受賞者からのコメント
ベストポスター賞を受賞して金沢大学 医薬保健研究域 薬学系 薬物代謝安全性学研究室
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この度,2018 International Meeting on 22nd MDO and 33rdにおきまして,ベストポスター賞を賜り,ご審査いただいた先生方を始め,有意義な議論を交わしていただいた皆様に心より御礼申し上げます.私の出身地である金沢でこのような賞を頂けたことをとても嬉しく思っております.
本年会では「RNA methylation and demethylation enzymes modulate CYP2C8 expression in human liver」という演題で発表させていただきました.ゲノムDNAから転写されたRNAは種々の修飾を受けますが,頻繁に起こるものの一つにアデノシン6位メチル化(m6A修飾)があります.このメチル化反応はmethyltransferase like 3 (METTL3)-METTL14複合体によって触媒され,fat mass and obesity-associated(FTO)やAlkB homolog 5, RNA demethylase(ALKBH5)によって脱メチル化されます.近年,m6A修飾によってmRNAの安定性や翻訳効率が変化することが明らかになってきており,本研究ではRNAメチル化反応がP450分子種の発現に与える影響を明らかにすることを目指しました.RNAメチル化反応の阻害剤である3-デアザアデノシンを分化型HepaRG細胞に処置し,各P450分子種の発現を評価したところ,他の分子種と比較してCYP2C8 mRNA発現量の顕著な増加が認められたことから,本研究ではCYP2C8に着目し以下の検討を行いました.HepaRG細胞中におけるRNAメチル化酵素METTL3,METTL14のノックダウンによるCYP2C8発現量の増加とRNA脱メチル化酵素FTOノックダウンによる発現量の低下が認められ,CYP2C8がm6A修飾によって負に制御されることが示されました.そしてm6Aに対する抗体を用いたRNA免疫沈降法によりCYP2C8の3’-非翻訳領域におけるアデノシンがメチル化されること,ルシフェラーゼアッセイによりこのRNAメチル化がCYP2C8の発現に直接的に影響を与えることを明らかにしました.本研究によって薬物代謝酵素の発現にRNAメチル化が関与することが初めて明らかになり,ヒトにおける薬物代謝能の制御メカニズムの解明に向けた有用な知見を得ることが出来ました.
最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の中島美紀教授,深見達基准教授にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.RNAメチル化が薬物動態に与える影響に関する検討は前例がなく,日々試行錯誤の連続ですが,今回の受賞を励みにより一層研究に励みたいと思います.