DMPK 36(1)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
CYP2C9が触媒するワルファリン代謝に対するスタチンのアシッド体およびラクトン体の阻害機構の解明
Shiozawa, A., et al.
ワルファリンは抗凝固薬として広く用いられているが,併用薬との相互作用が多い薬物としてもよく知られている.ワルファリンと比較的高い頻度で併用される薬物の中にスタチンがあるが,これまでに併用によるワルファリンの作用増強の症例が数多く報告されている.この相互作用の機序については,以前より,いくつかの可能性が提唱されていたが,最近,主な機序としてスタチンがCYP2C9によるワルファリン代謝を阻害することによるものであることが示された.しかし,この報告ではスタチンの親薬物のみの解析に留まり,投与後生体内で変換されるアシッド体あるいはラクトン体については検討されていなかった.また,ワルファリン代謝能の低いCYP2C9.3に対する影響についても不明であった.我々は,生体内変換体を含めた各種スタチンの阻害効果やCYP2C9.3活性に対するスタチンの影響について解析し,新しい知見を得た.この知見はスタチンとワルファリンの相互作用の機序の理解につながるものと考えている.
[Regular Article]
カニクイザル由来生体試料中のヒト細胞の定量を目的とした定量的PCRプライマー/プローブの開発
Yamamoto, S., et al.
再生医療等製品の開発において前臨床研究におけるヒト細胞の定量には,定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)が一般的に用いられており,ヒトにおいてコピー数が最も多いAlu配列がヒトDNAのバイオマーカーとして広く使用されている.一方,Aluは霊長類ゲノム間で高度に保存されているため,その使用は非霊長類を用いた研究に限定されていた.霊長類におけるヒト細胞の生体内分布評価は,トランスレーショナルリサーチの観点で重要であるため,霊長類においてヒト細胞の定量を可能にする,新規ヒト特異的プライマー/プローブの設計を目指した.Aluと同様に反復性の高いLINE1配列に対して新規プライマー/プローブを設計し,その定量性について検討を行った.その結果,優れたqPCR効率および検量線の直線性が確認された.また,このプライマー/プローブセットは,マウス,ウサギ,ブタ,マーモセットなどの他の動物モデルにおいてもヒトDNAを特異的に検出可能であった.
優れた選択性,感度,および汎用性を持つLINE1プライマー/プローブは,前臨床の生体内細胞分布評価における有望な定量化ツールになると期待している.
[Regular Article]
Organic anion transporter 4による腎排泄型アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の基質認識
Noguchi, S., et al.
OAT4はヒト近位尿細管上皮細胞の管腔側膜に局在し,ARBであるolmesartanのOAT4を介した排出輸送は,生理的Cl-勾配存在下で促進される.ARBはヒト腎排泄過程において尿細管分泌を受けることから,げっ歯類に存在しないOAT4がARBの輸送に関与しうるか検討した.本研究では,ARBであるazilsartan,candesartan,carboxylosartan,losartan,及びvalsartanがOAT4の基質となることを見出した.これらのうち,ジアニオン型ARBの取り込みは生理的Cl-勾配存在下でCl-非存在下より早く定常状態に達し,定常状態における細胞内蓄積量が減少した.よって,Cl-との交換輸送により,OAT4を介して排出方向にも輸送される可能性がある.モノアニオン型ARBについて,losartanのOAT4介在輸送にCl-感受性は示されず,ほとんどが肝で消失するirbesartan及びtelmisartanをOAT4が認識する証拠は示されなかった.Cl-感受性OAT4基質の腎排泄機構についてさらに検討を重ねることで,OAT4の腎クリアランスへの寄与について明らかにしたい.