Newsletter Volume 36, Number 5, 2021

DMPK 40に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

薬剤性急性腎障害ラットの小腸において引き起こされるOatp2b1のダウンレギュレーション

Takeda, F., et al.

 動物モデルを用いた研究で,慢性腎臓病(CKD)では小腸のP-gpやMRP2の発現低下が起こることが報告されている.しかしながら,薬剤性急性腎障害(AKI)における小腸トランスポーターの発現変化についてはあまり検討されていない.本研究では,シスプラチンによりAKIを誘発したラットにおける小腸の形態学的変化,有機アニオン輸送ポリペプチド(Oatp)2b1の発現変化,さらにOatp2b1の基質であるプラバスタチンの吸収変化を検討した.その結果,AKIラット小腸において絨毛の萎縮が見られるものの単純拡散による薬物吸収は変化しない,小腸Oatp2b1の発現が有意に低下するのに対しOatp1a2の発現は減少しない,プラバスタチンの吸収は顕著に減少するが静脈内投与後の消失は変化しないなどの知見を得た.これらの結果は,CKDと同様にAKIにおいても小腸トランスポーターの発現を制御するシステムが機能することを示唆した.現在,シスプラチン以外の薬物でAKIを惹起した場合にも同様の知見が得られるかについて検討を進めている.

[Regular Article]

HDAC阻害剤バルプロ酸が妊娠ラット胎盤における葉酸輸送体・代謝関連遺伝子発現に及ぼす影響

Furugen, A., et al.

 妊娠中の適切な葉酸レベルの維持は, 胎児の発育に不可欠であり, 胎盤は栄養素を供給する上で重要な役割を果たす. 一方, 抗てんかん薬であるバルプロ酸 (VPA) は, ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害作用を有しており, 遺伝子発現に影響を及ぼすことが考えられる. しかし, VPAが胎盤へ及ぼす影響のin vivoにおける評価は十分ではない. 本研究では, VPA投与後のラット胎盤における, 葉酸輸送体 (Folr1, Slc19a1, Slc46a1)・代謝関連酵素 (Cth, Mtr, Mtrr, Mthfr, Dhfr) 発現プロファイルを妊娠中期・後期において明らかにした. また, VPAの標的となり得るClass IおよびIIaに属するHDACsの発現も併せて評価した. 妊娠進行に伴い, Folr1, Slc46a1, Cth, Mthfr, Hdac5発現が増加傾向を示した一方, Mtrr, Dhfr, Hdac2, Hdac8発現は減少傾向を示した. VPAの連続投与により, 妊娠後期の胎盤におけるFolr1およびMtr発現が減少し, 中期におけるDhfr発現が増加した. 今後は, VPA投与後の胎盤・胎仔の葉酸動態および発現変動機序を評価していく予定である.

[Regular Article]

カルバペネム系抗菌薬の腎排泄に対する尿毒症物質インドキシル硫酸とクレアチニンの阻害作用

Ichimura, Y., et al.

 末期腎不全(ESRF)患者では様々な尿毒症物質(UTs)が体内に蓄積する.しかしながら,蓄積したUTsが薬物の腎排泄にどのような影響を及ぼすかについては十分に検討されていない.本研究では,カルバペネム系抗菌薬メロペネム(MEPM)とビアペネム(BIPM)の腎排泄に対するインドキシル硫酸(IS)とクレアチニン(Cr)の影響をラット腎スライス法により検討した.その結果,①ISとCrはESRF患者で見られる血中濃度領域でMEPMとBIPMの腎スライスへの取り込みを有意に阻害する,②BIPMとCrを健常ラットに静脈内投与すると腎スライスでの結果を反映してBIPMの消失が有意に遅延する,③ISとCrは有機カチオン輸送担体の基質となるメトホルミンの取り込みに対しては阻害効果を示さないなどの知見を得た.ESRF患者ではカルバペネム系抗菌薬の尿中排泄速度が著しく低下するが,本研究の結果は,ESRF患者の血中に蓄積したISやCrが有機アニオン輸送担体を優先的に阻害することで,カルバペネム系抗菌薬の尿細管分泌を低下させるという相互作用の存在を示唆した.

[Short communication]

ヒト肝フラビン含有酸素添加酵素およびチトクロムP450による基質酸化条件の違いを利用した創薬候補品の責任代謝酵素の予測

Taniguchi-Takizawa, T., et al.

 一般にP450の至適条件で実施される医薬品代謝消失スクリーニングでは,酵素誘導や阻害を受けにくいフラビン含有酸素添加酵素(FMO)の役割は過小評価あるいは見過ごされる場合がある.著者らは,ベンジダミンが FMOとP450により異なる酸化を受けること,既報30種のうち18種N-酸化へのFMO寄与はソフトウエア計算による当該N部位の酸解離定数pKa(塩基)値が8.4以上であることを明らかにした.本研究にてP450とFMO3の至適pH 7.4と8.4における実測可能なモデル薬物11種のヒト肝代謝消失速度比を求めたところ,pH 8.4条件での上昇比は,pKa(塩基)値と有意に相関した.以上,円滑に推進すべき創薬段階において,基質構造に基づく計算手法によりFMO3を含む責任酵素の寄与を予測し,pH条件を変えた肝代謝消失実証実験より,創薬候補品の酸化的代謝へのFMO3寄与を明確化できることを提唱した.

[Short communication]

腎移植レシピエントにおいてrabeprazoleからvonoprazanへの内服変更がtacrolimus血中濃度へ与える影響の検討:薬物代謝酵素cytochrome P450の遺伝子多型によるグループ解析

Watari, S., et al.

 免疫抑制剤tacrolimusは薬物代謝酵素cytochrome P450(CYP)により主に代謝され様々な薬剤との相互作用に注意が必要である.移植後の胃粘膜障害の予防に用いられる酸分泌抑制薬の中で,rabeplazoleはCYP2C19の遺伝子多型に関わらずtacrolimusの血中濃度に与える影響が小さいとされている.一方で,新規酸分泌抑制薬であるvonoprazanが多くの移植患者で使用されているが,併用によるtacrolimus血中濃度への影響に関するエビデンスは限られる.本研究では,当院で施行した腎移植患者をCYP遺伝子多型によりグループ分けし,vonoprazan併用がtacrolimus血中濃度へ与える影響を検討した.

 その結果,rabeprazoleからvonoprazanへの内服変更がtacrolimus血中濃度に与える影響は,代謝能に関わらず臨床的に問題にならない範囲に留まっており,tacrolimusとvonoprazanの併用は安全であることが示唆された.tacrolimus血中濃度と薬剤代謝酵素との関連について,多数症例での検討や降圧薬を代表とするその他の併用薬剤を考慮した検討を行っていく.