DMPK 46に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
かんきつ中成分によるOATP1A2阻害強度に影響を与える諸因子
Araki, N., et al.
近年,かんきつ果汁と内服薬との薬物相互作用が問題となっており,そのターゲットとして小腸有機アニオン輸送ポリペプチド (OATP) 1A2が注目されている.かんきつ果汁中のOATP1A2阻害成分としてナリンゲニンの配糖体であるナリンギンが広く知られているが,果汁中にはこれ以外にも様々なナリンゲニン配糖体が含まれている.そこで,糖鎖付加の程度が異なる天然のナリンゲニン配糖体のOATP1A2阻害強度を調べたところ,糖鎖数が少ないほうが阻害が強かった.また,OATP1A2の遺伝的変異もナリンゲニン配糖体の阻害強度に影響を与えることが明らかとなった.従って,かんきつ果汁との相互作用強度を論じるうえでは,含有される複数の成分を考慮し,かつトランスポーターの遺伝的差異にも配慮しなければならないと考えられる.今後はかんきつ果汁中成分以外の天然成分についても,その阻害特性に与えるOATP1A2遺伝子変異の影響を明らかにしていきたい.
[Regular Article]
Masubuchi, Y., et al.
薬剤性肝障害(DILI)の感受性要因解明の一環として,マウスを用いて四塩化炭素(CCl4)誘発肝障害の性差を検討した.その結果,雄>雌の顕著な性差が認められた.CCl4の活性化酵素であるCYP2E1発現量には性差が見られなかったため,性差の要因から除外された.DILIに影響すると考えられる遺伝子発現量を測定すると,肝障害性と逆相関を示すものに炎症性サイトカインがあり,特にIL-6は雌においてCCl4による顕著な増加が見られたことから,雌における抵抗性因子として働くと推定された.これをヒントに,エストロゲン様作用を持つゲニステインのCCl4誘発肝障害に対する効果を調べたところ,予想通り肝障害が軽減された一方,予想に反してゲニステインはIL-6を顕著に抑制した.以上,内因性エストロゲンとゲニステインでは,機序は異なるもののCCl4誘発肝障害に防御的に働くことが示された.今後,ヒトにおけるDILI性差との関連やより詳細なエストロゲンの作用機序を解明していきたい.
[Regular Article]
透析依存性慢性腎疾患および貧血患者におけるLDLコレステロールに対するロキサデュスタットの薬物動態/薬力学モデリング
Takada, A., et al.
LDLコレステロール(LDL-C)生成に対するロキサデュスタットの効果は副反応ではあるが,透析患者においては高脂血症薬並びにリン吸着薬が併用されていることが多く,ロキサデュスタットの週当たりの投与量はヘモグロビン値によって調整され変化するため,それらの影響を考慮した定量的なモデルを作成することに臨床的な意義があると考え研究を開始した.
ロキサデュスタット曝露量とLDL-Cの推移は,生理学的間接反応モデルを用いた動態-薬力学モデルにより良好に記述され,スタチン併用,リン吸着薬であるセベラマーの併用,透析の種類(血液透析又は腹膜透析),及び性別がLDL-Cベースラインの共変量として選択された.ID50の共変量として体重が選択された.
ロキサデュスタットは,スタチン及びセベラマーの併用とは無関係にLDL-Cを低下させる.ロキサデュスタットのLDL-C低下作用及び転帰に対する潜在的影響については,さらに検討する必要があることが示された.
[Note]
トリメチルアミン尿症表現型および全ゲノムシークエンスデータベース遺伝子型から見出した日本人の新規フラビン含有酸素添加酵素3 (FMO3)遺伝子多型
Shimizu, M., et al.
トリメチルアミン尿症は食品由来の悪臭物質トリメチルアミンが生体内での無臭化酵素の機能不全に伴い特異な体臭を発する疾患である.トリメチルアミン無臭化は主に肝フラビン含有酸素添加酵素3 (FMO3) によるN-酸化反応である.筆者らは,本症表現型および東北大学東北メディカル・メガバンク統合データベースのゲノム情報を用い,FMO3遺伝子変異を報告してきた.本研究では,両者のさらなる検索を行い,新たなFMO3変異を見出し,酵素活性への影響を調べた.これらの変異のうち,FMO3のNADPH結合部位にあたるアミノ酸置換型変異は特に酵素機能に著しい影響を及ぼした.データベースから見出した変異には,表現型解析から過去に見出した5種の変異が存在しており,表現型解析とデータベース解析の重複が広がったと推察された.以上のことから,疾患の原因解明のためには,両者を用いたFMO3遺伝子変異の解析が重要であると推察された.
[Editorial]
Gene and Oligonucleotide Delivery特集号の紹介
Kawakami, S. and Arima, H.
ここ数年,核酸や遺伝子医薬を用いた先進的な治療薬が数多く開発されています.これらの治療薬の臨床効果や安全性の向上において,標的指向型のドラッグデリバリーシステム(DDS)が近年大幅に進歩し,また,注目されるようになりました.そこで2022年は,”Gene and Oligonucleotide Delivery”の特集号を編集しました.まず,オリゴ核酸の化学修飾,脂質ナノ粒子,細胞外小胞(エクソソーム),超音波照射を利用した外部刺激応答性のDDS開発研究やその評価法,その応用としてゲノム編集研究やex vivo治療薬開発研究を取り上げました.次に,新型コロナウイルス感染症流行で注目されるワクチン開発研究について最新情報を掲載しました.これら最新情報を共有することで,新規創薬モダリティとして注目される遺伝子・オリゴ核酸医薬の今後の開発の方向性を考えていく機会になれば幸いです.