DMPK 38に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
日本人トリメチルアミン尿症表現型および全ゲノムシークエンスデータベース遺伝子型から見出した新規フラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)遺伝子多型
Shimizu, M., et al.
食品由来のトリメチルアミンのN-酸化反応を触媒するフラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)はその機能不全により,トリメチルアミン尿症を引き起こす.筆者らは,トリメチルアミン尿症の表現型および東北大学東北メディカル・メガバンク統合データベースのゲノム情報を用い,FMO3遺伝子変異を報告してきた.本研究では,両者のさらなる検索を行い,新たなFMO3変異を見出し,酵素活性への影響を調べた.データベースにおける遺伝子上の塩基欠失の検出により,表現型から見出した変異との重複は増加した.データベースから見出した変異の一部は,他の変異と同一アリル上に存在することによって,酵素活性が低値を示すことが明らかとなった.これらのことから,疾患の一因となるFMO3遺伝子変異を明らかにするためには,両者の解析が重要であると推察された.
[Regular Article]
ヒトCYP3A4, 5, 7の基質特異性と違いを生じる機序の解析と予測方法
Yamazoe, Y. and Tohkin, M.
我々が開発したCYP3A4 Template システム(DMPK 34: 113-125 and 351-364 2019, DMPK 35: 253-265 and 485-496 2020, Food Saf 8 34 2020)で,約700物質の1,100を超える反応を解析してきました.この系でCYP3A4代謝反応が起こる配置を99%以上の精度で再現できることを確認しています.CYP3A5とCYP3A7は,CYP3A4と多くの基質を共有しますが,基質によってはこれらの間に顕著な違いを生じることも知られています.CYP3A4 Template システムはリガンドの3箇所の必須接触,範囲内および厚さ収納,活性部位内移動および不動化によって反応の可否を判別します.今回,このシステムをCYP3A5とCYP3A7の反応に適用して両分子種とCYP3A4反応の違いが生じる活性部位内相互作用を解析しました.その結果それぞれ1箇所の違いによって差異を生じると判断され,予測の可能なことが判明しました.
[Regular Article]
Nakano, M., et al.
シクロフォスファミドなど医薬品の25%の代謝を担っているCYP2B6の発現を制御するmicroRNAを同定することを目的とした.3’-UTRを含むCYP2B6を安定的に発現するHEK293細胞を樹立し,この細胞にCYP2B6の3’-UTRに結合すると予測された14種類のmicroRNAをそれぞれ導入した.その結果,miR-145,miR-194,miR-222もしくはmiR-378の過剰発現によりCYP2B6発現量の低下が認められたことから,これらのmicroRNAがCYP2B6の発現を負に制御していることを明らかにした.CYP2B6の発現量に影響を及ぼすことが知られているCYP2B6遺伝子型を判定した上で,15検体のヒト肝サンプルを用いてCYP2B6発現量とこれらmicroRNAの発現量の関係を調べたところ,有意な相関関係は認められず,複数のmicroRNAならびに転写調節機構の寄与が反映された結果と考えられた.
[Regular Article]
カルボキシルエステラーゼによる代謝活性化の制御におけるエステルプロドラッグの立体障害や電子密度の影響
Takahashi, M., et al.
カルボキシエステラーゼ(CES)はエステル型医薬品の加水分解代謝に重要な役割を果たしている.本研究では,インドメタシンに様々なアルコールを導入した26種のエステルプロドラッグの合成および代謝速度を評価することで,CESの基質認識能について明らかにすることを目的とした.合成したプロドラッグは,hCE1によって特異的に代謝されるアルキルエステル型,hCE2よりもhCE1によって代謝されやすいフェニルエステル型,hCE1とhCE2の両方によって代謝されやすい炭酸エステル型の3種類に分類された.hCE1は基質の立体障害の影響を受けやすく,メチル基の位置が異なる4種の異性体間で代謝活性化速度が最大で10倍異なり,hCE2は基質の電子密度の影響を受けやすく,電子密度の違いにより代謝活性化速度が最大で3.5倍異なることが判明した.今後は,本研究で得られたCESに関する知見を基に,hCE1あるいはhCE2選択的に代謝活性化される機能性分子の設計を行いたいと考えている.
[Regular Article]
MALDI-MSイメージングのための抗がん剤を用いたメソッド構築手順と感度の指標としてのタンパク結合率
Hayashi, Y., et al.
医薬品開発において薬物及びその代謝物やバイオマーカーの体内(組織内)分布に関する情報は薬効だけでなく毒性評価にも非常に重要であり,分布に関する情報を得るための手順とMALDI-MSイメージングが注目を集めている.本報告では標準化されたメソッド構築手順を示した.高品質なデータは高品質なメソッドの上にのみ成り立つ.本報告が研究者の高品質なメソッド構築に役立つことを期待する.また,メソッド構築手順の標準化の検討過程で,測定対象化合物のシグナル強度がタンパク結合率と相関を示すという結果が得られた.一方で,タンパク結合率と相関を示すLog PやPolarizabilityといった物性値はシグナル強度とは相関を示さなかった.一見全く関係ないパラメーターに相関関係が確認されたことは非常に興味深い結果であった.MALDIには機序が解明されていない部分もある.本報告がMALDIの機序の解明に貢献し,MALDI-MSイメージング技術の発展に繋がることを願う.
[Short Communication]
ヒトゲノムを検出する定量PCR法へのDUF1220の応用―治療用ヒト細胞移植後の生体内分布における有用性の評価―
Okawa, Y., et al.
細胞治療用の細胞について有効性と安全性の評価のために生体内分布を確認することが重要である.定量PCRは定量性が高く,感度が良いことから,動物モデルで細胞由来のDNAを検出し定量するのに有用である.これには反復配列の一種として知られるAlu配列がターゲットとして用いられることが多いが,高いバックグラウンドが欠点である.そこで本研究では,ヒト特異的なmultiple-copy遺伝子であるdomain of unknown function 1220(DUF1220)をターゲットとして定量PCRによるヒトゲノムの検出・定量を試みた.その結果,マウスゲノム溶液中に混在するヒトゲノムをAlu配列と同程度に検出することができ,Alu配列とは異なりDUF1220のバックグラウンドは認められなかった.同様に,カニクイザルのゲノム溶液中のヒトゲノムも検出することが可能であった.今後,定量性に関してさらに検討が進めば,DUF1220の定量PCR法が,動物モデルに移植された治療用ヒト細胞の生体内分布を調べる有用なツールとなるかもしれない.