DMPK 35(1)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
Rico, E., et al.
The Cytochrome P450 2D6 gene is an extensively characterized P450 isoenzyme due to its prominent role in clinically significant drug metabolism, its polymorphic nature, and how phenotypic consequences critically affect the biotransformation of CYP2D6 substrates. This study genotyped the CYP2D6 gene in a total of 473 individuals, amongst these six novel polymorphisms were identified in the Ni-Vanuatu population and three regarding the Kenyan population, all of which were further functionally characterized using dextromethorphan. Taken together, genotypic data for Vanuatu showed a majority of normal function alleles, with a low prevalence of intermediate metabolizers (IMs) and ultrarapid metabolizers, which could lead to normal metabolizers oversight misclassification. In contrast, the abundant frequency of IMs found in the Kenyan population increases the risk of treatment failure and adverse effects in this region. Genotyping and detailed functional characterization of novel variants identified in highly admixed or geographically isolated populations, as is the case with Kenya and Vanuatu, could aid in the elucidation of how gene polymorphisms contribute to the global disparity observed regarding treatment response. Additional functional characterization of the identified variants using other CYP2D6 substrates, specifically those of clinical importance in these regions, could contribute to establishing region-specific guidelines and improve patient outcomes.
[Regular Article]
Sasaki, M., et al.
臨床で汎用されているニロチニブは難溶性・難膜透性薬物である.そのためにニロチニブ吸収の個体間変動要因として様々なことが考えられるが,今回は蠕動運動に着目した検討を行うこととした.本研究では,蠕動運動を亢進あるいは抑制したラットを用いて,ニロチニブの吸収性を評価し,比較対照として溶解性・膜透過性に問題が無いアセトアミノフェンを用いた.アセトアミノフェンのCmaxは蠕動運動亢進時に1.5倍,抑制時に0.56倍になったのに対し,ニロチニブでは蠕動運動亢進時に2.9倍,抑制時に0.29倍となり有意に変化した.ニロチニブは溶解性が悪いため,蠕動運動により胆汁によるニロチニブ乳化が亢進し,ニロチニブの吸収増大につながったと考えられた.そこで,胆管カニュレーション処置により消化管への胆汁分泌を止めたラットを用いて蠕動運動を亢進させたところ,ニロチニブの吸収はコントロールラットと比較して大きく変化しなかった.したがって,ニロチニブの吸収過程には胆汁による乳化が必須の過程であり,蠕動運動を亢進させると消化管内でニロチニブと胆汁の混合・乳化が促進され,ニロチニブの吸収増大につながることが明らかとなった.
[Regular Article]
オキサリプラチンとは異なりシスプラチンはPKCの活性化を介してLLC-PK1細胞の間隙透過性を上昇させる
Zhang, Y., et al.
シスプラチン特異的な腎毒性発現は薬物動態学的特性だけでは説明できない.本論文では薬力学的特性に着目し,ブタ腎由来上皮LLC-PK1細胞を用いてシスプラチンとオキサリプラチンの比較実験を行った.上皮細胞障害の指標に用いられるFluorescein isothiocyanate (FITC)-dextranを用いた細胞間隙透過性評価では,シスプラチンを処置した細胞層の間隙透過性のみが顕著に上昇した.すなわち,シスプラチン特異的な腎毒性発現をin vitroで再現できた.シスプラチンもしくはオキサリプラチン処置後のProtein kinase C(PKC)活性は,細胞間隙透過性実験の結果と同様に,シスプラチンのみで上昇した.さらに,種々のPKC阻害薬を併用することにより,シスプラチンによって上昇した細胞間隙透過性が抑制され,PKC活性も低下した.最後に,シスプラチンによる細胞間間隙透過性の上昇は,OCT2阻害薬であるシメチジンにより抑制されることを確認した.以上より,オキサリプラチンとは異なりシスプラチンは,尿細管上皮細胞において特異的にPKC活性を上昇させ,腎障害を誘発することが示唆された.
[Regular Article]
標的絶対定量プロテオミクス(qTAP)に基づく発達期ラット血液脳関門における輸送体発現の可塑的変化
Omori, K., et al.
胎生期から小児期にかけて,脳は劇的な発達変化を見せる.その中で,血液脳関門(Blood-Brain Barrier, BBB)は,脳の構造的・機能的発達を支える脳内環境を制御すると考えられる.そこで,脳発達におけるBBBの役割を解明することは,小児期の薬物治療設計や,健やかな脳の発達のために脳が必要とする栄養設計を行う上で重要である.本研究では,標的絶対定量プロテオミクス(quantitative Targeted Absolute Proteomics, qTAP)を用いて,ラット単離脳毛細血管における,栄養物質・薬物輸送と密着結合を担うタンパク質の絶対発現量を決定し,脳の発達期との関係を系統的に分類した.本研究結果で明らかになった脳発達期におけるBBB輸送機能の可塑的変化が,脳内環境の維持や薬物輸送機能とどのような相関性があるのか,ヒトのどの脳発達段階に相当するのか,を今後明らかにする必要がある.
[Regular Article]
ヒト大腸がんHCT116細胞における見かけのデシタビン取り込みの数値解析-ENT1を介した取り込みに対する両方向性の一次速度定数とdCKによるリン酸化に対するミカエリスメンテンパラメーターの導入―
Ueda, K., et al.
DNAメチル化阻害薬デシタビン(DAC)は,主に受動拡散型ヌクレオシド輸送体(ENT1)でがん細胞内に取り込まれた後,デオキシシチジンキナーゼ(dCK)でリン酸化されます.また,ENT1を介した薬物の細胞内取り込みの解析には,一般にミカエリスメンテン式が用いられています.一方,我々は前報(DMPK 32, 301-310 2017)で,DACの見かけの細胞内取り込みが促進拡散クリアランス(PS)とリン酸化クリアランス(CLmet)を用いた簡単なコンパートメントモデルで記述できることを報告しました.今回,種々の濃度での[3H]-DACの見かけの細胞内取り込みをこのコンパートメントモデルを用いて数値解析することにより,[3H]-DAC細胞内取り込みの飽和がCLmetに起因する可能性を示しました.これらの知見は,薬物の細胞内取り込み機構や薬物-薬物間相互作用などを正確に理解する上できわめて有用であると考えます.
[Regular Article]
日本人における2型糖尿病病態と血漿乳酸・アラニン値ならびに乳酸トランスポーター遺伝子多型との関連性
Higuchi, I., et al.
2型糖尿病(T2D)時には代謝の変動や骨格筋の酸化能の低下が生じる.酸化能の指標である乳酸はインスリン抵抗性と関連することが示唆され,その血中及び組織内濃度はモノカルボン酸輸送担体(MCT)により制御されている.一方,糖原性アミノ酸であるアラニン濃度も糖尿病時に変動するという報告がある.しかし,乳酸, アラニンならびにMCTとT2D病態との関連は未だ不明な点が多い.本研究では,糖尿病の診断及び進展予防の一助とすべく,T2D患者83名を対象として,乳酸及びアラニン血漿中濃度,MCT遺伝子多型と各種検査値との関連解析を行った.その結果,L-乳酸は,既知の糖尿病診断マーカー(血糖値,HbA1c)及びT2Dリスク因子である肝酵素(ALT,
γ-GTP)と相関がみられた.また,これらのマーカーはMCT1多型と関連したが,D-乳酸及びアラニンとの相関は認められなかった.したがって血漿L-乳酸濃度はT2Dの進行や重症度予測因子となる可能性が示された.
[Regular Article]
ドリペネムの母集団薬物体動態解析及びPKPDシミュレーションに基づく新生児及び乳児における投与量の検討
Matsuo, Y., et al.
カルバペネム系抗菌薬ドリペネム(DRPM)は注射剤として中等症から重症の感染症の成人及び小児患者に使用されている.しかし,特に3か月未満の低年齢層への投与経験は少なく,適切な用法用量の検討は行われていない.本研究では,海外第1相試験で得られた新生児・乳児での血漿中DRPM濃度報告値に基づき母集団薬物動態モデルを構築した.また,シミュレーションを用いて,新生児・乳児に対する用法用量について検討した.母集団薬物動態解析の結果,生後日数及び在胎週数を変動要因としてモデルに組み込むことで,出生直後の急速な成熟により変化する新生児・小児での薬物動態を適切に説明できることが示され,3か月以上の小児患者での有効薬物曝露量及び目標PKPD指標達成率を基に,生後日数及び在胎週数グループごとの有効性の期待できる用法用量を提案した.新生児・乳児の薬物動態情報は貴重であり,本研究結果はDRPMの新生児・乳児での適正使用に資すると考える.
[Regular Article]
Goto, E., Horinaka, S., et al.
被検血漿にFactor Xa(FXa)を加え,FXa阻害薬存在下で残存するFXa活性を合成基質法で測定する方法であるAnti-FXa chromogenic assayは,3種類のFXa阻害薬(リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)の血中濃度を極めて良好に反映するが,試薬の基質,方法,測定機器により各薬剤に対する反応性が異なることが報告されており,3種類のFXa阻害薬の血中濃度のモニタリングには各薬剤のcalibrated chromogenic assayを用いることが推奨されている.本研究中に異なったキャリブレーションを用いて測定した同一検体において,測定値に差がないため校正曲線の比較を行ったところ,STA-Liquid Anti-Xaキット(Stago社)を用いた測定は,3種類のFXa阻害薬で同等な反応性を示した.したがって,この測定法により3種類のFXa阻害薬の残存する血中濃度(FXa活性)を単一のキャリブレーションで測定できる可能性があり,各薬剤の薬物動態のモニタリングを簡便に行うことが可能と考えられた.また,FXa阻害薬においては濃度依存性の血栓抑制作用ならびに出血事象が認められることから,各薬剤の血中濃度をモニタリングする簡便かつ有用な方法となる可能性があり今後,イベント発生時の中和薬や血栓溶解薬の適応の可否への貢献を期待する.
[Regular Article]
ヒトCYP1A1代謝反応の予測のためのグリッドテンプレートシステムの開発
Yamazoe, Y., et al.
ヒトCYP1A1とCYP1A2は,アミノ酸配列の相同性から予想されるように,基質特異性が類似しています.しかし両分子種の基質特異性に違いのあることもよく知られています.本研究では両分子種の基質特異性の異同に着目して,CYP1A2テンプレートの改変によってCYP1A1のテンプレートシステムを作成しました.CYP1A1が関わる350以上の反応について基質との相互作用を比較検討して,基質が侵入する系路やヘムが接近する酸化部位の構造を特定しました.これによって代謝を受ける基質部位だけでなく,複数の部位が代謝される場合の優先順位についても予測できるようになりました.ヒトCYP1A1とラットCYP1A1には基質特異性の違いが知られています.この違いを生じる原因についても検討し,ヒトとラットCYP1A1分子種の酸化部位近傍の環境にわずかな違いがあることによって反応性に差を生じることを示しました.