[Regular Article]
Uehara, S., et al.
我々は新たなヒト肝細胞移植マウスNOG-TKm30を作製し,従来型TK-NOGマウスの雄性不妊と雌性のガンシクロビル低感受性の問題を克服した.NOG-TKm30ヒト肝キメラマウスでは,雌雄ともにヒトアルブミンが高いレベル(約15mg/mL血漿)で12週以降も維持された.キメラマウス肝におけるCYP1A2/2C9/2D6/2E1/3A4酵素の分布はヒト肝組織と同様であった.リファンピシンをNOG-TKm30ヒト肝キメラマウスに反復経口投与したところ,肝CYP3A/2C酵素の発現誘導に伴い,ミダゾラムおよびオメプラゾール経口投与時のAUCの減少が認められ,薬物間相互作用をin vivoで観察できるモデルであることが示された.また,NOG-TKm30モデルでは妊娠ヒト肝キメラマウスを作製することが可能になり,母体に経口投与したサリドマイドの代謝物5-hydroxy体およびdihydroxy体が胎子血漿中で検出されることを示した.今後,薬物動態,および,安全性研究領域で,NOG-TKm30ヒト肝キメラマウスが活躍することを願っている.
[Regular Article]
Katagiri, Y., et al.
BCRPは血液脳関門において中枢神経系への薬物移行を制限しているが,BCRP基質の多くはP-gp基質でもあるためBCRP単独の影響を評価することが難しく,薬物の中枢移行性に対するBCRPの定量的な影響は未だ明らかになっていない.本研究では,BCRP特異的基質およびP-gp/BCRP dual基質を用いてラットにおける脳およびCSF移行性に対するBCRPの影響を検討した.その結果,中枢移行性に対するBCRPの影響はBCRP-MDCK II細胞から求めた輸送活性と正の相関関係にあり,同程度のin vitro BCRP輸送活性を示すBCRP特異的基質・P-gp/BCRP Dual基質間で同程度であった.さらに,BCRPは基質のCSF移行よりも脳移行を強く制限していることが明らかになった.本研究はBCRP基質となる医薬品候補化合物の中枢への分布を理解する一助となると考えている.
[Regular Article]
Kido, Y., et al.
CNS創薬では早期ステージのin vivo薬効評価や脳移行性の解析にマウス(齧歯類)を用い,構造最適化が進んだ化合物のヒト薬効予測や安全性マージンの見積りにサルやイヌ(非齧歯類)を用いることが多い.これら動物種の血液脳関門におけるP-糖蛋白質(P-gp)やbreast cancer resistance protein(BCRP)の発現量に種差が見られるが,非齧歯類,特にイヌの薬物脳移行性に関する情報は少ない.我々はP-gpやBCRPが生じる薬物脳移行性の種差を理解するため,P-gpやBCRPノックアウトマウスを用いて種々のP-gpの弱い基質,強い基質及びBCRPの基質を選び,サル,イヌ及びマウスの脳移行性や非齧歯類の脳脊髄液への移行性を比較した.本稿は非齧歯類の脳移行性を実測できる機会が限られている中,5年かけて収集したデータをまとめており,CNS創薬にご活用いただければ幸いである.
[Regular Article]
Akiyoshi, T., et al.
本研究では薬物代謝酵素 cytochrome P450 (CYP) 2C9に対する2種のグレープフルーツジュース (GFJ) 成分 (bergamottin; BG, dihydroxybergamottin; DHB),及び果実由来成分で健康食品などとして用いられている resveratrol (Resv) の阻害特性を in vitro で評価した.その結果,2種の GFJ 成分はいずれもCYP2C9の活性を時間依存的に阻害 (mechanism-based inactivation; MBI) し,これは CYP2C19,CYP3A4に対する阻害様式と同じであった.一方 Resv は CYP2C9 を非競合的に阻害したが,GFJ 成分と異なり MBI は示さなかった.以上の結果から,GFJ や Resv を摂取すると,小腸 CYP2C9 の阻害を介した薬物相互作用が起きる可能性が見出された.さらに,GFJ の影響は,長時間持続することが考えられる.
[Note]
Uno, Y., et al.
ABCトランスポーターはgene familyを形成しており,ヒトではMDR1(ABCB1,P-gP)を始め,薬物動態に重要な分子種がいくつか同定され機能が解析されている.本研究では,医薬品開発で重要な動物種であるカニクイザルにおいて,重要なヒトABCトランスポーターのオーソログを同定し解析した.これらのサルABCトランスポーターは対応するヒト分子種に高い相同性を示し,進化系統樹でヒト分子種に近い位置を占め,遺伝子・ゲノム構造や遺伝子発現の組織特異性がヒト遺伝子に概ね似ていた.以上の結果から,これらのABCトランスポーターは分子レベルでカニクイザルとヒトでよく似た特徴を有していることが示唆された.本研究成果は,これまでに明らかになっているABCトランスポーター機能の情報に加え,カニクイザルの薬物動態を理解する上で有用な知見になるものと期待される.
[Review Article]
Nakase, I. and Takatani-Nakase, T.
生体を構成する殆ど全ての細胞が分泌する小胞「エクソソーム」は,microRNAや酵素等の生理活性分子を内包し,体内でそれらの“メッセージ分子”を運ぶことで,細胞間コミュニケーションに大きく関わっています.疾患関連細胞においても,エクソソームを介したコミュニケーションが,疾患進展に大きく影響することが明らかにされ,転移も含むがんの悪性化へのエクソソームの寄与が大きく注目されています.本総説では,乳がんにおけるエクソソームの疾患進展への関与(特徴的なエクソソーム内包microRNA,及び,シグナル伝達等)や,リキッドバイオプシーでの単離エクソソームを用いた診断方法,加えて,エクソソームを薬物送達運搬体として用いた治療基盤技術の開発を中心に,我々の研究(機能性ペプチド修飾型エクソソーム技術)も含めて最新の知見・技術をまとめました.本総説がエクソソームの基礎,及び,最近の研究動向の理解に少しでもお役立て頂けるよう願っております.
[Review Article]
Nakao, J., et al.
核酸医薬のターゲットは,翻訳過程や転写後プロセシングの制御を狙った「mRNA」から,遺伝子疾患等の根治を目指した「ゲノムDNA」へと変遷しつつある.中でも,CRISPR/Cas9システムに代表されるゲノム編集ツールは,遺伝子疾患治療法の一つとして現在最も注目を集めており,急速に開発が進められている.本総説では,ゲノム編集技術を大きく発展させた様々なゲノム編集ツールについて概説し,その医療展開における課題について概説した後,次世代のゲノム編集として期待される「人工核酸を用いたゲノム編集技術」について紹介した.本格的に臨床応用も始まる中で,この技術が我々の身近な医薬品として普及するには,今後も分野の垣根を超えた様々な異分野融合研究が必要であると考えられる.本稿が,読者の方々に,ゲノム編集技術の医療応用を身近なものとして感じて頂く一助となったのであれば幸甚である.
[Review Article]
Sakurai, F., et al.
人類の歴史は,感染症との戦いの歴史である.近代に入り,感染症患者が大きく減少したことで感染症の脅威は忘れさられようとしていたが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は,感染症が依然として人類の脅威であることを我々に思い出させた.感染症に対する最も効果的な対抗策は,ワクチンである.特に開発スピードという点を考慮すると,COVID-19のような新興感染症に対しては,核酸を基盤としたワクチンが望ましいと考えられる.なかでもアデノウイルス(Ad)を基本骨格としたAdベクターワクチンは,高効率な抗原遺伝子の発現能や適度な自然免疫活性化能を有していることから大きな期待を集めており,種々の感染症に対するワクチンとして臨床開発が進められている.本総説では,Adベクターの基本的な特性,ワクチンベクターとしての有用性に加えて,世界各国で承認されているCOVID-19に対するAdベクターワクチンについても解説した.本総説が,今後起こりうるパンデミックに対するワクチン開発の一助となることを期待する.
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