DMPK 35(6)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
グリッド型Templateを用いるCYP3A4予測システムによる基質との相互作用解析 第4報 大分子量基質への適用
Goto, T., et al.
CYP3A4は多様な構造と分子サイズを持つ脂溶性物質の代謝に関わっています.既報(DMPK 34; 113-25, 351-64, 2019, 35; 253-65, 2020, Food Safety 8; 34-51, 2020)で,確度の高い代謝予測ができるCYP3A4 Templateの作成とPAHs,ステロイド,環境物質や医薬品への適用を示しました.この論文ではCYP3A4の特徴的な反応である分子量の大きい基質へのCYP3A4 Templateの適用性を調べました.その結果シクロスポリン,タクロリムス,イベルメクチンのような基質にもこれまでのCYP3A4予測システム規則が適用できることを明らかにしました.またTemplate上のクラリスロマイシンとエリスロマイシンの配置からCYP3A4不活化反応性の差が,活性部位中央にあるCavity-2残基との反応性の違いに由来する可能性を示しました.本法では非基質/基質の判別も可能であり,従来の予測手法とは異なりブラックボックスがないので,判定の根拠をTemplate上の相互作用から知ることができるのがこの方法の利点です.
[Regular Article]
P450阻害アッセイにおける2型糖尿病発症マウス由来の血清成分による阻害効果は,潜在的な糖尿病マウスを診断できる.
Tamaki, S., et al.
本研究では,チトクロームP450による蛍光基質代謝阻害実験に対し,高脂肪食を与えた糖尿病発症マウスから回収した血清が与える影響を評価しました.その結果,糖尿病発症マウスの血清は,CYP1A2,CYP2A13,およびCYP2C18の阻害率を大幅に上昇させました.一方,血糖値が正常値になったマウスでは,これらの変化はコントロールマウスと同レベルへと戻りました.また,短期間だけ高脂肪食を与えた血糖値上昇前のマウスから回収した血清においても,CYP2A13およびCYP2C18の阻害率は2型糖尿病発症マウスにおけるものと同様の傾向を示しました.以上の結果より,血糖値が上昇する前の潜在的な2型糖尿病発症マウスと健常マウスが区別可能であることが示されました.いずれの血清成分が糖尿病のマーカー分子であるのかは明らかになっていませんが,これらのマーカー分子はP450活性を選択的に阻害する働きを持つのではないかと考えられました.
[Regular Article]
ヒト肝キメラマウスと半生理学的薬物動態モデリングを用いたトログリタゾン及びその硫酸抱合体のヒト血漿中濃度予測
Ito, S., et al.
肝臓がヒト化されたヒト肝キメラマウスはヒト特異的な代謝物の評価に有用なだけではなく,近年ではヒト血漿中薬物濃度予測にもその研究が進められてきている.本研究ではトログリタゾンおよびその主要代謝物である硫酸抱合体を使用し,異なる肝置換率のキメラマウスにトログリタゾン及び硫酸抱合体をそれぞれ静脈内投与した後,得られた値(肝重量で補正した肝固有クリアランス,代謝物生成比,肝血漿中濃度比)と置換率から100%仮想キメラマウスの値を算出し,ヒト血漿中濃度予測に使用した.その結果,硫酸抱合体の血漿中濃度‐時間プロファイルは臨床試験で得られた値からの乖離が生じたが,トログリタゾンのプロファイルは,報告値と良く一致し,キメラマウスと半生理学的薬物動態モデリングの組み合わせは,トログリタゾン及び硫酸抱合体の薬物動態を理解するのに有用なツールであることが認められた.今後,創薬におけるキメラマウスを用いたヒト薬物動態予測の活用についての更なる検討を進めて行きたい.
[Regular Article]
マイクロRNAによるOATP2B1トランスポーターの発現調節
Liu, W., et al.
OATP2B1は,小腸や肝臓をはじめ一部の正常組織やがん組織に発現する.また,SLCO2B1の遺伝子多型の影響やノックアウトマウスにおける吸収変動から一部の医薬品の吸収に働くことも示されるなど医薬品の作用とも関連する.一方,著者らはCaco-2細胞におけるOATP2B1の発現がリンゴやグレープフルーツ由来ナノ粒子により低下し,それが果物に含有されるマイクロRNA(miRNA)に起因する示唆を得た(Mol Pharm, 15:5772, 2018).しかし,miRNAによる発現調節の情報はなかったため,本研究ではOATP2B1の発現調節にmiRNAが関与するかを調べた.その結果,miRNAデータベースより反応性が示唆された複数のmiRNAのうち,miR-24がSLCO2B1の3’-UTRに作用し,mRNAおよびタンパク質の発現,さらに輸送活性を低下させることを見出すことができた.OATP2B1活性の調節機構としてmiRNAの関与を示した本成果は,OATP2B1発現の組織選択性や病態時変動を考える上で有用であり,薬物動態,病態との関連や生理的役割の解明に向けたさらなるOATP2B1研究への展開が期待される.
[Regular Article]
ケルセチンはブレオマイシンによる肺胞上皮細胞の上皮間葉転換の誘発を抑制する
Takano, M., et al.
ブレオマイシンなどの抗がん剤は,肺線維症を高頻度に引き起こす.肺の線維化が起こる原因の一つとして,肺胞上皮II型細胞が筋線維芽細胞に変化する上皮間葉転換(EMT)とそれによる細胞外マトリックスの過剰産生の関与が示唆されている.しかし,抗がん剤によるEMT誘発に関する情報は乏しく,またそれを防ぐ方法についても研究が進んでいない.著者らは肺胞上皮II型細胞の形質を高めたRLE/Abca3細胞を樹立し,この細胞を用いて様々な化合物のEMT抑制効果を調べてきた.本研究では,その中で見つかってきたケルセチンに焦点を当て,ブレオマイシン誘発性EMTに対する防御効果を検討した.その結果,ケルセチンはSmadおよびβ-catenin経路や活性酸素種の産生を抑えることで,ブレオマイシン誘発性EMTに対して抑制的に働くことが明らかとなった.肺線維症に対するケルセチンの防御効果についてin vivoでの検討を含め,さらなる研究の進展が望まれる.
[Regular Article]
コレステロールトランスポーターNiemann-Pick C1 Like 1はユビキノンの消化管吸収に寄与する
Nashimoto, S., et al.
Niemann-Pick C1 Like 1 (NPC1L1) はコレステロールやα-トコフェロール等の脂溶性物質の消化管吸収に関与している.ミトコンドリア電子伝達系の構成成分であるユビキノンはサプリメントや医薬品として用いられるが,その消化管吸収機構は不明な点が多い.我々はユビキノンの消化管吸収にNPC1L1が関与しているのではないかと仮説を立て種々検討を進めた.NPC1L1高発現細胞におけるユビキノンの輸送活性は,mock細胞と比較して有意に増大した.さらに,ユビキノンの取り込み量はNPC1L1阻害薬のエゼチミブ存在下において有意に減少したことから,ユビキノンがNPC1L1を介して輸送されることが示された.また,ラットへのコエンザイムQ10乳剤投与後の血漿中濃度は,エゼチミブとの同時投与によって有意に減少した.以上より,ユビキノンの消化管吸収にNPC1L1が寄与する可能性が示された.今後は,コレステロールやα-トコフェロールと異なる化学構造を持つユビキノンのNPC1L1による認識機序について明らかにしていきたい.
[Regular Article]
リンゴジュースによるエルロチニブ懸濁投与法が制酸剤との相互作用による吸収低下を克服する
Shimada, T., et al.
分子標的抗がん剤であるエルロチニブは,難溶解性塩基性薬物の性質上プロトンポンプ阻害剤との併用により胃内溶解性が著しく低下する.本相互作用によりエルロチニブAUCが46%低下し,全生存期間や無増悪生存期間が有意に短縮することから,その対応が望まれる.これまでにエルロチニブは炭酸清涼飲料水であるコーラーとの同時服用により限定的ではあるが吸収改善効果が報告されているが,文化的背景などから日本ではなじみにくい対応となっている.そこで本研究は,臨床で一部の薬剤懸濁法に用いられる酸性飲料水リンゴジュース(pH3.7)によるエルロチニブ懸濁投与法の有用性について検討した.エルロチニブの溶解度は水道水や同pH塩酸と比べリンゴジュースで有意に高い値を示し,またオメプラゾール処置に伴うエルロチニブ血中濃度推移の低下はリンゴジュース懸濁投与により特に吸収相での吸収増加作用が認められた.今後のさらなる検討は必要であるが,本懸濁投与法が制酸剤と難溶解性塩基性薬物の薬物相互作用の対策として臨床応用されることを期待する.
[Regular Article]
ヒト肝臓における薬物還元酵素AKRおよびSDRのmRNA発現量の定量評価
Amai, K., et al.
Non-P450酵素の特徴に関する情報が集積されつつあるが,未だ不明瞭な点が多いのも事実である.医薬品化合物の還元反応を担う還元酵素は,その機能解析がある程度進められているものの,ヒト肝臓における発現量が不明であり,多種類ある中から責任酵素を明らかにすることは困難である.その足掛かりとなる情報として,aldo-keto reductases (AKR)およびshort-chain dehydrogenases/reductases (SDR)の2つのファミリーに属する酵素のmRNAの定量評価を行った.医薬品を還元することが報告されている18分子種についてヒト個人肝臓22検体を用いて評価した結果, AKR1C1, AKR1C2, AKR1C3, CBR1および HSD11B1の発現量がそれぞれ全還元酵素の10%以上を示し,これらの5分子種で約67%を占めることを明らかにした.発現量に大きな個人差も認められ,最大で960倍もの大きな個人差が認められた.今後はヒト肝臓における各分子種の寄与率を評価し,医薬品開発に有用な情報を取得することを目指す.
[Regular Article]
小児注意欠陥・多動性障害患者におけるリスデキサンフェタミン投与時のd-アンフェタミンの母集団薬物体動態解析及び曝露―反応解析
Tsuda, Y., et al.
リスデキサンフェタミンは,代謝物d-アンフェタミンを活性本体とした,注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬であり,児童及び青少年におけるADHDの有用な治療法の一つです.本研究では,小児ADHD患者対象の日本及び海外臨床試験の併合データを用いて母集団薬物動態解析を実施し,小児ADHD患者におけるリスデキサンフェタミン投与後のd-アンフェタミンの薬物動態及びその影響因子について検討しました.年齢,体重,性別及び民族差を薬物動態に対する影響因子として検討したところ,体重がクリアランス及び分布容積に,民族差がクリアランスに影響を与える共変量として選択されました.また,日本人小児ADHD患者において,ADHD RS-IV (注意欠陥・多動性障害評価尺度) のベースラインからの変化量と,定常状態におけるd-アンフェタミンの血漿中濃度時間曲線下面積に,明確な相関関係は認められませんでしたが,曝露の低い集団においてもプラセボよりも優れた薬効を示すことが示唆されました.本研究は本薬の薬物動態及び曝露反応関係を把握する上で有用な研究であると考えます.
[Regular Article]
6-ヒドロキシインドールは腎障害患者で増加する生体内OATP1B1長時間阻害剤である.
Masuo, Y., et al.
慢性腎障害時に,一部の肝消失型薬物の血中からの消失が遅延する.原因の一つに,尿毒素による肝膜輸送体OATP1B1の阻害が挙げられるが,既知の尿毒素による直接的な阻害だけではOATP1B1の活性低下を十分に説明できない.本研究では,尿毒素によるOATP1B1の時間依存的阻害を検討したのち,indoleの代謝物6-hydroxyindoleによるOATP1B1の阻害を検証した.その結果,6-hydroxyindoleは,HEK293/OATP1B1細胞およびヒト肝細胞で,OATP1B1基質estrone-3-sulfateの取り込みを低下させ,その低下はpreincubation依存的であった.さらに,6-hydroxyindoleはヒトで腎機能の低下に伴い,高い血漿中濃度が観察されたことから,尿毒素の一つであった.患者においては長期間暴露されうる尿毒素の一部が膜輸送体を時間依存的に阻害することは,患者での薬物動態変化を考える上で有益な情報と考えられる.
[Regular Article]
新規5-HT4 受容体パーシャルアゴニスト(minesapride)の健康高齢者及び健康非高齢者における薬物動態,安全性,及び代謝物プロファイル
Hamatani, T., et al.
新規5-HT4受容体パーシャルアゴニスト(minesapride)は,便秘型過敏性腸症候群や慢性便秘症に有効性を示すことが期待されている.本邦では,それらの適応を有する5-HT4受容体アゴニストは存在せず,欧米でも治療選択肢は限られている.慢性便秘症は高齢者で好発であるため,高齢者と非高齢者で薬物動態及び代謝物プロファイルに差異はないか明らかにする目的で臨床薬理試験を実施した.また,凍結肝細胞を用いたin vitro試験でヒト特異的な代謝物がないかを他の動物種の結果と比較し,検討した.臨床試験結果,高齢者と非高齢者で薬物動態,代謝物プロファイルに大きな違いはなく,いずれの代謝物も未変化体の10%未満であった.また,in vitro試験の結果,ヒト特異的な代謝物は検出されなかった.以上より,肝/腎機能障害を伴わない高齢者では,用量調整が不要であることが考察でき,今後の臨床開発に有益なデータである.
[Short Communication]
フラビン含有酸素添加酵素3 (FMO3) 遺伝子型を判定したカニクイザルにおけるトリメチルアミンの体内動態
Shimizu, M., et al.
フラビン含有酸素添加酵素3 (FMO3) は生体内で,食品由来トリメチルアミンを含め医薬品のN-酸化を触媒する代謝酵素である.ヒトではFMO3遺伝子多型が生体内トリメチルアミン代謝の個体差をもたらし,トリメチルアミン尿症の原因となることが明らかになっている.カニクイザルは重要な実験動物種である.我々は,カニクイザルFMO3の遺伝子多型を調べ,in vitro酵素活性に一部変動をもたらす18種類の変異を報告した.本研究では,安定同位体標識したトリメチルアミンを用いてその体内動態をFMO3遺伝子型判定したカニクイザルで明らかにした.FMO3遺伝子変異を有したカニクイザル3頭のトリメチルアミン体内動態に,調べた範囲において大きな個体差は認められなかった.本研究の結果は,サルだけでなく,FMO3遺伝子変異を有するヒトにおけるFMO3基質の体内動態予測の基盤情報となることが期待される.