学会 道しるべ
KSAP27年会に参加して金沢大学医薬保健研究域薬学系 分子薬物治療学研究室
|
2019年10月11日に韓国・ソウルで開催されたThe 27th Annual Meeting of The Korean Society of Applied Pharmacology(KSAP,http://www.ksap.or.kr/)に参加し, ”Identification of endogenous substrates of gastrointestinal inflammation-associated transporters, OCTN1/SLC22A4”というタイトルで発表する機会をいただきましたので,紹介させて頂きます.本年会は,慶熙大学のJong Hoon Ryu教授がオーガナイザーとして,ソウル大学構内の会議センターで開催され,300名近い参加者であった.ソウル大学構内での開催であり,且つソウル市内には多数の大学が集中していることもあり,参加者には学生が多く活気が感じられた.
KSAPは,幅広く薬理学全般を対象とし,年会ごとにテーマが設定される.本年会のテーマは,”Human Microbiome: New Horizons in Disease Control and Pharmabiotic Development”であったが,これまで”Pharmacological Strategies and Emerging Therapies for Mitochondrial Disorders”,“Autophagy: from basic science to drug discovery”, ”Recent Progress in Drug Development for Neuroinflammatory Disorders”といったテーマがあり,薬理学の分野でも応用薬理学を目指したものが多い.
シンポジウムは,7つのセッションから構成され,計22名の演者による講演がなされた.このうち,Microbiomeに関連が深かったSession 1~4について簡単に紹介する.また,ポスター発表は119演題あり,こちらはMicrobiomeに限らず,Medicinal Plants, Pharmacology and Biochemistry, Physiology and Toxicology, Pharmaceutical Chemistryといったカテゴリ分けがなされ,薬物動態に関連したポスター発表も2演題含まれていた.参加者の多くは韓国国内からの参加であったが,ほとんどの発表,アナウンスは英語でなされており,韓国国外からの参加でも不自由はなかった.
Session 1では,”Shed New Light on Human Microbiome”と題して,ソウル大学・Gwang Pyo Ko先生は,遺伝的背景が同じ双子(2700人)を解析対象にした生活習慣病とmicrobiomeの関連,浦項工科大学校・Sin-Hyeog Im先生はビフィズス菌のひとつであるBifidobacterium bifidumによる免疫調節,国立台湾大学・Wei-Kai Wu先生は腸内細菌が産生するtrimethylamine N-oxideによる心血管疾患誘発と,そのallicinによる抑制効果について,講演を行い,腸内細菌叢と生活習慣病発症の関連について最新の知見が紹介された.
Session 2では,”Targeting Microbiome in Integrative Control of Human Diseases”と題して,光州科学技術院・Hansoo Park先生は,特定の菌種によるマウスでの抗がん作用増強効果,香港中文大学・Sunny H. Wong先生は,腸内細菌叢解析の大腸がん診断への応用,慶熙大学・Dong-Hyun Kim先生は,腸内細菌叢とマウスにおける認知機能の関連について,講演を行い,腸内細菌叢と各種疾患の関連について紹介された.
Session 3では,”Drug Development for Microbiome-Related Human Diseases”と題して,熊本大学・前田仁志先生と著者が講演を行った.前田先生は,マンノースによる修飾でKupffer細胞を標的としつつ,チオール化で抗酸化作用を有したアルブミン投与による,肝線維化の抑制効果について発表があった.著者は,膜輸送体OCTN1/SLC22A4の生体内基質としてspermineを独自の誘導体化メタボロミクスで同定し,OCTN1は炎症性腸疾患やリウマチと関連することから,OCTN1によるspermineの細胞内取り込みが炎症性疾患に一部関与することについて発表した. ”Microbiome”からは少し外れてはいたものの,発表では多数の質疑を頂き,腸内細菌が介在する代謝物への関心の高さを実感した.
Session 4では,”Global Trends in Microbiome-Based Therapeutics”と題して,産総研・Dieter M. Tourlousse先生による腸内細菌叢の次世代シークエンサーを用いた同定手法の標準化にはじまり,Research Lab社・Tae-Yoon Kim先生は,tyndallizationという手法で滅菌したLactobacillus属を用いたアトピー性皮膚炎抑制効果に関する臨床試験での有効性,SYNBIO TECH社(台湾)・Yung-Tsung Chen先生はLactobacillus属によるマウス脂肪肝抑制効果といった応用例の紹介があった.
本年会では,上述のようにアカデミアのみならず,病院,健康食品販売企業,規制当局と幅広い組織からのmicrobiomeに関する講演があった.また,発酵食品の多い韓国ならではの発表も多く,興味深かった.次世代シークエンサーといったオミクス解析の進歩に伴い,今後も様々な疾患と腸内細菌叢の関連が解明されていくと思われる.一方で,腸内細菌叢と生体間を結ぶシグナルの多くは,腸内細菌叢に由来する化合物を介するとされるが,化合物の同定は,腸内細菌のゲノム解析よりも遅れているのが現状である.構造が同定されていない化合物も多くあるだろうが,薬物動態の先輩の方々のノウハウを腸内細菌由来の化合物のADME研究に活かせていけたらと思う.最後に,本年会の演者として推薦してくださいました国際化推進委員長・大槻純男教授(熊本大学)に御礼申し上げます.