DMPK 34(2)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
基質と酵素の相互作用解析によるCYP3A4の活性部位の再構築:格子状テンプレートを用いた代謝と阻害様態の解明
Yamazoe, Y., et al.
CYP3A4は医薬品やステロイドを含む脂溶性物質の酸化的代謝に重要なチトクロームP450(P450)です.結晶化されたこのP450のX線解析から作成された構造モデルからすでに活性部位の大きさや全体の形状が明らかにされています.しかしながらこのデータから基質及び医薬品候補物質の代謝部位を精度よく予測できていません.私たちは基質側からP450活性部位を再構築して,平板上のテンプレート及びその組み合わせから,基質の代謝部位及び基質間の相互作用を予測するシステムをCYP1A2, CYP2B6, CYP2D6, CYP2E1, CYP4Aについて開発してきました.今回主にpolyaromatic hydrocarbons(PAHs)基質を用いてCYP3A4の代謝予測系を一枚のテンプレートとして再構築しました.
得られたテンプレートを用いて代表的なCY3A4基質の代謝部位の予測を行うとともに,2基質間で起こるヘテロ活性化や非線形代謝の機序についても解析しました.これらのデータから,精度の良い予測ができることを明らかにしました.
[Regular Article]
新規末梢性μオピオイド受容体拮抗薬ナルデメジンの脳移行性におけるP-gpの寄与
Watari, R., et al.
ナルデメジンは末梢性μオピオイド受容体(MOR)拮抗薬であり,オピオイド誘発性便秘の改善作用を発揮する.ナルデメジンの臨床試験において,中枢のMORへの拮抗が原因と考えられるオピオイド鎮痛薬の鎮痛作用の減弱や退薬症候はみられておらず,ナルデメジンは低い脳移行性を示すと考えられる.本研究では,中枢に発現する排泄トランスポーターであるP-gpのナルデメジンの脳移行における寄与について,非臨床動物を用いた評価を行った.その結果,ナルデメジンの低い脳移行性はP-gpによる排出ではなく,低い血液-脳関門の透過性に起因する可能性が示された.ナルデメジンはP-gpの輸送活性の変動に関わらず,オピオイド鎮痛薬の鎮痛作用の減弱や退薬症候を生じない安全に使用可能な末梢性MOR拮抗薬であると考えられるため,本研究で得られた知見を元に,ナルデメジンの適正使用が推進されることを期待する.
[Regular Article]
セサミン投与ラットにおける主要代謝物は硫酸抱合体である
Yasuda, K., et al.
セサミンはゴマに含まれるリグナン類の一種であり,抗酸化作用やアルコール代謝促進作用など様々な効果が知られている.これらの生理作用には,セサミン自身だけでなく代謝物に起因しているものがあり,代謝を明らかにすることで生理作用の個人差やメカニズム解明につながると考えられる.本研究では,これまで我々が行ってきたin vitro試験を踏まえて,セサミン投与ラットにおける肝臓や血漿中の代謝物解析を行った.肝臓からはモノカテコール体,硫酸抱合体,メチル化体が検出され,血中での主な代謝物は硫酸抱合体であった.肝サイトゾル画分を利用した硫酸抱合活性はヒトの方がラットより高かったことを考慮すると,ヒトがセサミンを摂取した場合,主要代謝物は硫酸抱合体である可能性が高い.近年,数種のポリフェノールで硫酸抱合体やグルクロン酸抱合体の生理活性や輸送形態としての機能が報告されている.今回の結果を基に,セサミンについても新たな作用メカニズムを明らかにしていきたい.
[Note]
尿酸アナログを用いたラットin vivoにおけるURAT1活性評価の有用性
Arakawa, H., et al.
高尿酸血症の薬物標的として尿酸再吸収トランスポーターURAT1が着目されている.しかし尿酸は一部の霊長類を除く実験動物においてウリカーゼによりアラントインへ代謝されるため,URAT1阻害による尿酸値低下作用の評価が難しい.そこで我々は,ウリカーゼに耐性のあるURAT1基質を尿酸アナログとして投与することによって,ラットin vivoにおけるURAT1活性の評価系構築を試みた.その結果,1-メチル尿酸,1,3-ジメチル尿酸,オキシプリノールおよび6-チオ尿酸がrat URAT1によって輸送され,またウリカーゼに対し耐性を持つことが明らかとなった.さらにオキシプリノールをラットに静脈内投与したところ,尿酸排泄促進剤の併用により尿中排泄クリアランスは20%増加したものの,血漿中濃度の変化は見られなかった.以上の検討より,オキシプリノールの尿中排泄クリアランスを測定することにより,URAT1活性のin vivo評価が可能であることが示された.
[Note]
抗菌薬投与時の小腸上皮細胞に対するプロテオーム解析 ―トランスポーター及び代謝酵素タンパク質の発現変動―
Kuno, T., et al.
抗菌薬は細菌感染症の治療に対し有効な薬であるが,腸内細菌叢を乱すことで生体に様々な影響を及ぼす.抗菌薬による腸内細菌叢の変動が薬物動態に与える影響を評価するため,本研究では5日間の抗菌薬投与によって腸内細菌が減少したマウスの小腸を対象に,プロテオーム解析によってトランスポーターや代謝酵素のタンパク質発現変動を解析した.その結果,抗菌薬投与マウスで3種のトランスポーター(multidrug resistance protein 1a (Mdr1a),multidrug resistance-associated protein 2 (Mrp2) 及びpeptide transporter 1 (Pept1))の発現量がおよそ2倍に増加し,他にも発現量が変動する代謝酵素(carboxylesterase 1d (Ces1d),cytochrome P450 4b1 (Cyp4b1), Cyp4f16, Cyp4f40及びglutathione S-transferase a4 (Gsta4), Gstm1, Gstz1)が明らかになった.我々はこれまでに肝臓及び腎臓のプロテオーム解析も同様に行っており,今回の小腸の結果とあわせて,腸内細菌叢が薬物動態の変動要因となる可能性を示している.今後,ヒトにおいても同様のメカニズムが働いていることが確認されれば,腸内細菌叢の変動による薬物相互作用の低減及び最適な投与設計の実現に本研究結果が貢献できることが期待される.