Newsletter Volume 39, Number 1, 2024

受賞者からのコメント

顔写真:明石知也

ベストポスター賞を受賞して

田辺三菱製薬株式会社 創薬本部 薬物動態研究所
明石知也

 この度は,日本薬物動態学会第38回年会におきまして,「Mechanism of inhibition and transport of human SGLT2–MAP17 glucose transporter」という演題でベストポスター賞に選出頂き誠にありがとうございます.学会運営ならびに賞の選考に関わっていただいた皆様に深く感謝申し上げます.

 SGLT2は1分子の糖と1分子のナトリウムを細胞内に共輸送するトランスポーターであり,腎臓の近位尿細管において糖の再吸収を担っています.SGLT2阻害薬は糖の再吸収を阻害することで尿への糖排泄を促進し,血糖値を低下させることで2型糖尿病治療薬として用いられています.しかしながら,SGLT2の糖輸送や阻害のメカニズムについては十分な理解がされていませんでした.

 我々は,クライオ電子顕微鏡にて自社品であるカナグリフロジンを含む4つのSGLT2阻害薬の結合像を明らかにするとともに,SGLT2と阻害薬の機能解析を実施しました.SGLT2阻害薬は,細胞外側に開いたSGLT2の糖結合部位に結合するのに対し,端緒化合物であるリンゴ由来の天然物フロリジンはSGLT2に対して細胞内外に2つの結合部位を持ち,高濃度条件では細胞内側に開いた構造の細胞質側の部位に結合していることを解明しました.これら阻害薬は上記の部位に対する結合によって,SGLT2の糖輸送時のコンフォーメーションの変化を阻害する事で糖輸送阻害を起こしていると考えられました.また,SGLT2が糖を輸送する際には,ナトリウムが結合することでSGLT2を安定化させ構造変化の起点となり,ナトリウムが外れ細胞内へ取りこまれることで糖の取り込みが起こることを明らかとしました.

 本研究ではSGLT2阻害薬の阻害機構及びSGLT2の糖輸送メカニズムを初めて解明することができました.従来のトランスポーター機能解析技術とクライオ電子顕微鏡を組み合わせることで,トランスポーターの機能や阻害薬のmode of actionを理解できる強力なツールとなり,今後の創薬に貢献することができると確信しています.

 最後になりますが,今回の受賞に至るまでに多くの方にご助力いただきました.東京大学の濡木 理先生,そしてともに研究を進めました田辺三菱製薬創薬本部各位に,この場をお借りしまして深く感謝を申し上げます.