[Review Article]
Endo-Takahashi, Y. and Negishi, Y.
近年,有用な遺伝子・核酸デリバリーシステムとして,体外からの物理刺激(超音波,磁力,光など)とその応答性キャリアの併用療法が注目を集めている.これらのシステムは,物理エネルギーの適用部位でのみ有効となることから,比較的容易に標的部位特異的な遺伝子・核酸デリバリーを実現することができる.なかでも超音波は,既に診断領域においてその簡便性や安全性の高さから汎用されている技術であり,遺伝子・核酸デリバリーへの応用においても期待されている.マイクロサイズ,あるいはナノサイズの超音波造影ガス封入粒子(マイクロバブル・ナノバブル)は,超音波造影効果を増強するのみならず,薬物・遺伝子・核酸のデリバリー効率を高めることも報告されている.本総説では,超音波を用いた遺伝子・核酸デリバリーツールとしての種々のマイクロバブル・ナノバブルの開発・利用についてまとめ,診断と治療の融合システム(セラノスティクスシステム)への展望について考察している.
[Regular Article]
Nakamura, Y., et al.
プロスタグランジン膜輸送体であるSLCO2A1が薬物を輸送するという報告は少ない.今回我々は,偶然にもSLCO2A1がpH指示薬として頻用されるフェノールスルホンフタレイン(PSP)を輸送することを発見した.臨床でPSPは腎機能検査薬として利用されるため,PSPを野生型およびSlco2a1欠損マウス(-/-)に静脈内投与し血漿中濃度を測定した.その結果,両群とも血漿中PSP濃度は2-コンパートメントモデルに従って消失した.Slco2a1(-/-)群では,体内からの消失(ke)には変化が見られなかった一方で,投与直後の血漿中濃度低下,中枢コンパートメントの分布容積(V1)増加,および肺組織中濃度低下が観察された.これらの結果は,PSPの薬物動態パラメーターから体内のSLCO2A1機能変化が評価できることを示唆するものである.SLCO2A1は,診断が困難な非特異性多発性小腸潰瘍症(CEAS)の原因遺伝子であることから,PSP等のSLCO2A1代替基質がCEASの診断に応用可能か今後検討していきたい.
[Regular Article]
Nakaoka, T., et al.
陽電子放出断層撮影(PET)は,非侵襲的にヒト臓器中の薬物濃度を計測できるため,新規化合物の体内動態のみならず,対象臓器の生体内でのトランスポーター活性を測定可能なツールとなってきた.近年,著者らは臨床応用可能な[18F]ピタバスタチンの合成法を確立し,本研究では健康成人男性について臨床PET試験を行い,その有用性を検証した.
Integration plot法により肝取り込みクリアランスを算出したところ,水服用時(ベースライン)には7.7 mL/min/kgであったが,肝取り込みを担うトランスポーターOATP1B1/1B3の阻害薬であるリファンピシンを前投与したところ,肝取り込みクリアランスは1.7 mL/min/kgに低下した.また,胆汁排泄クリアランスも同様に水服用時の52%に低下した.[18F]ピタバスタチンは代謝安定性も高く,また阻害薬に対する応答性も高いため,今後,生体内でのトランスポーターの活性評価に役立つことが期待される.
[Regular Article]
Yamada, T., et al.
ダプトマイシンは,環状リポペプチド系の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌薬である.近年,重症感染症患者ではより高用量(8-10 mg/kg)での投与が推奨されているが,PK/PDに基づく個別化投与法は十分に確立されていない.本研究では,ダプトマイシン投与患者の血中濃度を用いて母集団PKモデルを構築し,シミュレーション解析により至適投与法を検討した.有効性の指標としてAUC/最小発育阻止濃度(MIC)比およびピーク濃度/MIC比,安全性の指標としてトラフ濃度を用い,それぞれ666,60,24.3 mg/Lを閾値とした.母集団PKモデルでは,クリアランスの有意な共変量として腎機能が組み込まれた.シミュレーション解析の結果,MIC値0.5 mg/L以下であれば,標準用量(6 mg/kg)での有効域達成率は90%以上であった.一方,MIC値1.0 mg/Lの場合,腎機能正常群では高用量(10 mg/kg)での投与が推奨された.今後は,腎機能,MIC値に基づいて構築した推奨投与法を臨床で活用し,有用性・安全性を検証したいと考えている.
[Regular Article]
Yamashiro, T., et al.
最近,チアミン(ビタミンB1)の腸管吸収に働くヒトSLC19A3が,ピリドキシン(ビタミンB6)に対しても輸送活性を有することが見出された.一方で,ラットの腸管においては担体介在性のピリドキシン取り込みが認められず,単純拡散により吸収される可能性が報告されていた.本研究では,ヒトSLC19A3のピリドキシン輸送機能が確認された一方で,ラット及びマウスSlc19a3はその輸送機能を欠損していることが見出された.さらにラット小腸組織では,ピリドキシンの取り込みクリアランスは低く,非飽和性であった一方で,チアミンの取り込みは顕著な飽和性がみられ,Slc19a3阻害剤であるアンプロリウムによりほぼ完全に阻害された.これらのことは,ラット小腸が担体介在性ピリドキシン取り込み機能を持たず,それがSlc19a3のピリドキシン輸送機能の欠損のためであることを強く示唆するものである.今後,Slc19a3のピリドキシン輸送機能の動物種差について,その分子機構が解明されることが望まれる.
[Note]
Uehara, S., et al.
チトクロムP450 3A5(CYP3A5)はCYP3A4と類似した基質特異性を持つ成人肝に発現するCYP3A酵素である.肝臓におけるCYP3A5の発現量は遺伝的多型に依存して,大きな個人差を示す.本研究では,ヒト肝キメラマウスを用いてin vitro CYP3A5基質であるT-1032の体内動態を調べた.まず,ヒト肝キメラマウス由来肝細胞によるT-1032 N-酸化酵素活性を調べたところ,CYP3A5 *1アリルを保有する肝細胞に比べ,CYP3A5 *3/*3(CYP3A5低発現型)保有肝細胞のT-1032 N-酸化酵素活性は低値を示した.次にヒト肝キメラマウスへT-1032を経口投与後の未変化体およびそのN-酸化体の血中濃度を測定したところ,未変化体の体内動態に対するCYP3A5遺伝的多型の影響は軽微であったが,T-1032 N-酸化体の最高血中濃度はCYP3A5 *1/*7保有ヒト肝キメラマウスに比べてCYP3A5 *3/*3保有ヒト肝キメラマウスで高値を示した.以上,ヒト肝キメラマウス体内で,移植ヒト肝細胞のCYP3A5遺伝子型に依存したN-酸化体の生成が認められ,T-1032のin vitroおよびin vivo CYP3A5プローブ基質としての有用性が示唆された.
[Note]
Uehara, S., et al.
本研究では,ヒトおよびヒト肝キメラマウス由来肝ミクロゾームの薬物酸化酵素活性を比較した.ヒトCYP1A/2A/2B/2C/2E/3A酵素により触媒される薬物酸化酵素活性は,ヒトおよびヒト肝キメラマウス肝ミクロゾームの間で類似していた.一方,げっ歯類CYP2C/2D酵素により触媒されるブフラロール水酸化酵素活性は,ヒト肝ミクロゾームに比べてヒト肝キメラマウスおよび非移植マウスの肝ミクロゾームで高値を示した.CYP2D酵素により触媒されるプロパフェノン水酸化反応の位置選択性はヒトおよびヒト肝キメラマウス肝ミクロゾームで異なっており,ヒト肝キメラマウス肝ミクロゾームはマウス特異的な4'水酸化酵素活性を効率よく触媒した.以上,ヒトおよびヒト肝キメラマウスの肝薬物酸化酵素活性は類似しているが,げっ歯類CYP2C/2D酵素により触媒される薬物酸化反応は代謝速度や位置選択性が両者で異なる.これらの結果はヒト肝キメラマウスを薬物動態研究に有効活用するための基盤情報となる.
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