受賞者からのコメント
ベストオーラル賞を受賞して東京薬科大学 薬学部 薬物動態制御学教室
|
この度は,日本薬物動態学会第37回年会におきまして,ベストオーラル賞という栄誉ある賞をいただき大変光栄に思います.審査いただきました先生方ならびに日本薬物動態学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.
近年,抗体-薬物複合体 (antibody-drug conjugates, ADCs) の研究開発が盛んに行われています.ADCsはモノクローナル抗体,毒性の高い薬物 (payload) およびリンカーで構成されており,標的細胞特異的に薬物送達することを可能とした抗体医薬品です.投与されたADCsは細胞表面の抗原に結合し,エンドサイトーシスを介して細胞内に取り込まれます.内在化後,エンドソームあるいはリソソームで分解を受け,payloadを遊離し,殺細胞効果を発揮します.ADCsの細胞内動態制御機構は抗体やpayload,リンカー部分の違いにより異なり,その詳細なメカニズムは完全には明らかになっていません.
本研究では,HER2陽性乳がん治療薬として用いられるADC,trastuzumab emtansine (T-DM1) の細胞内動態制御機構の一端を明らかにしました.T-DM1の薬効発現に関与する遺伝子として報告されていた,リソソームオーファントランスポーターSLC46A3がステロイド抱合体および胆汁酸トランスポーターであることを同定し,さらに,T-DM1のリソソーム内分解物であるLys-SMCC-DM1を直接輸送することを明らかにしました.Lys-SMCC-DM1はその物理化学的特性から生体膜透過性が低く,細胞質への排出に何らかの膜透過機構の存在が示唆されていました.本発見により,T-DM1の薬効発現にSLC46A3によるLys-SMCC-DM1のリソソームから細胞質への排出過程が重要であることが示されました.本研究成果は,リソソーム内からの薬物排出機構の存在を明らかにするとともに,リソソームトランスポーターを活用した新規ADC開発や新規創薬モダリティの開発にも役立つと期待されます.
最後に,本研究の遂行にあたり,ご指導いただきました東京薬科大学薬物動態制御学教室の井上勝央教授,岸本久直助教,樋口 慧助教,学生の皆様,金沢大学薬物動態学研究室の白坂善之准教授,東京大学医学部附属病院薬剤部の高田龍平教授にこの場を借りて感謝申し上げます.