Newsletter Volume 30, Number 3, 2015

DMPK 30(5)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

タモキシフェン及びトレミフェンのヒト代謝におけるCYP分子種の比較

Watanebe, M., et al., pp. 325-333

 2010年にエストロゲン受容体陽性乳がんの治療薬であるタモキシフェンの添付文書が改訂され,抗うつ薬等のCYP2D6阻害薬の併用によって活性代謝物の血漿中濃度が低下し,効果が減弱するおそれがあることが注意喚起されました.本研究の対象となったトレミフェンは,タモキシフェンと類似の構造をもつ乳がん治療薬であるため,臨床現場からトレミフェンは大丈夫なのか?という声が数多く上がりましたが,トレミフェンの活性代謝物や代謝酵素についての詳細は解明されていませんでした.今回,分析系の開発から着手し,評価に多くの時間がかかってしまいましたが,in vitroにおいてトレミフェンの活性代謝物の生成はCYP2D6の影響を受けにくいということが明らかになりました.今後は臨床レベルでの検証が必要になりますが,このような情報提供によって患者さんや医療従事者の不安が少しでも解消され,薬剤の適正使用に役立つことを望んでいます.

 

[Regular Article]

ラットにおける低分子化合物の肝臓選択的な分布は,ヒトにおけるOrganic Anion Transporting Polypeptide (OATP)を介した肝細胞への取込みの重要性を支持する

Mikkaichi, T., et al., pp. 334-340

 RI 標識した開発候補化合物を実験動物に投与し臓器分布を評価する試験は,医薬品開発過程で通常実施される試験である.特定臓器への特徴的な分布から,薬物動態メカニズムや,薬効・毒性との関性が考察される.その一例として,肝臓に化合物が集積する事例が挙げられる.一般的に肝臓や腎臓といった消失臓器の組織分布は,他の臓器に比べて高いことは経験的に知られているが,肝臓に発現する有機アニオントランスポーターOrganic Anion Transporting Polypeptide (OATP) 1B1/3の基質化合物は,より選択的に肝臓に分布することが多い.

 本研究は,このように経験的に理解しているOATP基質の肝臓選択的な分布について,より定量的に理解しようという試みに端を発したものである.本研究では,単純な組織中濃度と血漿中濃度比(Kp)では無く,肝臓Kpと他臓器のKp平均との比 (hepatic Kp ratio) を用いることで,OATP基質と非基質を分類できるクライテリアを導きだした.本成果が,レギュラトリーサイエンスの観点から,今後の議論の契機になることを期待する.

 

[Regular Article]

小腸の葉酸トランスポーターに対するフラボノイド類の影響:ミリセチンによる持続性阻害作用の解析

Yamashiro, T., et al., pp. 341-346

 薬物や栄養物質の体内動態に関わる各種トランスポーターに対するフラボノイド類の阻害作用に対する関心が高まっている.小腸の葉酸トランスポーター(PCFT)に対するミリセチン(ワイン等の含有成分)の持続性阻害作用も,その種の事例の一つである.今回,PCFT安定発現細胞を用いてその解析を進めた結果,ミリセチン濃度に依存した強い阻害作用を生じること,ミリセチンによる阻害作用の最大化に60分程度を要すること,ミリセチン除去後の輸送活性回復に90分程度を要すること等が明らかとなった.持続性ではあるが,比較的短時間で輸送活性が回復するという特徴から,可逆的なメカニズムによるPCFT分子の修飾が原因となっている可能性が推察される.引き続き,そのメカニズムの解明を図ることで,PCFTの輸送活性制御機構への理解が進み,PCFT機能に影響するより広範な要因の把握に役立つことを期待したい.

 

[Regular Article]

フェキソフェナジン (FEX) エナンチオマーの消化管吸収におけるグレープフルーツジュース (GFJ) のOATP2B1阻害効果

Akamine, Y., et al., pp. 352-357

 FEXは,R-体とS-体の光学異性体を持ち,その体内動態は異性体間で異なる挙動を示す.我々はこれまで,そのキラルな体内動態に薬物トランスポータ (P-gp, OATPs etc.) が重要な役割を果たすことを明らかにした.そこで本稿ではP-gpとOATP2B1の両阻害作用を有するGFJを併用してFEXのキラルな体内動態への影響を検討した.その結果,GFJ併用にてR-,S-体のAUCは顕著に低下し,R/S ratioの有意な変動を認めた.さらにGFJによる阻害効果は過去に検討したOATP2B1を特異的に阻害するアップルジュース (AJ) 併用とほぼ同等であった.以上のことよりFEXとGFJならびにAJとの相互作用には消化管のOATP2B1が重要な役割を果たしており,さらに立体選択性にも寄与することが明らかとなった.本結果が薬物トランスポータと立体選択的体内動態との関連を解明する一助となることを期待したい.

 

[Regular Article]

12種類のCYP2C8遺伝子多型バリアントにおける酵素活性変化

Tsukada, C., et al., pp. 366-373

 CYP2C8の遺伝子多型は,基質薬物の体内動態や副作用発現を含めた薬物応答性の個人差を生み出す一因として考えられている.しかしながら,CYP2C8遺伝子多型のどのタイプが酵素機能にどの程度変化を及ぼすかということの詳細は明らかになっていない.そこで本研究では,アミノ酸置換を伴う12種類のCYP2C8遺伝子多型に由来するバリアント酵素について,発現タンパク質による酵素反応速度論的解析を行い,パクリタキセルおよびアモジアキンに対する酵素活性変化の程度を明らかにした.本研究により,CYP2C8の酵素機能の低下や上昇を引き起こすバリアントが多数存在することが明らかになった.活性低下の認められたバリアントは,主に基質認識部位にアミノ酸置換が存在し,その構造変化が大きく寄与していると考えられた.今後,臨床現場でCYP2C8の遺伝子多型を解析することにより,患者個々の薬物応答性予測が可能になるかもしれない.