ニュースレター編集委員会より

はじめに

 暑い日が続いており,蝉の声も一層勢いを増しておりますが,夏休みとなりテレワーク中に時折元気いっぱいの子供の声が聞こえてきますと,夏の盛りを感じることができます.今年も残暑は厳しいかと思いますので,皆様,熱中症にはくれぐれもお気を付けください.

 さて,持続可能な開発目標(SDGs)については,教育の現場でも積極的に取り上げられているようで,子供と議論する機会も増え,地球温暖化問題も体感される昨今では,広く意識されるようになってきたと感じます.海外ではコロナ禍で観光客が激減した半面,海の環境が改善し,アフターコロナにおいては,観光客へのインセンティブと引き換えに,海の保全活動に参画してもらい,観光と環境を両立するビジネスモデルが積極的に活用されているそうです.子供と海に出かけることがありますので,日本での取り組みを調べてみますと,これまでのインバウンド需要で課題となっていた環境への付加を軽減しようと,サステナブル・ツーリズムが注目され,旅行者の意識も高まっているそうです.美しい自然を守りつつ,みんなが持続的に発展できるニューノーマルな未来への取り組みが確かに始まっているようです.今秋の横浜での年会では,ニューノーマルを実践しつつ,薬物動態研究の未来を感じながら,参加者の皆様と活発に議論・交流できるノーマルを存分に楽しみたいと思っています.第7波のコロナ感染が続いており,早期の収束を願うばかりですが,未来へのわくわく感を忘れずに,暑い夏を乗り切りたいと思います.(K.I.)

【トピックス】

  • 年会長インタビュー:第37年会(横浜)の「見どころ・聞きどころ」(平林英樹)

【(新企画)細胞治療製品の研究開発における薬物動態研究入門】

  • 第一回: まずはこれから! いま知っておくべき細胞動態評価のための定量分析法(後藤昭彦,守屋 優,中山美有,山本俊輔)

【若手が取り組む動態研究】

  • トランスポーターの機能から見るヒトiPS細胞由来血液脳関門モデルの有用性(黒澤俊樹)

【DMPK 45に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」】

  • 2種の標識体を用いたDS-8500aのヒトおよびサルHot ADME試験およびin vitro評価によるオキサジアゾール環開環代謝および加水分解の種差解明
  • CYP2C9テンプレートシステムの構築と代謝予測への適用

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トピックス

顔写真:平林英樹

年会長インタビュー:第37年会(横浜)の「見どころ・聞きどころ」

武田薬品工業株式会社 薬物動態研究所
平林英樹

 平林年会長に聞く,第37年会(横浜)の一押しポイント!3年ぶりにオンサイト形式で開催予定の今回の年会を最大限活用し,楽しむには?ニュースレター初の動画コンテンツで,年会の概要を把握し,年会長の意気込みをお感じください.参加に前向きな方はもちろん,(実は)迷われている方も最終判断する前に,まずはご覧ください.・・・(動画はNLホームページへ/会員専用

細胞治療製品の研究開発における薬物動態研究入門

第一回: まずはこれから!いま知っておくべき細胞動態評価のための定量分析法

集合写真:後藤昭彦,守屋 優,中山美有,山本俊輔

(左から守屋,中山,山本,後藤)

武田薬品工業株式会社 リサーチ 薬物動態研究所
後藤昭彦,守屋 優,中山美有,山本俊輔

 細胞治療は,文字通り生きた細胞を患者へ投与もしくは移植することで細胞・組織・臓器の機能を改変・修復する革新的な治療です.細胞治療製品は,これまでに研究されてきた低分子化合物や抗体医薬,核酸医薬などと比較して,医薬品としての性質が大きく異なるので(体内で『増殖』したり,組織・臓器一部として『生着』したり!),薬物動態研究を行う際には従来の常識に捕らわれずに試験デザインやデータ解釈を行う必要があります.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

若手が取り組む動態研究

顔写真:黒澤俊樹

トランスポーターの機能から見るヒトiPS細胞由来血液脳関門モデルの有用性

帝京大学 薬学部 薬物動態学研究室
黒澤俊樹

 我が国では,認知症や統合失調症などの中枢疾患に有効な治療薬の開発と治療方法の確立が喫緊の課題である.中枢への薬物輸送は血液脳関門 (Blood-Brain Barrier; BBB) におけるトランスポーターや受容体などの機能性タンパク質の働きが大きく影響することから,ヒトBBBの機能を再現したモデル細胞の確立が望まれてきた.これまでに初代培養細胞や不死化細胞が樹立されてきたが,供給の不安定さや細胞間の密着結合性の欠乏などの問題を抱えている.近年,・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

DMPK 45に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

2種の標識体を用いたDS-8500aのヒトおよびサルHot ADME試験およびin vitro評価によるオキサジアゾール環開環代謝および加水分解の種差解明

Makino, C., et al.

 構造中央に1,2,4-オキサジアゾール環を持つDS-8500aは,オキサジアゾール環の開裂をはじめ広範に代謝を受けることがわかっている.そこで,オキサジアゾール環の両側をそれぞれ放射標識した化合物を計2種用意し,ヒトおよびサルHot ADMEを実施した.その結果から,ヒト・サルではオキサジアゾール環の開環に腸内細菌が関与することが示唆された.また,ヒト・サルの血漿中では,アミド加水分解体が主代謝物であることが判明した.In vitro試験で腸内細菌関与の種差を解明(ヒト・サル>ラット)し,また,アミド加水分解の責任酵素はFAAH2(ラットで欠損)が主,一部CES1であることを見出した.Non-CYP代謝はまだ解明されていない点も多く,種差に関する情報も限られている.今回得られた知見を広げ,オキサジアゾール環の還元代謝や加水分解代謝に関してさらに検討を続けたいと考えている.

[Regular Article]

CYP2C9テンプレートシステムの構築と代謝予測への適用

Yamazoe, Y., et al.

 CYP2C9はワルファリンや非ステロイド消炎薬を含む多くの物質の代謝に関わっています.これまでに医薬品を代謝するチトクロームP450については,発現系標品を使って代謝特性が詳細に調べられてきました.私たちはこれらの情報を再利用して基質側から医薬品を代謝するチトクロームP450の基質結合部位を再構築する方法で10種のチトクロームP450のテンプレートシステムを作ってきました.酵素内に入ってから基質が再配置される仕組みを導入することで,予測精度が向上し,CYP1A1, CYP1A2, CYP2E1, CYP3A4, CYP3A5およびCYP3A7が関わる99%以上の反応についてテンプレート上での基質配置を再現することが出来ています.今回はCYP2C9の代謝反応を解析してテンプレートシステムを構築しました.CYP2C9が関わる450以上の反応を調べて適用性を確認しました.代謝における部位選択性だけでなく,異分子基質による反応亢進現象についての機序解析結果も示しています.

標識体合成から創薬・開発申請まで【株式会社ネモト・サイエンス】
新たな挑戦 動物からヒトへ【積水メディカル株式会社創薬支援事業部】