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会長挨拶

過去の会長挨拶

 山下富義前会長(京都大学)の後任として、第18期会長を拝命いたしました。楠原洋之副会長(東京大学。次期会長)および第18期理事・監事の先生方とともに、本学会の持続的な発展に精一杯尽力して参ります。会員の皆様をはじめ、関係各方面の皆様におかれましては、どうか本学会活動へのご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 日本薬物動態学会は、薬物動態学を探究する本邦唯一の学会であり、1985年に創立されました。薬物動態学は、医薬品の投与や毒物の摂取による薬理・毒性の発現を理解しようとする学問です。すなわち、薬物や毒物が体内のどこにどのくらい存在するか、その根本原理を解明することで、効果や副作用、毒性などを定量的に理解することを目指しています。薬の効き方や毒性の出方には、個人差があります。薬がどこにどのくらい存在するかという薬物動態情報は、効いた・効かないを定量的に判別する指標(バイオマーカー)となります。

 一方、薬物動態学を取り巻く環境は大きく変化しており、本学会もそれに対応した変革を続けています。たとえば、より優れた薬をより早く患者に届けるための薬物動態学が求められています。薬の種類(モダリティ)が従来の主流であった低分子化合物から核酸、抗体、ウイルス、細胞など多種多様になりつつあることにともない、薬物動態評価のための分析、細胞培養、薬物送達、予測、法規制などさまざまな局面から、優れた薬を速やかに選ぶための学問の確立が求められています。本学会は会員の多くが医薬品開発に関連する企業の研究者であり、年会やショートコース、その他の学会活動を通じて互いに切磋琢磨しながら協力し合っている点にも特色があります。

 薬が効果を示す患者に適切な量を投与するための薬物動態学も必要とされています。薬物自身だけでなく、体内に存在するあらゆる物質の動態を理解し、バイオマーカーとして応用することや、数理モデルを使って病気や薬の効き方を予測する研究も盛んです。さらに、食と健康、病気にならないための薬物動態学も発展しつつあります。薬物動態学は薬に限らず、食品、香粧品、農薬など、幅広い分野と親和性の高い学問です。

 本学会の2024年の年会は、伊藤清美年会長(武蔵野大学)のもと、国際学会であるISSXとの合同年会が9月にハワイで予定されています。2020年に山崎浩史年会長(昭和薬科大学)のもとで企画された同様の合同年会が新型コロナウイルス感染症のパンデミックによってWeb開催の年会となった経緯があり、現地開催での魅力溢れる会議が企画されつつあります。是非、ご参加ください。また本学会の特色の一つに、ディレクターズイニシアチブセッション(DIS)があります。DISは主に年会でのシンポジウムの企画や他の学会とのジョイントを通じて、本学会の将来を見据えた活動を行っています。薬を取り巻く環境が目まぐるしく変化するなかで、DISも徐々に変化する必要があります。年会でのシンポジウム共同開催等を通じた活動として、第15期に始まったアジア4か国(韓国、中国、タイ、日本)の国際連携は、昨年、新たにインドを加え、相互交流がさらに加速されることが期待されます。本学会が発行する国際科学雑誌Drug Metabolism and Pharmacokinetics (DMPK)は、2002年に英文誌としてスタートして以来、国際誌としての確固たる地位を築いており、今後さらなる国際化をはかっていく予定です。このほか、学会活動活性化と会員サービス向上を目的に、薬物動態学に関するさまざまなセミナーの企画や学会員の資格制度の充実などにも取り組みたいと考えております。

 以上、日本薬物動態学会の現状と今後の発展について、ご紹介させていただきました。多くの関係分野の皆様に是非とも本学会会員となって、さまざまな活動をお楽しみいただきたく存じます。

日本薬物動態学会第18期会長
加藤将夫(ゆきお)(金沢大学)