Newsletter Volume 39, Number 1, 2024

受賞者からのコメント

顔写真:大木聖矢

ベストポスター賞を受賞して

東京薬科大学 個別化薬物治療学教室
大木聖矢

 この度,日本薬物動態学会第38回年会・第23回シトクロムP450国際会議国際合同大会において,ベストポスター賞という名誉ある賞をいただきまして大変光栄に思います.この場を借りて,審査いただきました選考委員の先生方,並びに関係者の皆様に心より御礼申し上げます.

 薬を脳に到達せさるためには,その障壁となる血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)を突破する必要があります.そのため,中枢に作用する医薬品を新たに開発するためには,脳移行性の高い薬物送達システム(Drug delivery system, DDS)のキャリアが必要であり,このようなキャリアのスクリーニング・検証を可能とする評価系が望まれています.これに対して当研究室では,階層スフェロイド型ヒトBBBモデルを開発し脳移行性環状ペプチド(SLSペプチド)のBBB透過性を評価できることを明らかにしてきました.そこで本研究では,脳移行性DDSキャリアとしてのSLSペプチドの有用性をさらに検証するため,階層スフェロイド型ヒトBBBモデルを用いて,本ペプチドと,これを結合させた抗HER2抗体(HER2ab-SLS)のBBB透過性を明らかにすることを目的としました.

 はじめに,SLSペプチドのBBB透過性における温度・時間・濃度依存性を解析しました.SLSペプチドのBBB透過には,温度・時間・濃度依存性が認められましたが,濃度については飽和性が認められませんでした.これにより,SLSペプチドのBBB透過には,低親和性の能動輸送経路が関与していると考えられました.また,HER2ab-SLSでは,HER2ab単体と比較して優位に高いBBB透過性が認められました.これにより,SLSペプチドは抗体に脳移行性を付与するDDSキャリアとして有用であることが明らかとなりました.今後,様々なモダリティの脳移行性改善への応用も期待されます.

 最後になりましたが,本研究の遂行にあたり,ご指導いただきました東京薬科大学 個別化薬物治療学教室の降幡知巳教授,森尾花恵助教,学部学生の皆様,熊本大学 微生物薬学分野の大槻純男教授,伊藤慎悟准教授にこの場を借りて深く御礼申し上げます.