DMPK 57に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
ヒトCYP3A誘導介在性薬物間相互作用の定量的予測に関する研究
Tsutsui, H., et al.
シトクロムP450(CYP)3Aは肝臓及び小腸に高発現する薬物代謝酵素であり,多くの医薬品の代謝に寄与する.開発薬がCYP3A基質薬となる場合,CYP3A誘導薬併用時の血中濃度低下を定量的に予測する方法は確立されておらず,規制当局は臨床DDI試験を実施してリスク判断することを推奨している.本研究では,以前の研究で算出した肝臓・小腸CYP3A誘導倍率を用いて,全28基質の臨床DDI誘導試験での血中濃度時間曲線下面積(AUC),最高血中濃度(Cmax)の低下率を定量予測できるか確認した.予測に使用する寄与率(fm),小腸アベイラビリティ(Fg)は臨床DDI試験またはin vitro代謝実験データより算出し,どちらの場合も65%以上の予測値が実測値と2倍以内に収まることが明らかとなった.またパラメータを変化させてシミュレーションした結果,fmが高くFgが低い基質薬のAUC,Cmax変化を予測するうえでfm,Fgの変動が予測値に与える影響は低いと考えられた.本予測手法の活用は,将来的に非臨床段階での効率的な臨床開発プランの提案につながることが期待される.
[Regular Article]
特発性肺繊維症治療薬ニンテダニブから生成する反応性代謝物とその生成を触媒する責任酵素の同定
Nakashima, S., et al.
特発性肺線維症治療薬ニンテダニブは副作用として稀に重篤な肝障害を引き起こすことが知られている.ニンテダニブの化学構造の観点から,反応性の高いイミニウムイオンの生成が予想された.本研究ではニンテンダブによる肝障害発症の原因解明の手がかりを得るためヒト肝臓でイミニウムイオンが生成されるか検討した.LC-MS/MS分析により,イミニウムイオンをトラップするシアンの抱合体生成がヒト肝臓または小腸ミクロソームおよびNADPH存在下で認められ,その生成はケトコナゾールにより強く阻害された.また,この抱合体はヒトシトクロムP450(CYP)各分子種の中でもCYP3A4発現系のみで生成された.さらにヒト個人肝臓ミクロソーム25検体における抱合体生成は,ミダゾラム1’位水酸化酵素活性およびCYP3A4タンパク質相対発現量と有意な正の相関を示した.以上より,ニンテダニブからCYP3A4によりイミニウムイオンが生成されることを明らかにし,CYP3A4の個人差や併用薬による誘導や阻害が肝障害の感受性を左右する可能性が示唆された.今後はイミニウムイオンの反応性を調べることでその毒性との関連を検証する必要がある.