Newsletter Volume 35, Number 2, 2020

受賞者からのコメント

ベストポスター賞を受賞して

国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部
齊藤公亮

 この度は,日本薬物動態学会第34回年会において,「Identification of liver damage biomarkers using comprehensive hydrophobic metabolomic analysis」というタイトルで,ベストポスター賞を賜りました.貴重なお時間を割いて選考委員の任に就いてくださった先生方をはじめ,日本薬物動態学会及び年会関係各位に心より御礼申し上げます.

 本研究の特色としては,A)単独では解析に十分な症例数が得られにくい医薬品による肝臓の有害作用(薬物性肝障害)について,拠点病院を募り同一プロトコールによる検体収集を実施し,解析可能な症例数を達成したこと,B)単独あるいは数種の既存バイオマーカーではなく,オミックス(メタボロミクス)手法を用いて網羅的にバイオマーカー候補を探索・検証したこと,が挙げられます.その結果として,混合型肝障害に対するエーテル型リゾホスファチジルコリン(LPC(16:1e)),胆汁うっ滞型に対するホスファチジルエタノールアミン(PE(16:0/22:6))及びコエンザイムQ10,といった3種のバイオマーカー候補を得ることができました.残念ながら識別能を評価するROC解析のAUC値ではいずれも0.8弱であり,単独でバイオ―マーカーとして用いることが可能な性能を示すことはありませんでしたが,既存マーカーとの併用により診断の感度・特異度の向上を期待しています.また,今回見出した分子はすべて脂質分子ですので,たとえばExosome等の脂質含有画分を血液から選択的に分画することで,単独でもより識別能を向上させる可能性も考えられます.個人的には,これらの可能性も含めて評価していただいたと受け止めており,さらに研究を発展させ,薬物性肝障害を診断しうるバイオマーカーの開発を目指していく所存です.

 最後になりましたが,研究代表者の大野泰雄先生,リサーチリーダーの斎藤嘉朗先生,をはじめとする共同研究者の先生方,ご尽力いただいた各施設のスタッフの皆様,個人への利益がないのにも関わらず,未来の医薬品安全性のために参画していただいた患者様方に,この場をお借りしまして深く感謝を申し上げます.