[Regular Article]
Tamemoto, Y., et al.
COVID-19のパンデミックを背景に,直接経口抗凝固薬(DOAC)とブースターとしてリトナビル(RTV)を含む薬物との強力な薬物相互作用(DI)に関する症例報告(Testa S et al, 2020)が注目を集めた.また同時期にブースター用量のRTVを含むパキロビッドがCOVID-19治療薬として特例承認された.我々はこの未解明のDIについて,薬物動態学的観点からRTVを詳細に解析しなおすことでパキロビッドの適正使用に貢献できると考え,in vitro実験や副作用データベース解析を行った.in vitro実験で用いる緩衝液の選択など,DI研究の原点に立ち返った検討及び米国の副作用データベースFAERSを用いたヒトで実際に生じた有害事象の詳細な解析から,DOACの一つであるアピキサバンとRTVを併用した場合に“死亡”のリスクが臨床的に上昇すること,DOACとRTVのDIにはCYP3A以外にも複数の分子種の寄与があることを明らかにした.本研究成果がRTV含有製剤のDI管理に活用されることを期待する.
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Shimizu, M., et al.
ヒト成人肝に発現するフラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)の機能不全はトリメチルアミン尿症の一因として知られている.著者らは,定期的に更新される東北大学東北メディカル・メガバンク統合データベースのゲノム情報の探索から酵素機能に影響を及ぼすFMO3遺伝子バリアントを47種報告した.これらの変異のうち,組換え体を調製して調べた酵素機能が野生型に比較して50%以下を示す変異に着目し,PCR-制限酵素断片長多型法およびアリル特異的PCR法を用いた簡便な変異検出法を検討した.近接した塩基配列の置換によって生じる同位置のアミノ酸置換は酵素機能に明確な差が存在する場合があり,PCR-制限酵素断片長多型法に加えて第2段階にアリル特異的PCR法を追加する必要があった.これらの判定法を活用することにより,問題のあるFMO3遺伝子バリアント判定が医療現場でも可能となると推察される.
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Tomida, T., et al.
タクロリムスとニルマトレルビル/リトナビルが併用投与された結果,タクロリムスの血中濃度が顕著かつ長期間にわたって上昇し,副作用のため入院治療が必要となった症例を経験した.本研究ではこの症例の臨床経過を示すとともに,この相互作用による薬物動態の変化をモデル解析した.その結果,ニルマトレルビル/リトナビル併用時には,タクロリムスのクリアランスは35%に減少し,同時にバイオアベイラビリティが18.7倍に増加すること,そして,その阻害作用は併用中止後も10日程度遷延することが示された.これはニルマトレルビル/リトナビルのCYP3AおよびP-糖蛋白に対する強力な阻害作用によるものと推察される.したがって,ニルマトレルビル/リトナビルと,タクロリムスのようにCYP3AおよびP-糖蛋白の基質でありバイオアベイラビリティが低い薬剤との併用は,非常に大きな薬物動態変化のリスクを生じるため,併用する場合にはタクロリムスの投与を中止することが必須と考えられる.
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Sato, S., et al.
非臨床動物へのコンデュリトール-β-エポキシド(CBE)投与は,ゴーシェ病(GD)などのグルコセレブロシダーゼ(GBA)の変異に伴う疾患モデル動物を作製する上で強力なアプローチとしてマウスにおける研究成果から期待されている.しかし,脳脊髄液中のグルコシルスフィンゴシン(GlcSph)濃度の変化が,臨床的に有用と期待される脳内濃度の変化と定量的に相関しているのか,またその相関の種差に関してサル病態モデルが報告されていないため十分に解明されていない.本研究では,最も低濃度での検出が想定された脳脊髄液(CSF)中のGlcSph濃度に関して既報をもとにLC-MS/MSを用いた高感度分析法を確立し1) ,サルへCBE投与後の脳,血漿,CSF中のGlcSph濃度の経時変化を明らかにした.これらの結果はCSF中GlcSphが脳内GlcSphの濃度変化を予測するうえで代替マーカーになりうることを示し,同疾患の臨床試験でのCSF中GlcSph評価の妥当性をサポートするだけでなく,マウスに加えサルでの評価が可能になったことで,この分野のtranslational research研究が加速するものと期待している.
1) J Pharm Biomed Anal. 2022, 5:217:114852. doi: 10.1016/j.jpba.2022.114852.
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Naoi, S., et al.
著者らは,高い等電点(pI)を有するモノクローナル抗体がマウスにおいて速い血漿クリアランスと大きな定常状態分布容積を示す傾向があることを報告している.しかしながら,報告されている生理学的薬物動力学(PBPK)モデルでは,抗体の組織間質への移行において,Convectionによる経路に比してFcRn介在性トランスサイトーシスの経路の寄与が小さく設定されているため,上記の傾向を記述することはできなかった.そこで,本研究で構築したPBPKモデルでは,生理学的パラメータ(リンパ流速,反射係数,内皮細胞取込みクリアランスおよびFcRn濃度)を,野生型およびFcRnノックアウトマウスにおける様々なpI値を有する抗体の薬物動態プロファイルに基づいて最適化した.本モデルは,抗体の組織間質への移行経路の寄与をより良く反映し,望ましい組織分布プロファイルを達成するための抗体エンジニアリングへの洞察を提供するものと期待している.
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