[Regular Article]
Narawa, T., et al.
葉酸トランスポーター(PCFT)のアミノ酸変異による機能低下に基づく疾患Hereditary folate malabsorption (HFM/先天性葉酸吸収不全) が報告されており,その一つに318番目のSerのArgへの変異が報告されている.本研究では,Arg,Ala,Cys,Lysの変異体を作成しS318の役割について検討した.Arg,Lys変異体では細胞膜に発現しているにもかかわらず,輸送能力が失われていることがわかった.一方,Ala,Cys変異体では輸送機能が維持されていることが示された.今回の結果から,PCFTの318番目のアミノ酸は,輸送機能を維持するために,極性または非極性の小側鎖を持つ中性のアミノ酸である必要があることがわかった.PCFTによる輸送におけるS318の役割をより明らかにするために,ThrやAspなど他の変異体を用いた検討も行いたいと考えている.
[Regular Article]
Uehara, S., et al.
EGFR チロシンキナーゼ阻害薬BIBX1382は,ヒトにおける未変化体の曝露濃度がわずかであるため薬効が見込めず開発中止となった化合物である.ヒト体内におけるBIBX1382の速い消失は,アルデヒドオキシダーゼ(AOX)によりBIBX1382がBIBU1476(M1)へ効率よく代謝されるためと考えられている.本研究ではヒト肝キメラマウスによるBIBX1382の代謝および体内動態を調べた.肝サイトゾルのM1生成活性は,マウス,ラットおよびイヌに比べてモルモット,ミニブタ,カニクイザル,ヒトおよびヒト肝キメラマウスで高値を示した.ヒト肝キメラマウス由来肝細胞によるM1生成活性はヒトAOX1の阻害剤であるraloxifeneおよびhydralazineにより阻害された.BIBX1382を経口投与したところ,ヒト肝キメラマウスではマウスに比べて未変化体の血中からの消失が速く,M1の血中濃度は高値を示した.ヒト肝キメラマウスはヒトと類似した高い肝AOX活性を有しており,AOXにより代謝を受ける薬物の体内動態を評価するための適した実験動物であると考えられた.
[Regular Article]
Sato, R., et al.
有機アニオン輸送ポリペプチド (OATP) 2B1は,腸や肝臓における薬物の吸収・分布に寄与し,pH依存的に輸送活性が変動することが知られている.また,代表的基質であるestorne 3-sulfate (E3S)の輸送は,高親和性と低親和性の2つのコンポーネントを介することが報告されているが,その二相性輸送や各コンポーネントの阻害剤に与えるpHの影響は明らかになっていない.本研究では,高親和性および低親和性のE3S輸送キネティクスおよび阻害剤の阻害活性にpHが及ぼす影響を検討した.その結果,OATP2B1の両コンポーネントの基質親和性が酸性条件下で亢進し,特に高親和性輸送においてpH 7.4と比較しpH 6.3では4倍であった.さらに,各コンポーネントに対する阻害活性に及ぼすpHの影響は阻害剤により異なっていた.本結果は,OATP2B1を介した薬物間相互作用を評価する際,トランスポーター発現部位のpH条件を考慮すべきであることを示している.
[Regular Article]
Shimizu, M., et al.
ヒト肝に多く存在するフラビン含有酸素添加酵素3 (FMO3)は,医薬品および食物由来成分のN-酸素添加反応を触媒する.本FMO3機能不全はトリメチルアミン尿症の一因となる.著者らは,自己申告トリメチルアミン尿症被験者および東北大学東北メディカル・メガバンク統合データベースのゲノム情報の探索から酵素機能に影響を及ぼすFMO3遺伝子バリアントを45種報告した.本研究では,これらの意味のあるバリアントのダイレクトシークエンス法以外の簡便な確認手段として,PCR-制限酵素断片長多型法およびアリル特異的PCR法を作成した.さらに一部,複数のバリアントを同時に検出する方法も整備した.これらの判定法を活用することにより,遺伝子資源を節約し,効率的なFMO3遺伝子バリアント判定が可能となると推察される.
[Regular Article]
Kurata, Y., et al.
テオフィリンは気管支喘息,慢性気管支炎および慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の呼吸器疾患に適応されるキサンチン誘導体です.古くより臨床応用されていますが,すぐれた気管支拡張作用および抗炎症作用を有しかつ安価であることから,現在でも世界中で広く用いられています.本研究は,左心不全および右心不全にそれぞれ続発する肺うっ血(PC)および肝うっ血(HC)がテオフィリンクリアランス(CL)におよぼす影響について,NYHA分類に基づく心不全の重症度を考慮したうえ母集団薬物動態解析により検討を行いました.その結果,HCはCLを有意に低下させ,かつその強度は心不全の重症度に応じて高まることが示されました.対照的に,PCによる有意な影響は見いだされませんでした.一方でNYHA class IVの心不全患者においては,HCを有さない場合であってもCLの大きな低下が認められました.心不全患者にテオフィリンを投与する際は,HCの有無および心不全の重症度を評価することが重要と思われます.また,NYHA class IVの心不全患者に対しては,HCの有無にかかわらずテオフィリンを減量する必要があるものと考えられます.本研究結果が効果的で安全なテオフィリン療法に資することを期待します.
[Regular Article]
Yamazoe, Y., et al.
ヒトCYP2E1は脂溶性小分子を代謝するP450として知られています.このP450代謝予測のためのTemplateを既に報告しています (Drug Metab Rev 43 409 2011).このシステムはTemplate上に配置したリガンドの点数計算による代謝部位の判別を行うものでした.この後筆者らが開発したCYP1A1 (DMPK 34 165 2020), CYP1A2 (DMPK 34 217 2019), CYP3A4 (DMPK 34 113 2019), CYP3A5およびCYP3A7 (DMPK 38 100357 2021)の代謝予測系では,活性部位内でのリガンド移動とトリガー部位によるリガンド固定の概念を導入して予測精度が向上し,NIH転位と分子内環形成を除く,ほとんどの代謝反応が起こる配置を示すことができるようになりました.そこで上記2概念をCYP2E1 Templateに導入してCYP2E1代謝予測系の向上を図りました.その結果分子量588のetopsideから分子量41のacetonitrileを含む250以上の代謝/阻害反応の配置を示すことができるヒトCYP2E1 Template systemを構築しました.古くから議論されてきたacetoneやmetyraponeのenhancementについても2分子同時配置として説明可能となりました.
[Regular Article]
Ohta, K., et al.
リルピビリンはHIV感染症治療薬として国内外で広く使用されている.本邦においてリルピビリンは,HIV感染症治療薬の承認申請に係る通知に基づき,外国人成績のみに基づき2012年に承認されており,その用法・用量は国内外で同一である.本研究では,日本人健康成人を対象とした臨床試験結果から,日本人健康成人男性における血漿中リルピビリン曝露量は白人健康成人と比較して40%程度高値であることが示された.リルピビリンの過去の臨床試験成績に基づき,この曝露量の差は臨床的に意義のある差ではないと考えられた.また,生理学的速度論モデル解析を用いた探索的検討に基づき,リルピビリンの薬物動態における民族的要因の影響は,個体間変動の影響よりも小さいことが示唆された.以上の結果は,民族的要因はリルピビリンの薬物動態に対して臨床的意義のある影響を及ぼさないことを示しており,リルピビリンの用法・用量を国内外で同一とすることを支持するものであった.また,本研究は生理学的薬物速度論モデル解析の薬物動態の民族間差の検討への活用の一例としても意義のある研究であったと考える.
[Review Article]
Maeda, K., Hisaka, A., et al.
医薬品の開発段階における薬物相互作用の評価と,製造販売後の情報提供のための指針として,「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」が厚生労働省より通知されている.本総説では,当該ガイドラインで提示された決定樹の理論的背景の詳説に加え,臨床相互作用試験の指標薬及び本邦での臨床使用の点から留意すべき医薬品を選定して基質,阻害薬及び誘導薬に分類・リスト化し,系統的な文献レビューに基づき,シトクロムP450とトランスポーターの分子種毎に薬物動態変化の程度とともに,P450ではリスク強度を示した.医薬品リスト(表1~5)は,最新の科学的知見と日米欧規制文書を踏まえて整理したものであり,薬物相互作用リスクの体系的評価と適正なマネジメントに資する情報源である.ガイドライン作成に参画いただいた関係者に改めて御礼申し上げるとともに,本総説が医薬品開発や臨床現場等で活用されることを期待する.
[Review Article]
Suzuki, Y., et al.
核酸医薬は,特定の遺伝子の機能を精密に修飾できるモダリティとして発展している.しかしながら,標的細胞に核酸を安全かつ効率的に届けるドラッグデリバリーシステムの開発は,依然として課題である.脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparicles; LNP)は,核酸を安全かつ効率的に標的細胞に届けることを可能にし,多くのRNA医薬を臨床応用に導いた革新的なデリバリーシステムである.2018年,パチシラン(Onpattro)は,世界で最初のLNPを用いたsiRNA医薬として承認された.2020年,2つのSARS-CoV-2 mRNAワクチン,トジナメラン(コナミティ筋注またはPfizer-BioNTech COVID-19ワクチン)とエラソメラン(COVID-19ワクチンモデルナ筋注またはSpikevax)は,共にLNPを用いたmRNA医薬として条件付き承認された.我々は,3つの承認医薬で用いられたLNP技術をレビューし,主に製剤設計,作用機序,生体内分布の違いについて説明した.本レビューが,更なる核酸医薬の発展の一助となることを期待する.
[Note]
Okamoto, K., et al.
がん治療で汎用されるシスプラチン (CDDP) は高頻度で腎障害を出現させる.我々はこれまでに非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) がCDDP起因性腎障害 (CIN) のリスク因子となることを示唆した一方で,基礎研究においてジクロフェナクはCINを増強させないこと, CDDP耐性の有無に関わらずCDDPの抗腫瘍効果を高めることを見出している.しかしながらこれらの検討は別々の実験系で行われており,また担がんにより体内動態が変動することが予測されることから,本検討ではCDDP耐性細胞株を移植したXenograftマウスモデルを作製し,ジクロフェナクがCDDPの抗腫瘍効果とCINに及ぼす影響を同時に評価した.その結果,ジクロフェナクはCINを増強させずにCDDPの抗腫瘍効果を高めるNSAIDsであることを見出し,本成果はCDDPを用いたがん化学療法の一助となると考えられる.今後は臨床研究による検証が必要であると思われる.
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