Newsletter Volume 36, Number 6, 2021

展望

顔写真:山下富義

日本薬物動態学会第17期会長挨拶

日本薬物動態学会第17期会長
京都大学大学院薬学研究科
山下富義

 齋藤嘉朗会長の後任として,2021年11月18日,高崎年会中に開催されました代議員総会にて第17期会長を拝命いたしました.本学会を成長させてこられた錚々たる歴代の会長のことを思い出しながら,この与えられた重責に身の引き締まる思いをしております.副会長に選任されました金沢大学の加藤将夫先生をはじめ,第17期の理事会メンバーと共に,本学会の発展に貢献できるように及ぶ限り尽力していきます.会員の皆様におかれましては,どうか学会活動へのご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます.

 新型コロナウイルス感染症の全世界的な拡大により,経済や社会,医療は過去に経験したことのない甚大な影響を受け,感染症の恐ろしさを再認識することとなりました.昨今,日本では感染拡大に収束の兆しも見え始めたものの,世界的には全く予断を許さない状況にあります.遺憾ながら多くの方がお亡くなりになり,失職により不安を抱えておられる方も多数いらっしゃいます.この感染症で犠牲になられた方々,損害を被られた方々,そしてそのご家族の皆様には謹んでお悔みとお見舞いを申し上げます.

 日本薬物動態学会は,歴代の会長,役員および会員の皆様のご活躍により,代謝酵素やトランスポーターの研究を中心に薬物動態研究のサイエンス・コアとして,常に世界を牽引してきました.本学会が発行するDrug Metabolism and Pharmacokinetics誌も2020年度インパクト・ファクター3.614を記録し,国際誌としての地位を確固たるものとして築いています.新しい理事会の果たすべきミッションの一つは,国際化の一層の推進です.2020年にハワイ島で開催予定であったInternational Society for the Study of Xenobiotics (ISSX)北米大会との合同年会は残念ながらコロナ禍により中止となりました.しかし,2024年に場所は未定ながら合同年会を開催することが決定し,武蔵野大学の伊藤清美先生が年会長をお務め下さることになりました.その前年である2023年は国際P450会議との合同年会(年会長;吉成浩一先生)となりますので,これから各合同年会の具体化に向けて国際連携の強化が必須となっています.もちろん第15期に始まったアジア4か国(韓国,中国,タイ,日本)との国際連携も継続してまいります.来年には何とか国際路線が通常通り回復してin personでの相互交流が再開されることを期待しているところです.これらの国際交流の基盤となるのがWeb広報活動の英語化対応です.広報では常に新しい情報を速やかに発信することが求められますので,その策としてWebサイト上に機械翻訳システムを導入することを計画しています.こうしたITインフラの整備は私の能力が活かせるところですので,これをもう一つの大きなミッションとして掲げ,会員サービスの向上に努めたいと考えています.例えば,ニュースレターへの動画の埋め込み,教育ビデオコンテンツのアーカイブ化など,動画等の利用による情報提供のマルチメディア化にも取り組みたいと思っています.幸い,ZoomやWebExなどオンライン会議ツールが普及したことで,皆様もオンライン講義資料の作成に対して抵抗がなくなったかと思います.環境が整いましたら,是非コンテンツの作成・投稿にご協力下さいますようお願いいたします.

 学生や若手研究者の皆様に向けて,経験からの私見を述べさせていただきます.私は大学院から薬剤学研究室に所属しました.初めて入会した学会が日本薬物動態学会で,大阪・森ノ宮に聴講に出かけたのを今でも覚えています.当時は薬物トランスポーターもクローニングされておらず,薬物輸送の機構解析研究は膜ベシクルや灌流臓器を使ったものが主流でした.生理学的速度論も盛んに研究されていた頃で,私はその時流に乗って拡散方程式の数値積分解を使って非線形最小二乗法を行っていました.32ビットパソコンが初めて登場した時代ですが,CPUクロック20MHz では使いものにならず,電話回線で大型計算機に繋いで計算をさせていました.1995年から一年半の間,留学の機会をいただきましたが,その間にWindows95がリリースされ,インターネットが日本で普及しはじめました.留学中はVincent Lee教授の下,肺上皮細胞初代培養系での薬物輸送研究を行っていましたが,戻ってからは人とは違うニッチな研究がしたいと考え,一念発起してコンピュータ・プログラミングを独学で学び,機械学習を使ったin silico研究を開始しました.今となってはデータサイエンスのための実践環境がかなり整備され,そのスキルは読み書きそろばんのようになりつつありますが,インターネット黎明期の25年前は情報も少なく独学での学びは大変でした.先日の年会での新会長講演にて,2:8(ニッパチ)の法則,すなわち結果の8割は努力のうちの2割からもたらされる(2:8の法則にはいろいろな解釈がありますが・・・)ことをお話しました.先は簡単に書きましたが,当時の電話モデム回線の設定は大変でしたし,留学直前のことですが,Windows3.1の研究室コンピュータにEthernetアダプターを増設してE-メールの使える環境を整えるのにはとてつもなく苦労しました(悲しいかな,私の留学中に誰も使ってくれず,浦島太郎はおろかリアルに時間が止まったままでした・・・).しかし,このような苦労や無駄は決して無駄とは思っていません.結果はどうあれ,新しいものに興味を示して取り組むことが大切だと思っています.2:8の法則に従うと,成功確率2割の成功に得るためには布石や撒き餌として8割の無駄が必要です.私は,無駄を惜しまないことが結果的に自己成長に繋がると信じて,普段から行動するように努めています.

 冒頭に述べましたように,新しい理事会メンバー19名で力を合わせて,いろいろな企画を考えて,本学会の発展に尽力してまいりたいと思います.しかし,あくまで会員の力が組織の力であることには変わりありません.会員の皆様による積極的な学会活動へのご参加をいただきながら,本学会を一緒に盛り上げていくことが学会の発展につながるものと考えています.どうかこれからの2年間,第17期理事会に対してご支援ご鞭撻の程よろしくお願いいたします.