学会 道しるべ
2024年度若手研究者海外発表支援を受けて名古屋市立大学大学院薬学研究科 薬物動態制御学分野
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2024年9月15-18日,米国ハワイ州ホノルルにて26th NAISSX/39th JSSX Meetingが開催されました.この度私は,2024年度若手研究者海外発表支援事業にご採用いただき,本学会に参加いたしました.選考から支援にあたり,日本薬物動態学会会長の加藤将夫先生,国際化推進員会委員長の中島美紀先生をはじめ,選考委員会の先生方に厚く御礼申し上げます.今回の学会参加は,私にとって初めての海外での発表となり,また初の海外訪問でもありました.様々な新たな経験を積むことができ,非常に貴重な機会となりました.この経験について,少しでも皆さまに共有できれば幸いです.
私は本学会において,「FUNCTIONAL CHARACTERISTICS OF A NEWLY IDENTIFIED VESICULAR MEMBRANE-LOCALIZED MONOAMINE TRANSPORTER FOR SEROTONIN TRANSPORT」(新規小胞膜局在型モノアミントランスポーターのセロトニン輸送に着目した輸送機能解析)という題目にてポスターセッションを行いました.モノアミン類(dopamine,norepinephrine,serotoninなど)は認知・情動機能において重要な役割を果たす神経伝達物質です.近年,日本においては統合失調症や気分障害などの精神疾患患者数が増加しており,これらの疾患は心身に様々な影響を及ぼす重要な研究対象となっています.精神疾患の発症メカニズムの1つには,シナプス間隙のモノアミン濃度の低下が抑うつ効果と関連している可能性があります.エキソサイトーシスによって放出されたserotoninが,SERT(SLC6A4)によってシナプス前細胞内に取り込まれ,シナプス小胞で蓄積される過程には,vesicular monoamine transporter 1(VMAT1/SLC18A1)とVMAT2/SLC18A2が働いていることが知られています.しかし,モノアミン類の小胞内濃度は,高親和性型であるVMAT1/2によって維持可能なレベルを大きく超えるとみられるため,高濃度に対応可能な低親和性トランスポーターの関与の可能性が考えられます.このような背景の下に,当研究室で小胞膜局在型トランスポーターの探索を行った結果,モノアミン類の排出輸送に働くとみられる新規トランスポーターとしてnovel vesicular monoamine transporter 1(NVMAT1)が見出されました.本研究では,新たに同定されたトランスポーターNVMAT1の機能特性,特にセロトニン輸送に焦点を当てて報告しました.
本学会では,薬物動態学および毒性学の最新研究が幅広く取り上げられました.特に,薬物や内因性バイオマーカーの体内動態に関する成果報告や,in vitroからin vivoへの応用が議論の中心となりました.また,PK/PD(薬物動態・薬力学)へのAI活用や,新しいモダリティ開発を目指したin vitroでの薬物相互作用(DDI)に関するセッションも注目を集めました.伝統的な動態研究に加えて,AIや最先端技術を活用した革新的な研究が紹介され,参加者は多角的な視点から薬物動態の進展を学ぶ貴重な機会となりました.
本ポスターセッションを通じて,バイオマーカーの同定研究やiPS細胞を活用したモデルシステムの構築といった先端技術が今後の研究において重要な方向性であることを再確認しました.これらの技術と知見を活用することで,私の将来の研究におけるキャリアで応用し,その精度や効率を飛躍的に向上させることができると実感しています.また,最新の知見を共有・発信するためには,英語という世界共通言語でのコミュニケーションが不可欠であり,流暢に英語を使いこなす能力の重要性を痛感しました.伝えたいことを正確に伝えられなかった悔しさを踏まえ,今後は英語力の向上にも力を入れ,研究に一層取り組んでいく所存です.
国際学会では,異なる視点や新しい研究手法を学ぶだけでなく,普段は出会うことのない多様なバックグラウンドを持つ研究者たちとの対話を通じて,視野を広げることができました.特に,他国の研究者とのディスカッションを通じて,自分の研究をより客観的に見直すことができ,新たなアイデアやインスピレーションを得ることができました.また,国際的な発表の場で自分の研究を説明することは,自身の研究をさらに深化させるための大きな一歩となりました.皆様もぜひ,海外での発表に積極的に挑戦し,得られる経験を研究活動に活かしていただければと思います.