学会 道しるべ
26th North American ISSX and 39th JSSX Meetingに参加して中外製薬株式会社 医科学薬理部
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私は2024年9月15-18日に米国ハワイ州ホノルルにて開催された26th North American ISSX and 39th JSSX Meetingに,日本薬物動態学会の若手研究者海外発表支援事業のご支援のもとで参加いたしました.この度は本事業にご採択いただき,日本薬物動態学会会長の加藤将夫先生をはじめ,選考委員会の先生方に厚く御礼申し上げます.
私は本学会において”QUANTITATIVE PREDICTION OF P-GP/CYP3A SUBSTRATE DRUG ABSORPTION IN HUMANS USING A MONOLAYER MODEL DERIVED FROM INTESTINAL ORGANOIDS”というタイトルにてポスター発表を行いました.本発表では,Intestinal organoidを活用したP-gp/CYP3A基質市販薬のヒトFaFg予測方法を提唱しております.発表・討議では複数の専門家の皆様から予測手法の妥当性や必要な追加検証についてなど,様々なご意見・ご質問をいただき,非常に有意義な時間を過ごすことができました.また,本学会では他にもIntestinal organoid (Spheroid/Enteroid)を用いた研究発表が数多く見受けられ,注目度の高い領域であることを再認識いたしました.
もちろん,その他の領域についても様々な発表がなされておりました.その中で,今回私が特に興味深かった演題を2つご紹介させていただきます.
1つ目はUniversity of Greifswald所属Werner Weitschies先生によるご発表“Gastrointestinal Imaging with MRI: Insights into the Behavior of Dosage Forms and the Conditions at the Site of Drug Release”です.水分や固形物の消化管内挙動を,MRI画像データを用いて詳細に研究された結果がまとめられた発表でした.私は薬物吸収の数理モデリング研究も行っており,しばしば市販ソフトウェアを使用いたしますが,本発表はそれらのモデル構造やインプットパラメータを盲信することへの警鐘のようにも感じられました.消化管内挙動の理解は非常に難解かつ重要であるということを再認識させられる発表でした.
もう1つはKymera Therapeutics所属のDapeng Chen先生によるご発表”Targeted Protein Degraders (TPD): PK/PD Translation from Preclinical to Clinical”です.多くの製薬企業が開発を試みているモダリティTPDについて,非臨床段階でのヒトPK/PD予測手法から実際の臨床試験結果まで詳細な内容を紹介されており,大変考えさせられる発表でした.発表後には発表者の方と直接お話させていただくこともでき,貴重な情報交換の機会を得ることができました.
加えて特筆したいのが,3日目(9月17日)に開催されたNew investigator group sessionです.このセッションでは,若手研究者数名と著名な研究者の方々1〜2名を1グループとして,ざっくばらんなディスカッションを行いました.研究者として持つべき心構えやAI利用についてなど,通常の学会発表・討議では話さないような一般的なトピックについて国内外,アカデミア・企業を含む様々な研究者と意見交換をすることができ,大変貴重な機会となりました.正直なところ,本セッションはあまり大々的に宣伝されていなかったこともあり参加人数が限られておりましたが,今後はこのような機会が益々広がることを期待しております.私自身,過去に学生シンポジウム(PRIS)のオーガナイザーを,現在は企業若手交流企画(CoRTIS)のコアメンバーを務めていることもありますので,その一助となるよう尽力したいと思います.
私は今回,企業研究員となり初めての海外学会参加でした.短いながら企業研究に携わった経験も相まってか,本学会で改めて薬物動態研究において国内外・産官学といった垣根を超えた様々な観点の融合と研究者の交流が重要,ということを強く実感しました.これからも多様な研究者のいる場で積極的に情報発信・交換をし,一研究者として成長していきたいと考えております.
末筆ながら,一人でも多くの日本薬物動態若手研究者がこのような貴重な経験をできるよう,本事業の益々のご発展をお祈り申し上げます.