Newsletter Volume 39, Number 1, 2024

受賞者からのコメント

顔写真:山梨義英

ベストポスター賞を受賞して

東京大学医学部附属病院 薬剤部
山梨義英

 この度,日本薬物動態学会第38回年会におきまして,「Hepatic NPC1L1 exacerbates NAFLD by suppressing biliary excretion of oxysterols」という演題で,栄誉あるベストポスター賞を賜り大変光栄に思います.ご審査いただきました先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 近年,コレステロールの酸化代謝物である酸化ステロールの様々な生理活性が明らかになるとともに,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの脂質関連疾患との関連が注目されています.しかし,酸化ステロールの体内動態制御機構やその変動がNAFLDの発症・進行に及ぼす影響については十分に解明されていません.

 私たちの研究グループでは,消化管でコレステロール吸収輸送体として機能しているNiemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)の機能解析を進めています.NPC1L1はヒトにおいては肝臓でも高発現しており,胆汁から肝臓へのコレステロール再吸収を担うとされています.しかし,実験動物として汎用されているマウスやラットでは,ヒトと異なり,肝臓におけるNPC1L1の発現量が極めて低く,肝臓のNPC1L1の生理機能や病態生理学的意義に関しては十分に解明されていません.このような背景の下,私たちは肝臓に発現するNPC1L1が酸化ステロールの胆汁排泄を制御し,NAFLDの進行に影響を及ぼすという仮説のもと検討を行いました.

 ヒトとマウスの種差を考慮して,本研究では肝臓特異的NPC1L1トランスジェニック(1L1Tg)マウスをヒトモデルマウスとして用いました.酸化ステロールに富む加熱コレステロールを高脂肪食に混ぜて1L1Tgマウスに与えた結果,野生型マウスとは異なり,高脂肪食誘導性の脂肪肝の増悪が認められました.また,NPC1L1阻害剤エゼチミブの投与実験や,各マウスの肝臓・胆汁中の酸化ステロール量の解析,培養細胞を用いた種々のin vitro実験から,NPC1L1の基質である22(R)-ヒドロキシコレステロール(22R-OHC)および25-OHCが,それぞれ核内受容体のLXRaおよびRORg依存的に,脂肪肝増悪に主に関与していることが明らかとなりました.さらに,ヒト血液検体を用いた臨床的解析においても,22R-OHCと25-OHCの血液中濃度と脂肪肝マーカーとの間に有意な正の相関が見出されました.これらの結果から,肝臓のNPC1L1は,酸化ステロール(特に22R-OHCや25-OHC)の胆汁排泄を抑制し,NAFLDを増悪させることが明らかになりました.今後,両酸化ステロールに着目した新たなNAFLDの予防・治療法の提案に繋がることが期待されます.

 最後に,ヒト血液検体を用いた臨床的解析を実施するにあたり,多大なるご協力をいただきました筑波大学附属病院の正田純一先生,岡田浩介先生,押田夏海先生に深く感謝するとともに,本研究の遂行にあたり,ご指導・ご協力いただいた高田龍平教授,鈴木洋史名誉教授をはじめとする当研究室の皆様にこの場を借りて御礼申し上げます.今後も,in vivo解析,in vitro解析,臨床的解析を組み合わせて,基礎と臨床の架け橋となるような研究を進めていきたいと思います.