Newsletter Volume 37, Number 6, 2022

受賞者からのコメント

顔写真:宮内 優

奨励賞を受賞して

崇城大学薬学部 衛生化学研究室
宮内 優

 このたび「異種薬物代謝酵素間の機能的相互作用: CYP3A4活性変動の新規機構」という題目で,令和4年度日本薬物動態学会奨励賞という名誉ある賞を賜り,第37回年会において受賞講演を行わせていただきました.ご推薦いただいた東北医科薬科大学名誉教授の永田 清先生をはじめ,選考委員の先生方,実行委員の先生方に深く御礼申し上げます.

 私は九州大学薬学部の学部4年生の時に,故・山田英之先生が主宰された分子衛生薬学分野に配属され,薬物代謝酵素の研究を開始しました.早いもので13年が経ちましたが,諸先生方と同様に,薬物代謝酵素にすっかり魅了されてしまったようです.以下,簡単ではありますが私の従事してきた研究について紹介させていただきます.

1.タンパク質間相互作用を介したUDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT) によるシトクロムP450 (P450) 機能の抑制

 P450とUGTは薬物代謝反応の第I相および第II相で中心的な役割を担う酵素です.いずれも小胞体に局在する膜タンパク質ですが,P450が細胞質側を向くのに対し,UGTの大部分は小胞体内腔側に位置します.したがってP450とUGTは,酸化と抱合という全く異なる反応を触媒するだけでなく,膜位相も大きく異なります.これらの理由から,P450とUGTは別々に機能すると考えられてきました.しかし化合物の中には,P450に酸化されたのち,UGTにより更なる抱合を受けるものが数多く存在します.この点を考慮しますと,P450とUGTが小胞体膜上で複合体を形成し,互いの機能を制御する方が目的に適っています.私が所属した九州大学のチームはこのP450-UGT相互作用に着目して一連の研究を展開しており,私は主にUGTがP450機能に与える影響を解析してきました.

 これまでに得られた知見を一言でまとめますと,「UGTは相互作用を介してP450機能を抑制する」になります.薬物代謝の面から考えますとP450の活性を抑制することのメリットはあまり感じられませんが,P450には活性酸素種 (ROS) を産生するという側面が知られています.我々は,このROS産生に対する安全装置としてUGTとの相互作用が機能すると考えております.また,P450-UGT相互作用は,一塩基多型を中心とする遺伝的要因や核内受容体を介した発現制御といった,既知の機構では説明できない薬物代謝活性の個体差を解明する一助になるものと期待されます.P450-UGT相互作用に関する詳細は,以下の総説を参照していただけると幸いです [1-3].

2. UGT小胞体局在化ペプチドの機能解明

 UGTの大部分は小胞体内腔側に位置しますが,C末端には一回膜貫通部位とそれに続く約20アミノ酸から構成される細胞質領域があります.細胞質領域の末端には,di-lysine motif KKXX/KXKXXとよばれる小胞体局在化ペプチドを有していますが,UGTの小胞体への局在化機構には不明な点が多く残されていました.我々はUGT2B7の段階的な欠失変異体を作製し,その細胞内局在を解析することで,UGTの小胞体への局在化はdi-lysine motifに依存しないことを実証し,更に「UGTは小胞体から運び出されるためのシグナルを持たない」という静的な局在化機構を新たに提唱しました [4].一方,di-lysine motifに直接変異を導入したUGT1A9変異体ではグルクロン酸抱合活性が大きく低下したことから,本ペプチドはUGTの酵素活性の維持にこそ必須であることが明らかになりました [5].

3. UGTのオリゴマー形成による新たな基質特異性の獲得

 マウスのような身近な実験動物でも,UGT分子種のヒトとの相同性・類似性についての検証は十分とは言えません.我々はマウスにおいて,代表的なUGTの基質であるモルヒネの代謝を担う分子種の同定を行い,Ugt2b36に高い抱合活性があることを報告しました [6].更に,単独ではモルヒネ抱合活性を示さなかったUgt1a1とUgt2b1ですが,これらがヘテロオリゴマーを形成することで新たにモルヒネに対する選択性を獲得することも見出しました [7].

 私が初めて日本薬物動態学会の年会に参加したのは,第25回の大宮(2010年)でした.それ以降,研究室の先輩・後輩と年会に参加することが楽しみになり,研究を行う上での大きなモチベーションになりました.第27回年会(千葉)での公募シンポジウム採択や北米ISSXとの合同で開催された第29回年会におけるベストポスター賞の受賞,2019年のトラベルグラント採択など,忘れられない思い出が数多く残っています.関係の先生方におかれましては大変お世話になりました.今回の受賞を励みに研究・教育に邁進し,今後も本学会に貢献していきたいと考えております.益々のご指導ご鞭撻を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます.

 最後になりますが,研究者としての基礎,そして薬物代謝酵素の魅力についてご指導いただきました山田英之先生に深く感謝申し上げます.石井祐次先生(九州大学大学院薬学研究院)には在学時から現在まで,10年以上にわたってご指導いただいております.永田 清先生,山添 康先生(東北大学名誉教授),Mackenzie Peter 先生(フリンダース大学名誉教授)には,本研究の開始時から共同研究者としてご尽力いただきました.九州大学,崇城大学における共同研究者の先生方,実験に取り組んでいただいた多くの学生の皆さんにも重ねて感謝いたします.

参考文献

  1. Miyauchi Y, Takechi S, Ishii Y. Functional interaction between cytochrome P450 and UDP-glucuronosyltransferase on the endoplasmic reticulum membrane: one of post-translational factors which possibly contributes to their inter-individual differences. Biol Pharm Bull 2021;44(11):1635-44.
  2. 宮内 優. タンパク質間相互作用による薬物代謝酵素の制御機構. Yakugaku Zasshi 2022;142(11):1169-75.
  3. Ishii Y, Takeda S, Yamada H. Modulation of UDP-glucuronosyltransferase activity by protein-protein association. Drug Metab Rev 2010;42(1):145-58.
  4. Miyauchi Y, Kimura S, Kimura A, Kurohara K, Hirota Y, Fujimoto K, et al. Investigation of the Endoplasmic Reticulum Localization of UDP-Glucuronosyltransferase 2B7 with Systematic Deletion Mutants. Mol Pharmacol 2019;95(5):551-62.
  5. Miyauchi Y, Kurohara K, Kimura A, Esaki M, Fujimoto K, Hirota Y, et al. The carboxyl-terminal di-lysine motif is essential for catalytic activity of UDP-glucuronosyltransferase 1A9. Drug Metab Pharmacokinet 2020;35(5):466-74.
  6. Kurita A, Miyauchi Y, Ikushiro S, Mackenzie PI, Yamada H, Ishii Y. Comprehensive Characterization of Mouse UDP-Glucuronosyltransferase (Ugt) Belonging to the Ugt2b Subfamily: Identification of Ugt2b36 as the Predominant Isoform Involved in Morphine Glucuronidation. J Pharmacol Exp Ther 2017;361(2):199-208.
  7. Miyauchi Y, Kurita A, Yamashita R, Takamatsu T, Ikushiro S, Mackenzie PI, et al. Hetero-oligomer formation of mouse UDP-glucuronosyltransferase (UGT) 2b1 and 1a1 results in the gain of glucuronidation activity towards morphine, an activity which is absent in homo-oligomers of either UGT. Biochem Biophys Res Commun 2020;525(2):348-53.