Newsletter Volume 38, Number 1, 2023

受賞者からのコメント

顔写真:藏敷栞菜

ベストポスター賞を受賞して

熊本大学薬学部 微生物薬学分野
藏敷栞菜

 この度,日本薬物動態学会第37回年会において,「Transport characteristics of genetically engineered BBB-permeable cyclic peptide-conjugated monoclonal antibody in vitro and in vivo」という演題で,ベストポスター賞という名誉ある賞をいただきまして大変光栄に思います.この場を借りて,審査いただきました選考委員の先生方,並びに日本薬物動態学会の関係者の皆様に心より御礼申し上げます.

 近年,モノクローナル抗体は,治療満足度が低い中枢神経系疾患の治療薬として期待されています.しかし,モノクローナル抗体の脳移行性は血液脳関門(BBB)のバリア機能により極めて低くなっており,臨床試験の失敗,高用量投与による副作用発現や医療経済への負担増大の原因となっています.そこで我々はモノクローナル抗体のBBBを介した脳内送達を促進させる基盤技術の構築を目指しています.以前,当研究室において,高分子化合物のBBB透過を可能にするBBB透過性環状ペプチド「SLSペプチド」を同定しました (Yamaguchi, et al. 2020).そこで本研究では,モノクローナル抗体のH鎖C末端に遺伝子工学的にSLSペプチドを発現させたSLS発現抗体のin vitro におけるBBB透過およびin vivoにおける脳内分布の評価を行いました.

 まず,ヒト脳毛細血管内皮細胞モデルであるhCMEC/D3およびラットBBBモデル細胞を用いてSLS発現抗体のin vitro実験における細胞内取り込み量を測定した結果,非発現抗体と比較して有意な取り込み量の増加が観察されました.次にマウスを用いたin vivo実験によりそれぞれの抗体の脳移行性を評価しました.投与1時間後におけるSLS発現抗体の脳内量は非発現抗体と比較して有意に6倍増加しました.以上のことから,SLSペプチドを発現させることで,モノクローナル抗体のBBBを介した脳内移行を促進可能であることが示唆されました.今回確立した方法は既存のモノクローナル抗体製造技術をそのまま用いることができるため,あらゆるモノクローナル抗体に適応可能であると考えられます.本研究成果は,中枢神経系疾患のための抗体医薬の開発に貢献できると期待されます.

 最後になりましたが,本研究を実施するにあたり中心的にご指導いただいた伊藤慎悟准教授をはじめ,当研究室の教員および学生の皆様にこの場を借りて深く御礼申し上げます.