受賞者からのコメント
ベストオーラル賞を受賞して慶應義塾大学薬学部薬剤学講座
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この度は,日本薬物動態学会第36回年会におきまして,ベストオーラル賞を賜り光栄に存じます.年会長の荻原琢男先生,ご審査頂きました先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者の皆様に心より御礼申し上げます.
胎児発育不全および妊娠高血圧症候群は,周産期の母親および胎児の生存に関わる疾患であることから,その治療法が広く探索されています.タダラフィルおよびシルデナフィルといったホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬は,これらの疾患に対して有効な治療薬である可能性が,いくつかの臨床試験において示されています.しかし安全性について,タダラフィルでは特定の有害事象は観察されていない一方で,シルデナフィルの臨床試験においては新生児の遷延性肺高血圧症の頻度増加が指摘されており,両薬剤の胎児移行性の解明が求められています.
本研究では,両薬剤の妊娠マウスにおける胎仔移行性を比較し,加えて胎盤関門に発現する排出輸送体multidrug resistance protein 1 (MDR1)およびbreast cancer resistance protein (BCRP)について,遺伝子欠損妊娠マウスを用いて胎仔移行性への寄与を評価しました.その結果,野生型では血漿中の総薬物および遊離形薬物のいずれにおいても,タダラフィルの胎仔移行性はシルデナフィルより低い傾向が示されました.さらに, Bcrp欠損妊娠マウスにおけるタダラフィルの胎仔移行性は野生型と比較して高いことが示され,タダラフィルの胎仔移行性が低い原因の一つとして胎盤BCRPによる母獣側への排出機構の関与が示されました.これらの結果は,タダラフィルによる妊婦治療の実現に向け,新生児におけるPDE5阻害薬の有害事象の違いを明らかにするための一助になると考えられます.
最後になりますが,本研究の遂行に際してご指導頂いた当研究室の登美斉俊教授,西村友宏准教授,野口幸希助教ならびに学生の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.