受賞者からのコメント
ベストポスター賞を受賞して東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室
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この度,日本薬物動態学会第38回年会/第23回シトクロムP450国際会議国際合同大会において,ベストポスター賞を賜り,大変光栄に感じております.大会長の吉成浩一先生・永野真吾先生をはじめ,審査頂きました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係者の皆様に深く感謝申し上げます.副賞の富士山が描かれた素敵なグラスも毎日研究室で大切に使わせていただいております!
本大会では「Development of serotonin release assay with human jejunal spheroid-derived enterochromaffin cells and risk evaluation of emesis induced by ALK/ROS1 tyrosine kinase inhibitors」にて発表させていただきました.腸管に存在するenterochromaffin(EC)細胞は腸上皮に1%以下で存在する希少な細胞ながら,体内のセロトニンの9割以上を産生・分泌しており,腸の運動性を制御しています.一方で,薬剤誘導性悪心・嘔吐の機序のひとつに,薬物刺激によるEC細胞からの過剰なセロトニン分泌が,神経系を介して脳幹に位置する嘔吐中枢を刺激することが挙げられます.そこで私は,腸スフェロイド/オルガノイドを用いて,薬物刺激に伴うEC細胞からの培養上清中へのセロトニン放出量を評価することで,嘔吐のin vitro評価系を構築できないか?と考えました.
EC細胞はその割合が非常に少ないため評価が困難な細胞でありますが,Notchシグナルを遮断した条件で生体由来の腸幹細胞スフェロイドを培養することにより,EC細胞の割合に富んだ状態へと分化させ,高感度にセロトニン放出をモニタリング可能な評価系を構築しました.また分子標的薬の一種であるALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害薬は,薬物の種類に応じて嘔吐のリスクが大きく異なることが知られていますが,これらの薬物のセロトニン放出活性を本評価系にて評価したところ,臨床での嘔吐のリスクの高低に対応したセロトニン放出感受性の違いが観察されました.現在,評価薬物を拡張し嘔吐のスクリーニング予測系としての応用を目指すとともに,薬物刺激によるEC細胞からのセロトニン放出制御メカニズムの探索を進めています.
思い返せば,2年前の第36回年会への参加ではベストオーラル賞を逃して悔しい思いをしましたが,昨年度は学生・若手企業研究者シンポジウム(PRIS2022)にてシンポジストとして発表させていただくことができました.今年度は念願のベストポスター賞に加えて,学生シンポジウム(PRIS2023)のオーガナイザーを務めることもでき,日本薬物動態学会年会の場で研究者としてステップアップすることができました.また本大会では,研究の議論だけでなく,他大学の先生方や学生の方々,企業展示の方々とも親交を深めることができ,静岡のグルメも多々堪能させていただきました.大会長の吉成浩一先生が仰っていた「Enjoy science, Enjoy communication, Enjoy Shizuoka」を体現できた5日間であり,充実した時間を過ごすことができました.次年度はISSXとのハワイ合同大会ということで,沢山の読者の皆さま方が参加され,本大会が盛況となることを祈っております.