[Regular Article]
Asano, S., et al.
新規医薬品開発における薬物間相互作用(DDI)の評価は日米欧の規制当局から発行されているDDIガイダンス/ガイドラインに従って実施される.トランスポーターの臨床DDI試験の判断はカットオフ基準に基づいており,代謝酵素とは異なり基質の曝露(AUC)変化からの評価法は提示されていない.本研究においては既報の複数トランスポーター阻害を考慮した静的モデルを拡張したnet-effect MSPK modelを用いて,小腸(P-gp及びBCRP),肝臓(OATP1B1/1B3)及び腎臓(OAT3及びMATE1)の阻害を考慮したAUC上昇率(AUCR)が予測できるかを検証した.具体的には2016年4月から2020年6月にかけて日本で承認された新規経口低分子薬剤から,25薬剤,42の臨床DDI試験を抽出し,in vivo及びin vitroデータを用いてAUCRを予測して実測値と比較した.その結果,予測されたAUCRの大部分が実測値の1.5倍または2倍以内に収まり,複数のトランスポーターに関与する各種statinを対象としても同じ傾向が見られた.このnet-effect MSPK modelの研究を含め,今後よりトランスポーターを介したDDI予測の研究が発展することを願っている.
[Regular Article]
Okada, K., et al.
現在,in vitro腸管薬物動態試験系への応用を見据え,ヒト生検由来腸管オルガノイド(B-IOs)に注目が集まっている.しかし,ヒト生検組織を材料として用いることから,材料の入手の難しさや倫理面の制約があり,薬物動態評価系としての応用には課題が存在していた.そこで本研究では,市販のヒト凍結腸管上皮細胞から腸管オルガノイドを樹立した(C-IOs).また,高機能化を目指して単層膜化を行い,その遺伝子発現や機能をB-IOsと比較した.その結果,C-IOsの遺伝子発現はB-IOs,成人小腸と同等レベルであった.また,薬物動態評価に十分なバリア機能を示し,薬物代謝酵素活性やトランスポーター活性においてC-IOsはB-IOsと同等の機能を示した.本研究により,C-IOsがin vitro腸管薬物動態試験へ応用可能であることが示され,また腸管オルガノイドの研究ツールとしてのアクセス性が大幅に改善された.腸管オルガノイド研究の更なる活性化に繋がることが期待された.
[Regular Article]
Okubo, K., et al.
我々はこれまでに,プロトンポンプ阻害薬ボノプラザン(VPZ)はin vitroでのCYP2C19阻害作用は弱いにもかかわらず,健康成人において主にCYP2C19により代謝活性化されるプログアニル(PG)の血中濃度を上昇させ,活性代謝物シクログアニルの血中濃度を低下させることを報告した(Funakoshi, R., et al, 2019).本研究では,この相互作用がVPZによる代謝阻害で説明できるか検討する目的で,VPZのみならずその代謝物も合成し,PG代謝に及ぼす影響についてヒト肝ミクロソームを用いて評価した.VPZはPG代謝を時間依存的に阻害した一方で,VPZ代謝物による阻害は弱く相互作用への寄与は小さいと考えられた.得られた阻害パラメータを組み込んだ生理学的薬物速度論モデル解析の結果,相互作用は過小評価され,時間依存的阻害のパラメータがin vitroとin vivoとで異なる可能性あるいは本相互作用に代謝阻害以外の機序が関与する可能性が示唆された.
[Regular Article]
Yamagata, A., et al.
フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)はアレルギー性鼻炎に高い効果を示しますが,副作用の懸念から使用を躊躇する患者も少なくありません.FPのバイオアベイラビリティが把握できれば,安心して点鼻FPを使用できます.そこで,我々は通常量(1回100μg)点鼻後の体内動態解析を目的としました.初めに,安定同位体標識体を内標準物質としたLC-MS/MS分析法を確立しました.次に,健常成人を対象に,FP点鼻後の血中濃度を定量しました.初回に200μgを投与した際のAUCと比較し,これに続いて100μgを1日2回1週間投与した後のAUCは1.6倍となり,蓄積性を確認しました.さらに,FP 100μg単回点鼻投与では,15分後に3pg/mLが検出され,最高血中濃度は8pg/mLと極めて低い値でした.点鼻投与後と静脈内投与後(文献値)のAUCよりバイオアベイラビリティは2-4%と算出されました.この情報が点鼻ステロイド治療の不安解消につながることを願っています.
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