ニュースレター編集委員会より

はじめに

 ウクライナ情勢,物価高騰など政治・経済においては厳しい状況が続いておりますが,最近のスポーツ界では熱い話題が盛沢山です.バスケットボールのワールドカップでは,トム・ホーバス監督の指導のもとで選手が目覚ましい成長を遂げ,粘り強い試合展開で3勝を挙げることができ,見事自力でパリオリンピック出場を獲得しました.バスケットに続いてラグビーのワールドカップでも強豪国を相手に力強い試合展開で前回の世界大会に続いて予選リーグ突破にあと一歩まで迫っています.また,関西の話題で恐縮ですが,日本のプロ野球では,岡田監督率いる阪神タイガースが成長した若手選手を積極的に登用し,18年ぶりに”アレ”(リーグ優勝)に輝きました.同じ関西のオリックスバッファローズも3年連続のリーグ制覇となり,クライマックスシリーズの結果次第では,日本シリーズにおける関西ダービーが実現します.これらスポーツ界における目覚しい成果は,世の中を元気にしてくれますし,皆さんに勇気や希望を与えてくれると思います.

 スポーツ界と同様に薬物動態をはじめとしたサイエンスの分野においても,研究者の創意工夫で文化・産業に有用な研究成果が出た時には,世の中の皆さんを活気づけられると思います.ニュースレターからは,このような薬物動態研究の最新情報やその研究の裏側,研究に打ち込む先生方の姿や思いに着目して,情報を発信していきたいと思います.今月号の記事も興味深い内容となっていますので,是非目を通してみてください.(S.O.)

【動態研究に取り組むNEW POWER】

  • 薬物動態学を基盤とした毒性学研究(竹村晃典)

【今さら聞けない抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の体内動態研究】

  • 第2回:ADCの薬物動態評価 ~トラスツズマブ デルクステカンを例に~(永井陽子)

【アドメサークル】

  • ようこそ北里大学薬学部薬剤学教室へ ~生の声,お聞かせします!~(前田和哉)

【DMPK 52に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」】

  • 反応性アシルCoA代謝物のリスク評価に対する蛍光標識トラッピング剤の創製
  • リンゴ由来細胞外小胞含有miRNAによる転写因子発現変動を介した消化管機能調節
  • 本態性高血圧症患者,糖尿病性腎症患者及び健康被験者における非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬エサキセレノンの母集団薬物動態

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動態研究に取り組むNEW POWER

顔写真:竹村晃典

薬物動態学を基盤とした毒性学研究

千葉大学大学院薬学研究院生物薬剤学研究室
竹村晃典

 千葉大学大学院薬学研究院の竹村晃典と申します.この度は,日本薬物動態学会ニュースレター「動態研究に取り組むNEW POWER」へ寄稿する機会を頂きました編集委員の皆様をはじめ関係者に感謝申し上げます.私は,2010年に千葉大学薬学部に入学し,学部3年生の2013年1月に堀江利治教授(当時)が主宰されていた生物薬剤学研究室に配属いたしました.堀江利治教授は同年3月をもってご退職されましたが,私が研究室へ配属と同時に着任された伊藤晃成教授の御指導の下で博士課程まで肝毒性研究に従事しました.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

今さら聞けない抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の体内動態研究

第2回:ADCの薬物動態評価 ~トラスツズマブ デルクステカンを例に~

第一三共株式会社 薬物動態研究所
永井陽子

 こんにちは!前回から「抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の薬物動態研究入門」についてお届けしています.第二回目は,ADCの薬物動態に関する研究についてお伝えします.前回,癌領域においてADCは,ターゲットとなる腫瘍組織にペイロードを届け,正常組織でのペイロードの曝露を相対的に下げることをお話ししました.つまり,ADCはペイロード単体で投与する場合に比べて,体内分布に変化を与えることでtherapeutic windowを広げるモダリティーです.さらに,ADCの構成成分である抗体,リンカー,ペイロードそれぞれの構造および組み合わせにより体内動態が変化するため,ADCの研究開発において薬物動態研究の果たす役割は大きいと言えます.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

アドメサークル

顔写真:前田和哉

日本の薬物動態研究組織(17)
ようこそ北里大学薬学部薬剤学教室へ ~生の声,お聞かせします!~

北里大学薬学部薬剤学教室
前田和哉

 アドメサークルは,日本の薬物動態研究組織をご紹介いただく企画です.今回は,北里大学薬学部薬剤学教室の前田和哉教授に,研究室や研究テーマを動画でご紹介いただきます.初めての試みとして,前田先生に多大なご尽力をいただいて完成した“力作”です.是非,ご覧ください.・・・(動画はNLホームページへ

DMPK 52に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

反応性アシルCoA代謝物のリスク評価に対する蛍光標識トラッピング剤の創製

Shibazaki, C., et al.

 本研究では,薬物の代謝活性化反応の中でもリスク評価の報告が少ないアシルCoA抱合代謝に着目し,反応性が高いアシルCoA代謝物を効率的に捕捉するトラッピング剤の創製を目指した.肝ミクロソーム系における検討の結果,チオール基とアミノ基を有するトラッピング剤(Cys-Dan)が,分子内転位を経てアミド結合を有する安定な付加体を形成することが明らかになった.さらに,上述のCys-Danに加え,筆者らがこれまで開発してきた複数のトラッピング剤が,肝ミクロソーム系ではなくヒト肝細胞系においても機能するかを検討した.その結果,どのトラッピング剤も細胞系で効率的かつ定量的に反応性代謝物を捕捉することができた.肝ミクロソームとは異なり肝細胞には代謝酵素や解毒系が十分存在することから,より生体に近い状態で反応性代謝物のリスク評価が可能であることが示された.以上より,本トラッピング剤およびその試験系は安全な医薬品を創製する上で極めて有用であり,今後創薬支援ツールとして創薬研究に大いに貢献するものと考えている.

 

[Regular Article]

リンゴ由来細胞外小胞含有miRNAによる転写因子発現変動を介した消化管機能調節

Usui, S., et al.

 食品の作用は,食品中の高分子成分の代謝産物あるいは低分子成分によるものであると考えられている.一方,食品には細胞外小胞(Extracellular Vesicle: EV)が含まれ,その含有成分の作用が報告され始めた.核酸などの高分子はEV中では安定性と膜透過性が改善され,食品由来高分子が直接消化管に作用する可能性がある.ASBTは,小腸下部特異的に発現する胆汁酸トランスポーターで,胆汁酸の腸肝循環に必須であり,治療標的ともなっている.私たちは既にリンゴジュースがASBT発現を低下させることでの便秘改善作用を示すことを報告してきた(PMID: 37129213).本研究では,リンゴ由来細胞外小胞(APEV)中miRNAが転写因子RARαの発現抑制を介してASBTの活性低下作用を示すことができた.APEV中にpolyol類は含まれていないため,IBD患者さんにも負担なく便秘の改善ができる.本成果は,食品による消化管機能調節の新しいメカニズムを示しており,食品由来のmiRNAのような高分子化合物がEVを介するという新しい食品機能を提唱する.

 

[Regular Article]

本態性高血圧症患者,糖尿病性腎症患者及び健康被験者における非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬エサキセレノンの母集団薬物動態

Yoshihara, K., et al.

 エサキセレノンは非ステロイド型の新規選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRブロッカー)であり,従来のステロイド構造のMR拮抗薬に比べ,高いMR結合親和性及び選択性を有する.本研究では,エサキセレノンの臨床試験全15試験に組み入れられた多様な日本人患者・健康被験者1,623名から得た血漿中エサキセレノン濃度8,263点を含む比較的大きなデータセットを使用して,エサキセレノンの母集団薬物動態を評価した.共変量解析の結果,エサキセレノンの曝露量に最も影響を及ぼす共変量はイトラコナゾール併用(+64%)及びリファンピシン併用(−68%),次いで体重(−26%~+36%)であり,推定糸球体濾過量を含むその他のベースライン共変量の影響は限定的であった.MRブロッカーは糖尿病性腎臓病に対する有望な治療オプションとして期待されており,エサキセレノンが腎機能低下の影響を受けにくい薬物動態特性を有することが明らかになったことは重要である.

 

ADME研究用試薬(薬物代謝酵素、凍結肝細胞、臓器モデルチップ、CYP関連化合物)【富士フイルム和光純薬株式会社】
新たな挑戦 動物からヒトへ【積水メディカル株式会社創薬支援事業部】
標識体合成から創薬・開発申請まで【株式会社ネモト・サイエンス】