受賞者からのコメント
ベストポスター賞を受賞して和歌山県立医科大学 薬学部 衛生薬学研究室
|
この度は,日本薬物動態学会第38回年会におきまして,「Metabolism of aldehyde odorants by nasal aldehyde-metabolizing enzymes and their inhibition by drugs」という演題で,ベストポスター賞という栄誉ある賞を賜り大変光栄に思います.ご審査いただきました先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼を申し上げます.
ヒトを含む哺乳動物が感じる匂いは,鼻腔内の嗅上皮に存在する嗅細胞が空気中の匂い成分を知覚することで生じております.この嗅覚センサーである嗅上皮には,CYP,UGTなどの一部の薬物代謝酵素の発現が報告されているものの,その生理的意義は明らかにされておりません.一方,匂い成分の多くは低分子化合物であるため,薬物代謝酵素により代謝される可能性が考えられます.本研究では,匂い成分の共通構造の一つであるアルデヒドに着目し,マウス嗅上皮におけるアルデヒド匂い成分の代謝活性および医薬品成分による匂い成分代謝の阻害を精査しました.
プロテオミクス解析により,マウス嗅上皮およびその分泌液中には,幅広いアルデヒド酸化酵素(AOX)やアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が発現し,その発現量はマウス肝臓と同程度に高いことを見出しました.次に,マウス嗅上皮S9や鼻腔洗浄液における,幅広いアルデヒド匂い成分の代謝を評価したところ,検証したいずれのアルデヒド匂い成分もAOXやALDHによる酸化代謝を受け,その活性はマウス肝S9と同程度に高いことが示されました.さらに,AOXやALDHの阻害効果が知られる医薬品成分は,マウス嗅上皮S9でのアルデヒド匂い成分の代謝を抑制しました.今後,in vivo嗅覚行動評価などを行う必要がありますが,本研究により医薬品成分が嗅上皮の薬物代謝酵素の阻害を介して匂いの知覚を撹乱する可能性があることが示唆されました.
最後になりましたが,本研究の遂行にあたりご指導賜りました当研究室の太田 茂教授,佐能正剛准教授に深く感謝するとともに,マリオネグリ薬理学研究所のDr. Enrico Garattini,Dr. Mineko Teraoをはじめ共同研究者の皆様に深く御礼申し上げます.