[Review Article]
Satsu, H., et al.
腸管の最表面に位置する腸管上皮細胞は食品成分に最も高濃度かつ高頻度に曝されることから,腸管上皮細胞の機能は食品成分によって制御・調節されることが考えられる.本総説では食品成分が腸管上皮細胞に及ぼす影響について,主として腸管上皮モデル細胞を用いた著者らの研究を紹介した.糖質過剰摂取に起因する疾患予防の観点から,腸管上皮でのグルコース・フルクトース吸収を担うトランスポーターであるSGLT1及びGLUT5の活性を阻害する食品成分をそれぞれ探索し,メトキシフラボノイドであるタンジェレチンやカテキン類の一種であるエピカテキンガレートがSGLT1及びGLUT5活性を阻害することを見出した.並行して,食品成分が解毒代謝酵素の発現に及ぼす影響について検討を進め,ある種のフィトケミカルやアミノ酸がPXRやNrf2といった転写因子を介して解毒代謝酵素の発現を制御することを示した.本内容が,食品成分が薬物動態に及ぼす影響,また将来的に疾病予防が期待される機能性食品の開発などにつながることが期待される.
[Review Article]
Tsume, Y.
近年,科学技術の進歩より,生体内の知識やコンピューターシミュレーション技術が大幅に躍進している.絶食時,摂食時の胃-小腸の知識が深まるとともに,これらの生体内の特徴を理解し,その特徴を取り入れた溶出試験法,つまり経口吸収を予測する溶出試験法というものが確立されつつある.こういった溶出試験結果とモデリング(PBPKやPBBM)を組み合わせることで経口吸収薬物の血中濃度曲線をヴィジュアライズすることができる.この工程は,経口製剤の開発に用いられており,これらの技術を利用し,バーチャルバイオイクイバレンス(バーチャルBE)を行われている.また,BEの範囲を認識することで血中濃度曲線から,BEを満たす経口製剤の溶出曲線の安全な範囲(セーフスペース)を見つけることができる.つまり,溶出試験でBEかNon-BEかの判断ができる.本文では,これらの事を簡単にまとめた.
[Regular Article]
Yamada, N., et al.
Caco-2細胞は,腸管上皮細胞モデルとして汎用されているが,CYP3A4やUGT1A1の発現量がヒト小腸に比べて低いこと,カルボキシルエステラーゼ(CES)発現パターンが,ヒト小腸と異なりCES1を高発現している.本研究では,ゲノム編集技術を用いて,CYP3A4-POR-UGT1A1-CES2ノックインおよびCES1ノックアウトCaco-2(ゲノム編集Caco-2)細胞を作製しました.ゲノム編集Caco-2細胞は,機能的なCYP3A4,UGT1A1,CES2を高発現する一方で,CES1タンパク質は消失していた.CES1 の基質であるテモカプリルを用いた透過実験では,ゲノム編集Caco-2細胞におけるテモカプリルのPappは,WT Caco-2細胞におけるPappより高かった.興味深いことに,ゲノム編集Caco-2細胞におけるアピカル側のテモカプリラット(テモカプリル代謝物)の量は,WT Caco-2細胞よりも少なかった.これらの結果から,ゲノム編集Caco-2細胞は,WT Caco-2細胞よりも,腸管での薬物吸収・代謝を予測するモデルとして適していることが示唆された.
[Regular Article]
Ishikawa, M., et al.
臨床においてバルプロ酸(VPA)を用いる際は,血中総VPA濃度(CtVPA)に基づく投与設計がなされるが,CtVPAを推奨濃度域内にコントロールしても重篤な副作用が発現する場合や,十分な治療効果が得られない症例を数多く経験する.そこで本研究では,より有効かつ安全な治療を目指して遊離型VPA濃度の予測モデルを構築し,既報のモデルとの精度比較を行なった.まず,予測に適したパラメータをLangmuir式に基づくシミュレーション及び実患者におけるVPA遊離型分率との関連解析により選定した.次に,選定した(CtVPA[μM]-2 × 血清アルブミン濃度(SA)[μM])を用いた遊離型VPA濃度の予測モデルを構築した.外部データセットを用いた予測精度の検証の結果,本モデルは既報のモデルと比較して,より幅広い患者においてより高い精度で遊離型VPA濃度を予測できる可能性が示された.CtVPAやSAはVPA使用患者において広く測定されていることから,今後,本予測モデルが臨床現場で用いられ,VPAの有効かつ安全な治療につながることが期待される.
[Regular Article]
Yagi, R., et al.
抗菌薬の投与は,腸内細菌叢の変化を通じて薬物動態に影響を与えることが知られており,この調節には胆汁酸が関与している.本研究では,臨床現場での抗菌薬投与期間の違いに着目し,肝胆汁酸プロファイルおよび肝臓,腎臓,脳毛細血管における薬物動態関連タンパク質の発現への投与期間の影響を明らかにする事を目的とした.マウスに抗菌薬を5日または25日間投与した結果,投与期間依存的に肝胆汁酸プロファイルの有意な変化が見られた.薬物動態関連タンパク質は肝臓で12種が有意な発現変動を示していた.加えてCyp3a11を含む6種が投与期間依存的な発現変動を示した.一方で,腎臓および脳毛細血管では,いずれの投与期間においても薬物動態関連タンパク質の有意かつ1.5倍以上の発現変動は認められなかった.本結果は,抗菌薬との薬物相互作用は投与期間に応じた肝臓の代謝変化を考慮する必要性を示唆するものである.今後,ヒトにおいても同様なメカニズムが確認されれば,併用薬の薬効予測や副作用低減への貢献が期待できると考える.
[Note]
Shimizu, M., et al.
トリメチルアミン尿症の原因の一つとして,フラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)遺伝子変異がある.筆者らは本症表現型および東北大学東北メディカル・メガバンク統合データベースのゲノム情報の解析を行い,新規FMO3遺伝子変異を報告してきた.これらの成果は医療機関の先生方との共同研究につながっている.本研究では市中病院の医師の協力のもと,複数の塩基置換変異を有するFMO3遺伝子型を同一家系の2家族の遺伝子解析から明らかにした.一方,まれな複数の塩基置換変異の組合せとなるハプロタイプを有する被験者の存在が明らかとなった.本ハプロタイプは日本人では初めて4種の変異が同一アリルに存在するものであった.その組合せを明らかにするためには家系解析が重要であった.以上のことから,さらなる疾患の原因解明および疾患の理解を深めるためには,医師等とのさらなる連携が重要であることが推察された.
[Note]
Uehara, S., et al.
相互作用評価には,被作用薬代謝に関与する酵素寄与率の情報が重要である.著者らは,免疫不全マウスにヒト肝細胞を移植後,P450 1A2と2C9不活化薬フラフィリンとチエニリン酸を投与し,単一P450分子種を不活化させたモデル動物での各P450プローブ動態を報告してきた.本研究では,P450 3A4/5阻害薬アザムリンを前投与し,デキサメタゾンをP450 3A4/5指標基質として評価した.アザムリン15mg/kg投与群では,無処置群との間で,デキサメタゾン10mg/kg静脈内投与後の6β-ヒドロキシデキサメタゾンの血漿濃度および24時間尿中濃度に有意差が観察された.In vitro酵素源をP450 3A4/5不活化肝ミクロゾームに置き換えることにより,6β-ヒドロキシデキサメタゾン生成が93%抑制された.以上,アザムリン処置ヒト肝キメラマウスが代謝的に不活性化されたP450 3A4/5のin vivoモデルとなりうることが示唆された.
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