Newsletter Volume 33, Number 2, 2018

DMPK 33(2)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

非高齢健康成人男性を対象とした14C-ASP7991による微量放射性標識体を用いたマスバランス試験

Miyatake, D., et al., pp. 118-124

 マスバランス試験は,薬物の吸収・代謝・排泄を検討するための有効な手段であり,薬物の特性を知るために開発段階の早期に実施することが推奨されている.放射能の取り扱い量の規制により,1.85~3.7MBq(50~100μCi)レベルの放射能を投与する通常のマスバランス試験(conventional MB study)を実施できる施設は日本にはなく,海外での試験が主流である.本研究で実施したmicro-tracerレベル[18.5kBq(500nCi)レベル]の放射能を投与するマスバランス試験(micro tracer MB study)は,日本では,2010年に戸塚らにより臨床研究として報告されたが,医薬品の開発に適応された事例は殆どない.micro tracer MB studyは,放射能使用量が微量であるため,特殊な施設を必要としないという利点があるが,放射能の測定にはAccelerator mass spectrometry(AMS)が必要となり,代謝物検索も含めると難易度の高い試験である.今回,著者らはASP7991のmicro tracer MB studyを実施し,試験薬物の血中動態及び排泄経路に加えて代謝物プロファイルについて検討した.その結果,通常のマスバランス試験に比べて遜色のないデータを取得できた.本試験結果は,新薬の開発において,日本でのマスバランス試験の実施可能性を示すものである.

[Regular Article]

異なった企業により構築された抗薬物抗体アッセイの性能について共通サンプルを用いて評価する共同研究

Niimi S., et al., pp. 125-132

 これまで数多くのバイオ医薬品が医療の現場に提供され患者が恩恵を受けていますが,有効性と安全性の観点から最も問題となっているのは免疫原性です.免疫原性を適切に評価するには,抗体産生の有無が正確にかつ妥当性が検証された抗薬物抗体アッセイにより測定されていることが必要です.しかし,その妥当性については各社それぞれで検討されており,必ずしも客観的に評価されていません.このような現状を踏まえ,本研究では10社の企業が参画した官民共同研究を実施し,各企業により規定及びデザインされた方法及び共通のサンプルを用いて構築された抗薬物抗体アッセイについて評価を行いました.その結果,各企業が構築した抗薬物抗体アッセイは良好な感度と精度を有していることが示されました.一方,抗薬物抗体及び薬物を含むサンプルについては,特に酸解離を用いない抗薬物抗体アッセイの妥当性評価は困難であることが示されました.本研究結果は,抗薬物抗体の測定を予定あるいは実施している企業にとって極めて有用な知見を提供しているものと考えられます.