DMPK 35(3)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
グリッドテンプレートを用いたCYP3A4代謝予測,第3報:小分子基質と活性部位間で起きる相互作用の解析
Yamazoe, Y., et al.
既に結晶化タンパクの解析からCYP3A4活性部位のサイズや形態が明らかにされており,基質との相互作用が解析されています.しかしながら結晶化タンパク由来のモデルによる解析はヘムリガンドと比較的大きくかつ動きの少ない構造に限られています.CYP3A4は小分子から分子量が1,000を超える大分子を代謝するので,これらリガンドとの相互作用を扱える予測系の開発が必要です.
私たちはこれまでの解析方法とは逆に,基質代謝反応の集積から活性部位を再構築することを目指して,PAHやステロイド基質の代謝反応から活性部位をグリッドテンプレートとして再構築しました(DMPK 34 113 2019, 34 351 2019).
さらに活性部位内にあってリガンドと相互作用するタンパク部位を特定することで様々な構造のリガンドに適用できるシステムにしました.今回,これらに加えてfutile-sittingやright-side movement現象を適用することで小分子基質の代謝の部位と立体選択性を飛躍的に精度よく予測できる系に改良しました.
[Regular Article]
ヒト胎盤モデル細胞におけるLamotrigineの輸送特性:有機カチオントランスポーター (SLC22A1-5) の関与の調査
Hasegawa, N., et al.
Lamotrigine (LTG) は,妊娠時においても使用される抗てんかん薬である.LTGは胎盤を通過するものの,その膜透過機構に関する情報は少ない.本研究では,ヒト胎盤モデル細胞 (BeWo, JEG-3) におけるLTGの輸送特性について検討を行った.また,血液脳関門のLTG輸送にSLC22A1の寄与が報告されていることから,SLC22A1および近縁のトランスポーター SLC22A2-5の関与について調査した.LTGの細胞内への取り込みは,4°C条件に比較して37°Cにおいて高く,輸送速度は高濃度において飽和したことから,輸送に担体の関与が示唆された.LTG輸送は,chloroquine, imipramine, quinidine, verapamil等の薬物により阻害された.これら薬物の特徴として,構造中に3級アミンを有し,脂溶性が高く,生理的pHでカチオンであることが考えられた.しかし,種々の化合物やsiRNAを用いた検討,細胞および満期胎盤の発現レベルの解析により,今回着目したトランスポーターは胎盤のLTG輸送に関与しないことが示された.今後,寄与する担体について更なる検討を進めていきたい.
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ヒト由来フラビン含有モノオキシゲナーゼ発現酵母菌体によるN-及びS-酸化体の生合成
Masuyama, Y., et al.
フラビン含有モノオキシゲナーゼ (FMO) は,薬物代謝第I相酵素(DMEs)の一つで医薬品を含む生体異物の酸化反応を触媒します.酸化代謝物はしばしば生理学的活性を有しますが,有効性や安全性評価に必要な量を合成することは難しい場合があります.当研究室ではこれまでに主要なDMEs(CYP,UGT,SULT)を中心とした出芽酵母発現系を構築し,菌体を用いた医薬品化合物の代謝解析及び代謝物合成系を確立してきました.本報告ではヒト由来FMO分子種を発現する酵母を構築し,その菌体によるN-及びS-酸化体の生産性を解析しました.組換え体酵母細胞における各FMO分子種のタンパク発現及び特異基質に対する代謝活性を確認しました.FMO4形質転換体は24時間以内に1リットルあたり数ミリグラムのN-およびS-酸化代謝物を生成しました.また,反応に必要な補因子NADPHを細胞内の生成系に依存することにより添加の必要がなくコストダウンも可能です.このような新しい酵母を用いたFMO発現システムは,医薬品候補化合物の酸化代謝物生産のための有効なツールとして期待されます.
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促進拡散型クレアチントランスポーターとしてのモノカルボン酸トランスポーター12 (SLC16A12/MCT12)の機能同定
Takahashi, M., et al.
近年,アフリカツメガエル卵母細胞発現系においてMCT12がクレアチンを輸送することが報告されたが,詳細な輸送機構は不明であった.そこで本研究では,哺乳類培養細胞におけるMCT12によるクレアチン輸送について検討を行った.MCT12単独またはCD147との共発現細胞において[14C]creatineの有意な取り込みは認められなかったが,濃縮型クレアチントランスポーターであるSLC6A8/CRT1の機能を利用し,細胞内[14C]creatineの細胞外への排出輸送を検討したところ,MCT12の発現により顕著な排出活性が認められ,その活性はMCT12の膜貫通領域に存在するArg37,Asp65およびAsp299変異により消失した.以上より,MCT12は促進拡散型クレアチントランスポーターであることが示唆された.今後,本知見を応用し,クレアチンと類似性を有する化合物の膜透過機構に関する検討を行いたい.
[Regular Article]
Negoro, R., et al.
MDR1は,肝臓や小腸など様々な臓器で発現しており,医薬品の排泄に最も大きな影響を与える薬物トランスポーターの一つです.本研究では,当研究室が独自開発したゲノム編集技術を用いて,MDR1 ノックアウト (KO)-ヒトiPS細胞を作製し,創薬研究に応用できるか検討しました.MDR1-KOヒトiPS細胞は野生型ヒトiPS細胞と同様に,未分化能や多分化能を有していました.さらに,MDR1-KOヒトiPS細胞を肝細胞へ分化誘導し,MDR1排泄能をRhodamine123を用いてBiliary Excretion Index (BEI) にて評価した結果,MDR1-KOによりBEIは有意に低下しました.MDR1-KOヒトiPS細胞は,肝臓や小腸,血液脳関門,腎臓などを構成する細胞に分化誘導することで様々な臓器におけるMDR1排泄能を評価できるようになり,より安全な医薬品開発に貢献できると期待しています.
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カニクイザル新鮮及び凍結肝細胞における薬物動態関連遺伝子発現の誘導プロファイルの比較
Koeda, A., et al.
カニクイザル初代肝細胞を用い,FDAガイダンスに定められた新規薬物のCYP誘導能評価法を参考に,陽性対照であるオメプラゾール,フェノバルビタール,リファンピシンを曝露し,CYP mRNA発現レベルへの影響を検証した.その結果,CYP1A1,CYP2B6,CYP2C43,CYP2C75,CYP3A8のmRNA発現レベルの増加がみとめられた.新鮮肝細胞と凍結肝細胞の比較,また単層培養,フィーダー細胞との共培養,スフェロイド培養の比較において明らかな差はみられなかったが,フィーダー細胞との共培養法が最も費用対効果が高い評価系であった.CYP2B6はin vitroではフェノバルビタールで誘導されないとの報告もあるが,本研究では弱い誘導がみとめられ,培養条件の改善によってはin vivoでの誘導が報告されている例と同様に,mRNAレベルの増加や酵素誘導評価が可能と考えられた.核内レセプターのAHR,CAR,PXRのmRNA発現レベルが,誘導剤曝露により減少したことについてはさらなる検証が残されている.
[Regular Article]
選択的尿酸再吸収阻害剤として理想的なドチヌラドの薬物動態プロファイル
Omura, K., et al.
ドチヌラドは,近位尿細管管腔側に発現しているURAT1を強力かつ選択的に阻害する新規尿酸降下薬です.URAT1阻害作用を持続するためには,近位尿細管腔内の薬物濃度を高く保つ必要があるため,血漿中薬物濃度及び血漿蛋白結合率が重要となります.そこで,薬物動態を指標に探索研究を行った結果,経口吸収性が高く,分布容積及び経口クリアランスが小さいことより,血漿中濃度を高く維持するドチヌラドを創製しました.ドチヌラドは血漿中濃度が高く,薬理効果の維持と腎クリアランスのバランスが良好な血漿蛋白結合率であるため,効率よく標的部位に薬剤が到達することから,最高用量でも4mgという低用量で,強力に血清尿酸値を低下させます.このように標的部位に合わせた薬物動態特性を持つ化合物を探索したことが,薬理効果の強さ及び安全性に寄与できたことで,薬物動態研究の重要性を再認識させてくれました.
[Regular Article]
Caffeine (3-methyl-13C) 呼気試験 によるCaffeine代謝関連Single Nucleotide Polymorphism (SNP) の同定
Ishii, M., et al.
Caffeine代謝の約95%はCYP1A2によるものであり,CYP1A2には遺伝子多型がある.我々は,caffeine (3-methyl-13C) 呼気試験 (CafeBT) でcaffeine代謝関連SNPであるCYP1A2: rs762551, rs2472297, aryl-hydrocarbon receptor (AHR): rs4410790, adenosine A2A receptor (ADORA2A): rs5751876が同定可能であるかを130人の若年健康成人 (平均年齢21.9歳) を対象に検討した.すべての被験者はrs2472297の遺伝子型がCCであった.90分にわたるΔ13CO2の合計 (S90m) はrs4410790の遺伝子型の間で有意差を認めた (C>T).Caffeineの3位メチル基の脱メチル反応は AHRの遺伝子型に依存しており,CafeBTでAHRの表現型が同定可能であることを示した.現在tirmethyl-13C-caffeineでも同様の結果が得られるか検討している.
[Note]
カニクイザル肝細胞におけるIL-1βとTNF-αのチトクロムP450発現への影響
Uno, Y., et al.
カニクイザルは医薬品開発における薬物動態試験で用いられる重要な動物種である.近年,ヒトではサイトカインがチトクロムP450(P450またはCYP)の発現に影響を及ぼすことが明らかになってきたが,カニクイザルでは十分に解析されていなかった.本研究では,サイトカインがカニクイザルP450の発現に及ぼす影響を調べるために,カニクイザル肝細胞をLPSとサイトカイン(IL-1β,IL-2,IL-6,IFN-γ,TNF-α)で処理し11種類のP450の発現をqPCRによって解析した.その結果,CYP1A1,CYP2C8,CYP2C19,CYP2C76,CYP3A5のmRNA発現がIL-1βやTNF-αによって変化した.このことから,ヒトと同様,カニクイザルでもサイトカインが肝臓でのP450発現に影響を及ぼすことが示唆された.この結果は,カニクイザルを用いて薬物代謝試験を行う際に有用な知見になるものと期待される.