DMPK 35(5)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
腎移植後の腎癌患者におけるスニチニブ・タクロリムス・エベロリムス薬物動態変動に関するモデル解析
Ito, T., et al.
スニチニブは腎癌の,タクロリムス及びエベロリムスは腎移植の標準薬で,TDMが推奨されている.これらはCYP3A4の基質であるが,併用時の薬物動態に関する報告はなかったため,泌尿器科の病棟薬剤師であった筆頭著者は,スニチニブ併用開始時に頻繁なTDMを医師に提案した.その結果,本症例ではスニチニブ血中濃度は通常よりも高値を示し,重度の下痢を発症した.また,タクロリムスとエベロリムス血中濃度はスニチニブ開始後に徐々に低下したが,単純な下痢の影響だけでは説明できなかった.そこで,3剤の薬物動態変動をモデル解析によって評価し,スニチニブ血中濃度の上昇にBCRP遺伝子変異が寄与していることや,タクロリムス及びエベロリムスのベイジアン予測値と実測値の乖離から,スニチニブによる時間依存性阻害と下痢の影響が複雑に影響している可能性を示した.相互作用機序の考察に際して,多大なアドバイスを頂いた審査員の先生方にこの場を借りて感謝したい.
[Regular Article]
ラット網膜ペリサイト内へのL-proline輸送におけるsystem Aの関与
Zakoji, N., et al.
網膜ペリサイトは,内側血液網膜関門の実体である網膜毛細血管内皮細胞を機能的・形態的にサポートする細胞であり,毛細血管内の血流量制御や関門としての形態維持に寄与している.網膜ペリサイトが担う関門形態維持の役割として,コラーゲンの合成が挙げられる.我々は,このコラーゲンの主要構成成分であるアミノ酸L-prolineがどのように網膜ペリサイトへ取り込まれるかを目的に研究に取り組んだ.その結果,網膜ペリサイト細胞株 (TR-rPCT1細胞) を用いた輸送解析と免疫組織化学的解析を通じ,system AのサブタイプであるATA2が網膜ペリサイトにおけるL-proline取り込みを担う分子であることが示唆された.本知見は,内側血液網膜関門の形態維持への網膜ペリサイトの役割を理解し,さらには本関門を介した血流律速型薬物の透過を考察する上で有用と期待される.
[Regular Article]
赤血球及び人工赤血球 (ヘモグロビン小胞体) を輸血した出血性ショックモデルラットの肝CYP薬物代謝性の評価
Tokuno, M et al.
ヒトヘモグロビンをリポソームに内包したヘモグロビン小胞体 (Hb-V) は,人工赤血球製剤として大量出血患者に対する使用が想定されている.本研究では,出血性ショックモデルラットにラット赤血球またはHb-V輸血を施し,蘇生24時間後の肝CYP1A2, CYP2C11, CYP2E1, CYP3A2の薬物代謝性について比較検討を行った.出血性ショックモデルラットを各蘇生液で蘇生後にCYP cocktailの体内動態試験を行ったところ,sham群と比較してHb-Vおよび赤血球輸血群で各薬物の消失が遷延し,Hb-V輸血群においては赤血球輸血群よりも強い薬物消失遷延を示した.そこで,CYPタンパク質発現量と代謝活性を評価したところ,sham群と比較してHb-V及び赤血球輸血群で上記CYP分子種の発現量と代謝活性の低下が観察され,また,赤血球輸血群よりHb-V輸血群で代謝活性が強く阻害されていた.以上の結果より,大量出血時に対するHb-V輸血は,肝CYPタンパク質発現量と代謝活性を低下させることで,CYP代謝型薬物の消失遷延をもたらすと考えられた.
[Regular Article]
細胞型人工酸素運搬体 (ヘモグロビン小胞体) のチトクロームP450を介した薬物相互作用の評価
Tokuno, M., et al.
ヘモグロビン小胞体 (Hb-V) は,ヒト赤血球から抽出精製されたヘモグロビンを脂質二重膜に内包した人工酸素運搬体である.本研究では,Hb-V大量投与によるチトクロームP450 (CYP) を介した薬物相互作用について健常ラットを用いて検討した.Hb-V投与24時間後にCYP1A2, CYP2C11, CYP2E1, CYP3A2に特異的に代謝される薬物4種 (CYP cocktail) を投与し,各薬物の体内動態を評価したところ,生理食塩水及び赤血球投与群と比較して,Hb-V投与群では全ての薬物の消失遷延が観察された.そこで,プロテオーム解析によって肝CYP分子種別タンパク質発現量を比較したところ,投与群間で上記CYP分子種の発現に違いはなかった.一方,Hb-V投与群では他群と比較して上記CYP分子種の代謝活性が低下していた.しかしながら,これらの変動はHb-V投与1週間後には生理食塩水投与群と同等まで回復した.以上より,Hb-V大量投与はCYP代謝型薬物の消失遷延を惹起するものの,その影響は一過性であることが明らかとなった.
[Regular Article]
Wada, S., et al.
肝臓には,尿酸生合成や膜透過に働く複数のトランスポーターが発現するが,血清尿酸値(SUA)調節に対する各因子の影響はさなかではない.尿酸の肝動態解析には,種差ならびに生合成と膜透過が連動という課題のために,研究手法の選択が課題であった.本研究では,ラット肝細胞で予試験を行い,最終的にサンドイッチ培養ヒト肝細胞を用い,尿酸生合成前駆体のヒポキサンチンの安定同位体を用いることで,尿酸生合成から膜輸送までを内因性尿酸と区別して実測し,数理モデル化による定量的解析を行った.その結果,尿酸の血液側への排出には主にGLUT9とMRP4が働くことが示された.また,SUA値変動への影響は意外にもキサンチンオキシダーゼ活性,ヒポキサンチンの肝取り込み,及びキサンチンの排出過程が大きく,尿酸の排出過程の影響は小さかった.したがって,尿酸トランスポーター活性を抑制してもSUAはそれほど低下しないと考えられた.今後は,各過程に影響する化合物等を探索し,尿酸値に与える影響を裏付けていく.
[Regular Article]
新規Nrf2調節因子WDR23によるNrf2依存性薬物代謝酵素の発現調節
Siswanto, F.M., et al.
Nrf2は酸化ストレス応答の鍵因子であり,Keap1によってその発現量が調節されています.一方,Nrf2は薬物トランスポーターなど薬物動態において重要な蛋白質の発現制御を担ってます.生体内で発生する活性酸素などのラジカルや食物に含まれるスルフォラファンなどの化合物はKeap1に作用して,その構造を変化させることで不活化して,Nrf2を誘導することが知られています.筆者らはコーヒーに豊富に含まれているクロロゲン酸(CGA)がNrf2を増加させることを見出しましたが,Keap1経由ではありませんでした.そこで,最近Nrf2の調節因子の候補と考えられているWDR23がKeap1から放出されたNrf2を細胞質(isoform1)及び核内(isoform2)で分解に関わっていることを明らかにしました.さらにCGAはWDR23を介してNrf2を増加させることも明らかにしましたが,詳しいメカニズムは現在検討中です.以上の結果も含めて,15種類の薬物代謝酵素についてWDR23-Nrf2経路による調節を明らかにしています.この成果は食物中の化合物と薬物の新たな相互作用経路として重要であると考えています.
[Regular Article]
UDP-グルクロン酸転移酵素1A9の活性保持には,細胞質領域の局在化ペプチドが不可欠である
Miyauchi, Y., et al.
UDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT) はグルクロン酸抱合反応を担う小胞体膜結合酵素であり,その構造の大部分は小胞体内腔側に位置する.一方,UGTのC末には1回膜貫通領域および細胞質領域が存在し,細胞質領域の末端には小胞体への局在化ペプチドとして知られるdi-lysine motif (KXKXX) をもつ.これまでに我々は,UGTの小胞体への局在はdi-lysine motif に依存しないことを報告したが,本ペプチドの機能は不明であった.そこで本研究ではdi-lysine motif がUGT活性に及ぼす影響を検討した.興味深いことに,di-lysine motif を欠失させた変異体およびリジンをアラニンに置換した変異体では,グルクロン酸抱合活性が80%以上低下した.本研究では,C末のdi-lysine motif はUGTの「小胞体への局在化」ではなく,「グルクロン酸抱合活性の保持に必須な配列」であると再定義することが出来た.UGTの活性部位が小胞体内腔にあるという定説からすると意外な発見であり,UGTの構造と機能に新しい示唆を与えることが出来たと思っている.
[Note]
新規マーモセットチオプリンS-メチルトランスフェラーゼの同定・解析
Uehara, S., et al.
小型霊長類マーモセットは,少ない投与量で薬物動態を評価できる動物種として注目されている.これまでマーモセットについて30種類以上のチトクロムP450 (P450) が同定・解析されてきたが,non-P450については十分解析されていない.本研究では,マーモセットゲノムデータの解析により新規マーモセットチオプリンS-メチルトランスフェラーゼ(TPMT)遺伝子を見出した.マーモセット肝臓よりTPMT cDNAをクローニングし,他動物種TPMTとのアミノ酸配列の比較およびmRNAの発現解析を行った.マーモセットTPMTはヒトTPMTに対して92%の高いアミノ酸相同性を示した.マーモセットTPMT mRNAは腎臓および肝臓で多く発現しており,報告されたヒトTPMTの結果と類似していた.今後の研究により,マーモセットの腎臓および肝臓におけるTPMTの機能が明らかにされることが期待される.
[Note]
新規マーモセットMAO-AおよびMAO-Bの臓器別mRNA発現分布
Uehara, S., et al.
モノアミン酸化酵素(MAO)は,異物代謝のみならず,ドーパミンなどの神経伝達物質の不活化に重要な酵素である.マーモセットはヒト神経疾患研究,特にパーキンソン病や神経変性疾患などのモデルとして広く使われている小型霊長類であるが,MAOについてほとんど解析されていない.本研究では,マーモセット脳および肝臓よりそれぞれ新規MAO-AおよびMAO-BのcDNAのクローニングに成功した.マーモセットMAOはヒトMAOに対して92-95%の高いアミノ酸相同性を示した.さらにマーモセットの脳,肺,肝臓,腎臓および小腸におけるMAO-AおよびMAO-BのmRNA発現分布は異なることを明らかにした.特にマーモセット脳ではMAO-B mRNAがMAO-A mRNAに比べて多く発現しており,報告されたヒトMAOの結果と類似していた.マーモセットおよびヒトMAOのアミノ酸配列および臓器発現分布の特徴は類似していることが示唆された.