受賞者からのコメント
ベストオーラル賞を受賞して千葉大学大学院 薬学研究院 臨床薬理学研究室
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この度,日本薬物動態学会第36回年会において,ベストオーラル賞という栄誉ある賞をいただき誠にありがとうございます.この場を借りて,選考委員の先生方および日本薬物動態学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.
近年,免疫チェックポイント阻害剤は新たながん治療法の一つとして期待されています.しかし,その奏効率は2割程度にとどまっていることや,一部の患者では重篤な副作用を引き起こすことが課題として挙げられています.このことから,予め効果の見込める患者を選別する方法や,耐性を乗り越えるためにそのメカニズム解明が求められています.本研究では免疫チェックポイント阻害剤の一つである抗CTLA4抗体に対し,感受性(FM3A)もしくは耐性(4T1)を示す二つのマウス乳がん細胞を比較し,耐性メカニズムの解明を検討しました.抗CTLA4抗体の作用機序の一つとして,抗体依存性細胞障害活性(ADCC: Antibody Dependent Cellular Cytotoxity)による腫瘍中の制御性T細胞(Treg: Regulatory T Cell)の除去が挙げられます.そこで抗CTLA4抗体投与後のTregの数の変化を測定したところ,FM3Aの腫瘍では抗CTLA4抗体投与後のTregの顕著な減少が確認され,腫瘍中の活性化T細胞数とTregの数の比(エフェクターT細胞/Treg)が増加することで抗腫瘍効果を発揮したと考えられます.一方で,4T1ではTregの減少は確認されなかったことから,4T1担がんマウスにおいてはTregの除去を阻害する要因があると考えました.
Tregが除去されない要因として,1) 腫瘍に抗体が十分に送達されていない,2) 腫瘍微小環境(TME:Tumor Microenvironment)に問題がある,という2つの仮説を立て,検証を行いました.1)について,放射線同位体125Iで標識した抗CTLA4抗体を用い担がんマウスの体内動態を評価しました.その結果,がん種間に差はなく,どちらのがん種も十分な抗体が送達されていることが確認されました.次に2) TMEについての検討を行いました.4T1腫瘍にはマクロファージや好中球などのミエロイド系細胞が多く存在していることを見出し,さらに好中球にCTLA4が発現していることが明らかとなりました.本来,CTLA4は活性化T細胞やTregの表面に発現していますが,腫瘍中のおおよそ10%を占める好中球がCTLA4を発現していることにより,抗CTLA4抗体が本来のターゲットであるTregでなく,好中球に結合することが示唆されました.
以上,抗CTLA4抗体に耐性を示すがんでは,TMEのCTLA4陽性好中球がBinding Site Barrierとして機能し,抗CTLA4抗体のTregへの結合を阻害する可能性が示唆されました.今後は免疫染色やフローサイトメトリー法を用い,実際に抗CTLA4抗体が好中球に結合していることを確認する予定です.現在,腫瘍組織中の遺伝子変異や免疫状態などbiologyの観点から免疫チェックポイント阻害剤の作用メカニズム解明の研究が多く進められていますが,本研究を通じて薬物動態の要因も薬効に大きく影響することを明らかにしていければと考えています.
最後になりましたが,本研究の遂行にあたり,ご指導いただきました樋坂章博教授,畠山浩人准教授,佐藤洋美講師,また,抗体の放射性同位体標識や体内動態においてご指導頂きました上原知也教授,鈴木博元助教に厚く御礼申し上げます.