学会 道しるべ
12th International ISSX Meetingに参加して東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室
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2019年度若手研究者海外発表支援事業に採用いただき,誠にありがとうございました.日本薬物動態学会会長の山崎浩史先生をはじめ,選考委員の先生方に厚く御礼申し上げます.
Omicsデータは,その網羅性により,試料が持つ生物学的情報を反映する数値情報とみなすことができます.すなわち,例えば薬物処理をした際の細胞のOmicsデータは,薬物に対する応答性に対応する数値情報となるため,その数理解析によって薬物の作用を推し量ることが可能になります.私はこのような「Omicsデータの数理解析に根差した薬理作用の理解」というテーマで研究に取り組んでおり,今回ISSXへは,「薬物動態,異物解毒といった多方面の海外の専門家より,研究発展に資する意見・評価を得ること」を目的に参加しました.ポスター発表では海外の研究者とディスカッションする機会を得ました.一方,その内容は,研究を理解してもらうための説明が多くなってしまい,研究進展につながる意見交換の比率は低くなってしまいました.心掛けてはいたものの,分野に馴染みの薄い方に対しても伝わりやすいポスターを作成する努力・工夫(図の多用,学会に沿った事例を用いた説明,等)がもっと必要であると実感しました.
演題としては,特に二つの基調講演が印象に残りました.Dr. Leroy Hoodは,膨大なOmicsデータ解析によるヒトの生物学的寿命に関して講演されました.Dr. Hoodは,詳細なデモグラフィックデータと紐づいたヒト試料のOmicsデータを大量に取得・解析し,被験者の状態(生物学的寿命,等)の考察をしていました.鈴木洋史先生は,システム薬理学による毒性機構の解明,罹患期間の推定によるアルツハイマー病の理解,そしてクラスターニュートン法(CNM)の拡張による生体システムの理解,に関して講演されました.CNMの拡張に関する内容は,初めて拝聴したことに加え,私自身本解析手法に馴染みがあったにもかかわらず想定しえなかった新規アプローチであり,大変感銘を受けました.
鈴木先生のメッセージがまさにそうでしたが,今後,数学やデータ解析の能力が強く求められると私も思っています.当研究室でも日々意識していることですが,学生会員の皆さんには,最新の機械学習を単に扱えるといっただけではなく基礎力として数字の扱いに強くあってほしい,と改めて思いました.
今回の貴重な経験を糧に,これからも薬物動態研究に邁進したいと思います.末筆ではありますが,本事業の今後益々のご発展をお祈り申し上げます.