Newsletter Volume 38, Number 4, 2023

DMPK 51に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

安定同位体標識化合物を用いた代謝物体内動態と代謝物生成部位の定量的解析

Kataoka, M., et al.

 我々は,同位体IV法(薬物経口投与後にその安定同位体標識体を微量静脈内に投与し,両化合物の血漿中濃度推移から薬物体内動態を評価する手法)を考案し,薬物の体内動態に及ぼす影響(非線形や薬物相互作用)の解析が同一個体,同一条件下にて実施可能であることを報告してきた.また,薬物代謝酵素阻害時に代謝物の体内動態も大きく変化することから代謝物体内動態評価の重要性も報告している.これらの研究を遂行する中で,同位体IV法を用いて代謝物の体内動態を詳細に解析できる可能性を想起したことは必然であろう.薬物と代謝物の組み合わせとして,ベラパミルとノルベラパミル(活性代謝物)を選択し,同位体IV法により代謝物の体内動態を解析した.全身循環血中に存在するノルベラパミルの多くは小腸初回通過効果により生成されたものである一方で,小腸と肝臓のCYP3Aが強く阻害された条件下では,全身循環血中に移行した親薬物由来であることが明らかとなった.本手法は臨床試験への適用も可能であることから,臨床試験の薬物相互作用試験としての導入も視野に入れた研究を遂行する予定である.

 

[Regular Article]

溶出試験条件下におけるプラゾシン塩酸塩のリン酸塩緩衝液による溶出阻害

Sudaki, H., et al.

 プラゾシン塩酸塩(PRZ-HCl)は高血圧・排尿障害治療薬の経口固形製剤である.PRZは難溶性薬物であり,溶解性を改善するため塩酸塩として製剤化された.ヒトでは速やかに吸収されるものの,局方溶出条件下では,過飽和を示さない事が知られている.本報では,過飽和を示さない原因を解明するため,リン酸塩緩衝液(pH6.8, 50mM)を用いNon-sink条件下の溶出試験中のPRZ-HCl固体形態についてラマン分光法を用いて検討した.その結果,PRZ原薬粒子が塩酸塩から速やかに溶解度積の低いリン酸塩に変化する事を発見した.パドル50回転では一度も過飽和せずに,100回転以上では,過飽和後,PRZフリー体へと変化した.特に50回転では,塩酸塩の粒子表面で,リン酸塩が析出している可能性があり,現在その詳細について検討中である.リン酸緩衝液では適切に評価できないため,近年菅野らが開発した簡便な落し蓋を用いた炭酸緩衝液での溶出挙動も評価した.100回転では速やかに溶出し,リン酸塩緩衝液よりも高い過飽和度を示した.消化管は炭酸により緩衝されているため,リン酸塩の溶解度積の低い薬物では溶出条件の設定には留意が必要である.今後,様々な難溶性化合物のリン酸塩析出挙動についても研究を発展させていきたい.

 

[Regular Article]

外側血液網膜関門モデル細胞によるLysoTracker Red取り込み特性

Tega, Y., et al.

 リソソームトラッピングは,塩基性薬物がその物理化学的性質によって細胞内のリソソームに集積する現象であり,薬物動態や細胞機能に影響を与えることが知られている.網膜色素上皮(RPE)細胞は外側血液網膜関門を形成すると共に視細胞外節の貪食機能を有し,網膜恒常性維持に重要な役割を果たすが,本細胞のリソソームトラッピングに関わる情報は限られていた.本研究では条件的不死化ラットRPE細胞であるRPE-J細胞を用い,リソソームトラッピングのマーカー化合物であるLysoTracker Red(LTR)の輸送特性を解析した.その結果,LTR取り込みは時間および温度依存性を示し,細胞質とリソソーム間のpH勾配を減弱させるNH4ClおよびFCCP処理で減少したことから,RPE-J細胞にてリソソームトラッピング機構の存在が示唆された.また,脂溶性の塩基性薬物群がLTR取り込みを強力に阻害すると共に,細胞内小胞化を引き起こすことを見出した.今後,細胞内小胞化誘導機構などの詳細を解明することで,RPE細胞におけるリソソームトラッピングの重要性が深まるものと期待される.