Newsletter Volume 36, Number 1, 2021

受賞者からのコメント

顔写真:森 大輝

DMPK賞 1st Place賞を受賞して

アステラス製薬株式会社 開発本部
森 大輝

 この度,私たちの発表論文 ”Effect of OATP1B1 genotypes on plasma concentrations of endogenous OATP1B1 substrates and drugs, and their association in healthy volunteers” が2019年度DMPK賞 1st Place賞に選ばれましたこと,誠に光栄に存じます.この場をお借りしまして,ご選考くださいました先生方に心より感謝申し上げます.

 近年,トランスポーター介在性薬物間相互作用のリスク評価において,内在性基質をプローブとして活用することが注目されています.肝特異的に発現し,スタチンやサルタン等の肝取り込みを担うOrganic anion transporting polypeptide (OATP) 1B1やOATP1B3についても,ヘム合成の副産物であるcoproporphyrin I(CP-I)や胆汁酸硫酸抱合体のglycochenodeoxycholate-3-sulfate (GCDCA-S)など複数の内在性プローブが見出されてきました.これらの内在性基質の肝取り込みにおけるOATP1B1の重要性を実証するため,OATP1B1の輸送機能低下を伴う一塩基多型(SNP, c.521T>C (rs 4149056))が,内在性基質の血漿中濃度に与える影響を評価しました.本臨床試験は,同一被験者内でOATP1B1をコードするSLCO1B1の遺伝子多型が内在性基質及び基質薬物に与える影響を比較した初めての試験です.臨床試験は19名の健常成人の方(*1b/*1b:10名,*1b/*15:7名,*15/*15:2名)のご協力のもと実施され,基質薬物としてatorvastatin, pitavastatin, rosuvastatin, fluvastatinをカクテルで経口投与した後,血漿を採取し,LC-MS/MSを用いて内在性基質と基質薬物の血漿中濃度を定量しました.この結果,CP-Iと胆汁酸硫酸抱合体がスタチンと同様に*1b/*1bに比べて*15/*15で高い血漿中濃度を示し,これらがOATP1B1を介した共通のクリアランス経路を有し,OATP1B1の機能変動の指標となることが示唆されました.

 本研究では,基質薬物と同様に,OATP1B1 SNPの影響が顕著に観察されたことから,これらの内在性代謝物が内在性OATP1B1プローブとして有用であることが示唆されました.今後さらに内在性プローブの情報が蓄積し,医薬品開発の第1相試験の段階で薬物間相互作用の有無の判断が可能になることで創薬の最適化,コスト削減に繋がると共に,得られた知見に基づく処方設計により,より安全な薬物療法が達成されることを期待しています.

 最後に,本研究を遂行するにあたりご指導,ご鞭撻を賜りました杉山雄一教授,家入一郎教授,入江伸先生,楠原洋之教授,前田和哉准教授,共著者の先生方,また臨床試験にご協力いただきました被験者の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.