鈴木会長の後任として第13期会長に就任いたしました。新会長として、会員の皆様にご挨拶申し上げます。
本学会は、薬物代謝・薬効毒性シンポジウムを母体として1985年に設立されました。以来、歴代の会長と役員の尽力により、学会誌の英文化、日米合同年会の開催、年会要旨の英文化と発表言語の英語化など大きな改革が進められ、薬物動態の国内外における中核団体としての地位を築いてきました。
薬物動態の研究についても、学会設立当時は動物を用いたADME研究やファーマコキネティクス解析が主でしたが、ヒトの薬物代謝酵素やトランスポーターの遺伝子から個体に至る研究が進展し、ヒトin vitro試験、ファーマコゲノミクス、LC/MSをはじめとする分析技術、バイオイメージング技術などの進歩により、ヒトin vivoにおけるPK/PDの予測や解析も可能になりつつあります。企業における動態研究もそれに伴い発展し、探索動態研究技術の進歩や動態試験のhigh-throughput化などにより、薬物動態研究は創薬と医薬品開発には欠くことのできない基盤分野となっています。
このような発展を遂げてきた薬物動態研究ですが、現在の状況は人に例えると成長期から成熟期への移行期にあるのではないかと思われます。薬物動態を規定する主要な薬物代謝酵素とトランスポーターの機能と特性の多くは既に明らかにされ、薬物動態の基盤技術も整備が進んでいます。それでは薬物動態研究は今後どのような方向へ進展していくのでしょうか? 一つの答えは薬効と毒性の境界領域への進展にあると思います。医薬品の最少要求項目は薬効と安全性であり、薬物動態はその強度を規定する最も重要な要因です。したがって、ヒトにおける薬効と毒性の予測と評価に薬物動態がさらにもう一歩踏み込むことができれば、そこには大きな未踏の領域が残されていると思います。
薬物動態の将来像は会員の大きな関心の一つです。本学会では一昨年から鈴木前会長のもと、ディレクターズイニシアチブセッション(DIS)を創設し、薬物動態の将来を見据えた年会運営を行う方針を打ち出しました。13期ではこの制度を継承・発展させることで、会員が薬物動態の将来に関するビジョンを共有できるように新たな委員会を設立する予定でいます。
本学会が設立されてから28年を経て、運営上の問題点や課題も山積しています。学会の法人化、DMPKのWEB化とニュースレターの改編、学会主導の年会運営、会則等の改正などがそれに当たります。学会の使命は薬物動態の発展を図ることにあり(会則、二章)、社会的な責任と役割を果たすことを求められています。しかし、学会は会員のためにあるということも事実です。会員の学会活動への積極的な参加を支援し、会員の満足度を上げることを大きな目標の一つとしたいと思います。
最後になりましたが、今年はサンフランシスコで日米合同の年会が開かれます。この年会は本学会の国際的なレベルの高さを示すものであり、多くの会員の皆様の参加をお待ちしております。
以上、会員の皆様のご協力とご理解をいただけますよう心よりお願い申し上げます。
日本薬物動態学会第13期会長
千葉 寛
千葉大学大学院薬学研究院遺伝子薬物学講座