ニュースレター編集委員会より

はじめに

 梅雨が明けたと思ったら,8日連続で35℃以上の猛暑日が続いております.猛暑と合わせて注意したいのが,ゲリラ豪雨による天気の急変です.強い太陽光によって地表付近の空気が温められ,上昇気流に伴い発達した積乱雲が発生します.この積乱雲が局地的に短時間で強い雨を降らせることで,いわゆるゲリラ豪雨が発生します.ゲリラ豪雨は,台風などに比べるとかなり規模の小さい現象のため,現状まだまだスーパーコンピュータでも正確に予測ができないそうです.そのため,今実際に起きている状況を確認することが一番正確なため,ゲリラ豪雨が発生しているような時は,スマホアプリの「雨雲レーダー」を参照しています.皆様も,突然の予測不能なゲリラ豪雨にはお気を付けください.

 さて,9月末に静岡にて開催される日本薬物動態学会第38回年会はシトクロムP450国際会議との国際合同大会となっております.テーマが,「ライフサイエンスと創薬における新たな知と技の発見 〜過去に学び,未来を知る〜」となっており,これまでの知見に学び予測不能な未来に心を踊らせる機会となりそうです.

 また今号のNLから,全5回の予定で新企画「今さら聞けない抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の体内動態研究」が掲載されます.「ADC」のmodalityから体内動態の特徴に関する内容など,必見の記事となっております.是非誌面の方をお楽しみいただければと存じます.(T.H.)

【トピックス】

  • ショート動画で簡単チェック! 2023年ICCP450/JSSX国際合同大会(静岡)一般シンポジウムの「見どころ・聞きどころ」

【今さら聞けない抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の体内動態研究】

  • 第1回:序論:ADCのコンセプトと構成要素(苅部 剛)

【DMPK 51に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」】

  • 安定同位体標識化合物を用いた代謝物体内動態と代謝物生成部位の定量的解析
  • 溶出試験条件下におけるプラゾシン塩酸塩のリン酸塩緩衝液による溶出阻害
  • 外側血液網膜関門モデル細胞によるLysoTracker Red取り込み特性

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トピックス

ショート動画で簡単チェック! 2023年ICCP450/JSSX国際合同大会(静岡)一般シンポジウムの「見どころ・聞きどころ」

 ICCP450/JSSX国際合同大会(静岡:9/25~9/29)では,32の一般シンポジウムがパラレルに開催されるため,どれに行くのか迷ってしまいます.スケジュールを立てる際の参考にするため,各シンポジウムを紹介するショート動画を作成していただきました.各シンポジウムの要点をつかむため,是非ご覧ください.・・・(動画はNLホームページへ

今さら聞けない抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)の体内動態研究

顔写真:苅部 剛

第1回:序論:ADCのコンセプトと構成要素

第一三共株式会社 薬物動態研究所
苅部 剛

 はじめまして!「細胞治療」に続くnew modalityの研究開発における薬物動態研究入門の第二弾は,「抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate: ADC)」になります.「ADC」は,がん領域における承認薬物数がここ数年で飛躍的に増加しており,現在ではそのベースである「低分子」および「抗体」同様にバリデートされたmodalityといっても過言ではありません.そこで,今さら聞けない「ADC」の体内動態研究として,本シリーズではその特徴的な性質を薬物動態的観点からどのように評価していくかについて,自社での研究の取り組みも含めて全五回にわたりご紹介していきたいと思います.第一回は,本連載の導入として,「ADC」とはどのようなmodalityか,についてご説明致します.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

DMPK 51に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

安定同位体標識化合物を用いた代謝物体内動態と代謝物生成部位の定量的解析

Kataoka, M., et al.

 我々は,同位体IV法(薬物経口投与後にその安定同位体標識体を微量静脈内に投与し,両化合物の血漿中濃度推移から薬物体内動態を評価する手法)を考案し,薬物の体内動態に及ぼす影響(非線形や薬物相互作用)の解析が同一個体,同一条件下にて実施可能であることを報告してきた.また,薬物代謝酵素阻害時に代謝物の体内動態も大きく変化することから代謝物体内動態評価の重要性も報告している.これらの研究を遂行する中で,同位体IV法を用いて代謝物の体内動態を詳細に解析できる可能性を想起したことは必然であろう.薬物と代謝物の組み合わせとして,ベラパミルとノルベラパミル(活性代謝物)を選択し,同位体IV法により代謝物の体内動態を解析した.全身循環血中に存在するノルベラパミルの多くは小腸初回通過効果により生成されたものである一方で,小腸と肝臓のCYP3Aが強く阻害された条件下では,全身循環血中に移行した親薬物由来であることが明らかとなった.本手法は臨床試験への適用も可能であることから,臨床試験の薬物相互作用試験としての導入も視野に入れた研究を遂行する予定である.

 

[Regular Article]

溶出試験条件下におけるプラゾシン塩酸塩のリン酸塩緩衝液による溶出阻害

Sudaki, H., et al.

 プラゾシン塩酸塩(PRZ-HCl)は高血圧・排尿障害治療薬の経口固形製剤である.PRZは難溶性薬物であり,溶解性を改善するため塩酸塩として製剤化された.ヒトでは速やかに吸収されるものの,局方溶出条件下では,過飽和を示さない事が知られている.本報では,過飽和を示さない原因を解明するため,リン酸塩緩衝液(pH6.8, 50mM)を用いNon-sink条件下の溶出試験中のPRZ-HCl固体形態についてラマン分光法を用いて検討した.その結果,PRZ原薬粒子が塩酸塩から速やかに溶解度積の低いリン酸塩に変化する事を発見した.パドル50回転では一度も過飽和せずに,100回転以上では,過飽和後,PRZフリー体へと変化した.特に50回転では,塩酸塩の粒子表面で,リン酸塩が析出している可能性があり,現在その詳細について検討中である.リン酸緩衝液では適切に評価できないため,近年菅野らが開発した簡便な落し蓋を用いた炭酸緩衝液での溶出挙動も評価した.100回転では速やかに溶出し,リン酸塩緩衝液よりも高い過飽和度を示した.消化管は炭酸により緩衝されているため,リン酸塩の溶解度積の低い薬物では溶出条件の設定には留意が必要である.今後,様々な難溶性化合物のリン酸塩析出挙動についても研究を発展させていきたい.

 

[Regular Article]

外側血液網膜関門モデル細胞によるLysoTracker Red取り込み特性

Tega, Y., et al.

 リソソームトラッピングは,塩基性薬物がその物理化学的性質によって細胞内のリソソームに集積する現象であり,薬物動態や細胞機能に影響を与えることが知られている.網膜色素上皮(RPE)細胞は外側血液網膜関門を形成すると共に視細胞外節の貪食機能を有し,網膜恒常性維持に重要な役割を果たすが,本細胞のリソソームトラッピングに関わる情報は限られていた.本研究では条件的不死化ラットRPE細胞であるRPE-J細胞を用い,リソソームトラッピングのマーカー化合物であるLysoTracker Red(LTR)の輸送特性を解析した.その結果,LTR取り込みは時間および温度依存性を示し,細胞質とリソソーム間のpH勾配を減弱させるNH4ClおよびFCCP処理で減少したことから,RPE-J細胞にてリソソームトラッピング機構の存在が示唆された.また,脂溶性の塩基性薬物群がLTR取り込みを強力に阻害すると共に,細胞内小胞化を引き起こすことを見出した.今後,細胞内小胞化誘導機構などの詳細を解明することで,RPE細胞におけるリソソームトラッピングの重要性が深まるものと期待される.

 

【お詫び】 2023年2月発行のニュースレターVol.38(1)において、DMPK48に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」に掲載すべきメッセージの一部が、ご寄稿いただいていたにもかかわらず、掲載されていなかったことが判明いたしました。現在、Webページにメッセージを掲載しておりますますので、併せてご確認いただければ幸いです。
https://www.jssx.org/nl/nl38-1/dmpk48/
メッセージをご寄稿いただいた著者の先生方には深くお詫び申し上げるとともに、今後は確認作業を徹底し、再発防止に努めてまいります。誠に申し訳ありませんでした。

ニュースレター編集委員長 登美斉俊

標識体合成から創薬・開発申請まで【株式会社ネモト・サイエンス】
新たな挑戦 動物からヒトへ【積水メディカル株式会社創薬支援事業部】