が実測値の1.5倍または2倍以内に収まり,複数のトランスポーターに関与する各種statinを対象としても同じ傾向が見られた.このnet-effect MSPK modelの研究を含め,今後よりトランスポーターを介したDDI予測の研究が発展することを願っている.

 

[Regular Article]

公知の材料であるヒト凍結腸管上皮細胞からのヒト腸管オルガノイドの樹立と薬物動態学的評価

Okada, K., et al.

 現在,in vitro腸管薬物動態試験系への応用を見据え,ヒト生検由来腸管オルガノイド(B-IOs)に注目が集まっている.しかし,ヒト生検組織を材料として用いることから,材料の入手の難しさや倫理面の制約があり,薬物動態評価系としての応用には課題が存在していた.そこで本研究では,市販のヒト凍結腸管上皮細胞から腸管オルガノイドを樹立した(C-IOs).また,高機能化を目指して単層膜化を行い,その遺伝子発現や機能をB-IOsと比較した.その結果,C-IOsの遺伝子発現はB-IOs,成人小腸と同等レベルであった.また,薬物動態評価に十分なバリア機能を示し,薬物代謝酵素活性やトランスポーター活性においてC-IOsはB-IOsと同等の機能を示した.本研究により,C-IOsがin vitro腸管薬物動態試験へ応用可能であることが示され,また腸管オルガノイドの研究ツールとしてのアクセス性が大幅に改善された.腸管オルガノイド研究の更なる活性化に繋がることが期待された.

 

[Regular Article]

プログアニルの代謝活性化に及ぼすボノプラザンの影響の生理学的薬物速度論モデル解析

Okubo, K., et al.

 我々はこれまでに,プロトンポンプ阻害薬ボノプラザン(VPZ)はin vitroでのCYP2C19阻害作用は弱いにもかかわらず,健康成人において主にCYP2C19により代謝活性化されるプログアニル(PG)の血中濃度を上昇させ,活性代謝物シクログアニルの血中濃度を低下させることを報告した(Funakoshi, R., et al, 2019).本研究では,この相互作用がVPZによる代謝阻害で説明できるか検討する目的で,VPZのみならずその代謝物も合成し,PG代謝に及ぼす影響についてヒト肝ミクロソームを用いて評価した.VPZはPG代謝を時間依存的に阻害した一方で,VPZ代謝物による阻害は弱く相互作用への寄与は小さいと考えられた.得られた阻害パラメータを組み込んだ生理学的薬物速度論モデル解析の結果,相互作用は過小評価され,時間依存的阻害のパラメータがin vitroとin vivoとで異なる可能性あるいは本相互作用に代謝阻害以外の機序が関与する可能性が示唆された.

 

[Regular Article]

LC-MS/MSによるフルチカゾンプロピオン酸エステルの血中濃度定量法の開発と臨床用量の点鼻投与後の薬物動態解析

Yamagata, A., et al.

 フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)はアレルギー性鼻炎に高い効果を示しますが,副作用の懸念から使用を躊躇する患者も少なくありません.FPのバイオアベイラビリティが把握できれば,安心して点鼻FPを使用できます.そこで,我々は通常量(1回100μg)点鼻後の体内動態解析を目的としました.初めに,安定同位体標識体を内標準物質としたLC-MS/MS分析法を確立しました.次に,健常成人を対象に,FP点鼻後の血中濃度を定量しました.初回に200μgを投与した際のAUCと比較し,これに続いて100μgを1日2回1週間投与した後のAUCは1.6倍となり,蓄積性を確認しました.さらに,FP 100μg単回点鼻投与では,15分後に3pg/mLが検出され,最高血中濃度は8pg/mLと極めて低い値でした.点鼻投与後と静脈内投与後(文献値)のAUCよりバイオアベイラビリティは2-4%と算出されました.この情報が点鼻ステロイド治療の不安解消につながることを願っています.

 

標識体合成から創薬・開発申請まで【株式会社ネモト・サイエンス】
中外製薬グループ企業の一員として革新的な医薬品創出へ貢献 株式会社中外医科学研究所 創薬試験技術部~実験技術研究職募集中~【株式会社中外医科学研究所】
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