Newsletter Volume 33, Number 1, 2018

受賞者からのコメント

 写真:兼子裕規

優秀口頭発表賞を受賞して

静岡県立大学薬学部・薬学研究院 薬食生命科学総合学府薬物動態学講座
兼子裕規

 この度,第32回日本薬物動態学会年会において名誉ある優秀口頭発表賞を賜りまして大変光栄に感じております.年会長の高野幹久先生をはじめ,日本薬物動態学会関係者様に心より御礼申し上げます.受賞の対象としていただきました研究は「Cyclosporine A封入ナノ粒子の表面物性改変による薬物動態制御」であり,ナノテクノロジーによるCyclosporine A(CsA)の体内動態制御に関するものです.

 CsAはカルシニューリン阻害作用を持ち,臨床現場では主に移植片対宿主病,尋常性乾癬および自己免疫性疾患治療薬として幅広く使用されています.一方でCsAはBiopharmaceutical classification system class 2に分類される難水溶性ペプチドであり,溶解律速による低い経口吸収性および患者間における血中濃度の大きなばらつきが報告されています.また,CsAの経口投与による使用は腎障害や肝障害などの全身性副作用発現リスクが懸念されているため,効果的使用にはCsAの体内動態制御が極めて重要です.以前の研究において我々はCsAのナノ粒子製剤を開発し,CsAの溶解性を顕著に向上させラットにおける経口吸収性を大幅に改善したことを明らかにしました.本研究においてはさらにCsAナノ粒子にポリマー被覆を施し,表面電荷の調節により消化管粘膜との相互作用を介した体内動態制御を指向しました.表面電荷が負および中性であるナノ粒子を調製し人工粘液を用いた拡散試験を実施した結果,負電荷を持つナノ粒子は滞留性を示した一方で,電荷を帯びないナノ粒子は透過性を認めました.両ナノ粒子のラットでの体内動態を評価すると,CsA原末に比べて粘膜付着特性を示したCsAナノ粒子は吸収の増加および遅延を示したのに対し,粘膜透過性を有するCsAナノ粒子は速やかな吸収と大幅な血中濃度の増加を認めました.続いて炎症性腸疾患モデルラットを用いた機能性評価では両ナノ粒子ともCsA原末に比べて大幅な抗炎症作用向上を示しました.以上,ナノテクノロジーを用いたCsAナノ粒子表面の物性改変は単純な経口吸収性向上だけでなく,体内動態を制御する上で魅力的な方法の 1つであると考えます.今後,各種検討を重ねることで更なる処方最適化を実施し,有用性の高いCsA製剤開発への発展が期待されます.

 最後に,本研究の遂行に際してご指導いただきました当研究室の尾上誠良教授,世戸孝樹講師,佐藤秀行助教および学生の皆様,そして共同研究者であるPrinceton大学のPrud’homme教授ならびにHoang様にこの場をお借りして御礼申し上げます.